コメディ・ライト小説(新)
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- 声を形にする君と音をカタチにする僕。【4】
- 日時: 2022/11/19 13:59
- 名前: 希空 (ID: .s3gNE4a)
ご飯を食べ終わると、気分転換のためにふらっと外に出かけた。
いつもは人気の多い交差点にはいかないけれど、そこにはピアノが置いてあって誰でも好きな時に弾くことができる。
ここら辺に住んでいる人たちはみんな、そのピアノのことを「街の憩い(まちのいこい)ピアノ」と名付けて呼んでいる。
私はこの憩いピアノが大好きだから、昔はよく、お兄ちゃんと通っていた。
「……懐かしいな、ここに来るのも」
自分でも顔が緩んで微笑んでいる感覚があった。
苦しかった息の通りがすっと通るようになった気がして、ひとつ、深呼吸をした。
『♪~』
息を吐き終わるのと同時に、憩いピアノの流れる音楽が聴こえた。
「すごく、上手。誰が弾いているのかな」
丁度、演奏者の顔が見えない位置に立っているため、もう少し近づいてみる。
――と。
私は息を吞んだ。
「……希葉…?」
彼は音が聴こえないはずだった。
だんだんと終わりに近づいていく音を聴きながら、今の状況を頭の中で巡らせる。
……追いつかない。頭の処理が、追いつかない。
美しい指先の動きが止まって、膝に落ちた瞬間に私は戸惑いもなく人をかき分けて彼の側まで駆け寄る。
「初音……どうしたの?」
複雑な表情を浮かべながら私を見上げる希葉と眉間にしわを寄せている私を見れば、まるで家でした子供を𠮟りつける寸前の親のようだった。
ゆっくり肩を下ろし、表情を緩めると、強張っていた彼の表情も緩んだ。
「演奏の邪魔して、ごめん。話が、したいの」
私は周りの冷たい視線に喉も詰まらせながらも、話そうと伝える。
「いいよ、僕も話さないといけないこと色々あるからね」
希葉は清聴していた人に軽くお辞儀をすると、私の前を足早に歩いて行った。
――希葉は、一体どういう人なのかがわからない。
でも、きっと、神から音楽の才能を与えられたんだろうな。
そう思うと、ライバル心が燃え始めそう。
そう思いながら私は、彼の後ろをついていくことしかできなかった。