コメディ・ライト小説(新)
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- どこまでも響け。
- 日時: 2024/02/24 22:42
- 名前: 蹴鞠けまり (ID: Mr.8bf9J)
私はしがない歌い手だ。
売れてはいないが、大好きな仕事をさせてくれた親には感謝しかない。
いつもは知らない人のたくさん通る小さなステージを借りて、誰かが作った歌を歌っている。
本当なら自分で曲を作りたかったのだが、向いていない様で、何も思い付かなかった。
最近は気に入った作曲家の歌を歌っている。
この作曲家は売れてはいないが、とてもあつい何かを感じる。
これから今日のステージが始まる。
今日もその作曲家の曲を歌おうか、
マイクのセットをしていると、一人の男が話しかけてきた。
『すみません』
「はい?」
誰だろう、見たことがない顔だ。
「どうか、したんですか?」
『あの…んです』
声が小さいな…。
「はい?」
今度ははっきりとこっちを見て言った。
『僕の曲を、歌って欲しいんです』
「曲…?」
何で私に…?
「これまたどうしてです?」
『あなたの歌声を聴いたのです』
でも見たことない…よな?
『インターネットででしたけど…
僕の曲を歌って貰うにはこの人しかいないと思ったんです。』
「あぁ…なるほど…」
昔、友達に言われて一度、配信をした。
やり方がわからず、友達に頼りっぱなしで結局一度しかしなかった。
それ以来インターネットは触らなかったのだが。
「何で聴いたんです?配信は一回だけでしょ?」
彼は長い前髪の間から見える位に目を見開いて言った。
『あなたの歌に感銘を受けた人が、
インターネット上で動画にして紹介しているんですよ!
有名なんですよ!あなたは!
『顔のない歌い手』として!
僕も見つけるの大変だったんですから!』
今までより大きな声で言われたものだから驚いた。
「は…はぁ…?」
『あっすみません突然うるさくって…やっと会えて嬉しくて…』
気が付いたようだ。
「それで、どんな曲なんです?」
『えっと、「春の終わりに鳴く雨や」、「衝動へと変わり行く末」、「音無の街」とかです…。』
「…!!!」
知っている…。その曲は…
「ヒトナシさんのじゃ…?」
『!!何で…有名じゃ無いですよ…?』
「私の…よく歌わせて貰ってる歌…だから…」
何で?コイツがそうなの?
『嬉しい!僕の曲は一部の人にしか知られてないんだけど、結構自信作ばっかりなんだ!』
「えっと…あなたが…ヒトナシさんなの…?」
『そうです!あ、これ…歌って欲しい曲です!』
そう言って彼は楽譜を差し出した。手書きのようで、鉛筆の跡が擦れて汚れている。
よくヒトナシさんの曲にある雰囲気がある。
なんだかよく聴きやすくて覚えやすそうだ。
ためしに、少し口ずさんでみた。
耳に残りづらそうな旋律だが、私には覚えやすいようだ。
『…!』
彼の目に涙が浮かびはじめた。
慌てて歌うのをやめる。
『もう…覚えたんですか…?』
泣きながら聞く彼の後ろにはたくさんの人だかりができていた。
「私は、覚えやすいみたい。相性いいかもね。」
今は、人がいるなら歌わなきゃ。
「楽器は弾ける?」
『キーボードなら!』
「じゃあ今からこれ」
楽譜を彼に返す。
もう覚えたから必要ない。
「お客さんに聴かせるから弾いて」
『わかりました!』
こうして私たちは今日のライブを新曲発表会にした。
何故か有名なボカロPさんや歌い手さんが集まっていたようで、
久しぶりに配信サイトを開こうと、インターネットに入ると、
メッセージがいっぱいだった。
僕の歌も歌って下さい、私と一緒に歌いませんか、一緒に曲を作りませんか、等、メッセージだらけだった。
彼に教えてもらい、配信を始めるとすぐに人が集まった。
リクエスト式で、いろんな歌を歌った。
彼には伴奏とハモリを頼んで一緒に演奏した。
今までよりもっと、楽しく演奏できた。
彼とユニットを組むことにした。
私は自分に新たな名前をつけた。
ネイロ。
単純過ぎたかもしれないが、結構気に入った。
これからは、楽しくなりそうだ。