コメディ・ライト小説(新)
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- 声を形にする君と音をカタチにする僕。【6】
- 日時: 2022/12/13 17:14
- 名前: 希空 (ID: UIcegVGm)
〈希葉目線〉
――そう、僕はいじめられてた。
最初は無視から始まった。でも、そこまで苦痛じゃなかった。
「ただ聞こえないだけ」「ただのお遊び」
そう自分に言い聞かせて、小2の夏休みまでずっと過ごしてきた。
夏休みが明けてすぐ、僕は体調不良で休んだ。
一週間ほど休んで、久々の学校へ行ったとき異変に気付いた。
物が盗まれる、捨てられる、机への落書き、バケツの水を浴びさせられる……
よく漫画で見るようないじめの代表的な行いが自分に降りかかっているのだと実感した。
そんな状態が二か月続き、いじめが次第にヒートアップしていく。
苦しいと感じているはずなのに、それが日常となっていくにつれて自分でもどう感じているのかがよくわからなくなっていた。
そんなある日の掃除時間だった。
いじめの主体となっている、ある男子生徒がゴミ袋を片手に、目の前へ差し出してきた。
「……えっと……」
うつむいて口をぱくぱくすることしかできない僕の耳にメガホン型にまかれた教科書を当てて、大きく息を吸った。
「~~!!!!!!」
なにを言ったのかもわからなかった。
ただただうるさくて、耳が痛くて。
その直後にみんなは僕を見ながら指さして笑ったり、面白がったり。
僕の目に映るクラスメイトの笑い顔は、無音だった。
その時、ようやくわかった。
僕は「音が聞こえてない」と。
やりすぎた、行き過ぎた彼らの行いで僕は生涯、音を聞くことができないんだなと思った。
少し経って、先生が教室に入ると僕の行動に怪訝そうな顔をした。
「どうしたの?」
きっと、そう言ったんだと思う。
ずっとうつむいてきたけど、顔を見ないと、口を見ないと、なにを話しているのかがわからない。
ひたすらに、「音が聞こえない」と開かない口の奥で叫んでいるだけで時間は過ぎていった。
放課後、お母さんに出来事を筆記で説明すると、即座に病院に向かった。
やっぱり、もう聞こえなかった。
「補聴器をつけることをおすすめします」
そう説明されて、言われるがままに補聴器の購入を決定した。
『迷惑かけてごめんなさい』
泣きながら謝ることしかできなくて、すすり泣く僕をお母さんが「なにも悪くない、よく頑張ったね」と、優しく頭をなでてくれた。
結局、学校は転校したけど、僕は行かなかった。
「なにかあったら」が怖くて、昔貰ったギターを抱えて一人、泣いていた。
どこか、深海にいるような気分で音だけが真っ暗だった。
そんなある日、部屋でなにか面白いものはないかと、ネットを開いていた。
「失ったものは取り返せない。」
どこかできいたことのあるフレーズに救われたことを今でも鮮明に覚えている。
――それが、「*hatune」だった。