コメディ・ライト小説(新)
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- 4月1日
- 日時: 2023/07/19 19:46
- 名前: ジョン亭メイヤー (ID: gksmjqey)
予め読者諸賢に伝えておきたい。私が以下書き連ねる小説もどきには、一部刺激的な描写や差別的とも捉えられる箇所がある。しかし、私はただの嘘つきのちゃらんぽらんであり、差別主義者でもなければ読者諸賢にセクハラがしたい訳では無い。誓ってそういう訳では無い。ご理解の上で、私の小説もどきにお付き合い頂きたい。
事の始まりは3月の初旬、まだまだ肌寒さが目立ち、昼の数時間の間にだけ春の片鱗を感じる時分である。私は彼女に出会った。出会いはもちろんTから始まる某マッチングアプリである。私は待ち合わせ場所に30分前から待機し、レンズをくり抜いた伊達眼鏡の位置をかしゃかしゃと動かしながら彼女を待った。20分後にベースを背負った猫背の彼女が私を見つけ、自己紹介を5秒ほどした後、我々は行くあてもなく歩き始めた。彼女は大学1回生で、ベースを始めたばかりということで私がベースの指南をすることになったのだが、「スタジオは明るいから嫌」というよくわからない理由で私の家でベース講習会を開く運びとなった。彼女は初対面の男の家にベースを持って上がることになんら抵抗のない女性だった。彼女の名誉のために補足すると、彼女は誰に対してもそのようにしているわけではない。ちなみに真偽は定かでは無い。そうして私の家でベース講習会を開き、メタリカのベースを1曲通して教えた後、彼女に誘われた為私はレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーの如く服という服を脱ぎ、ロックンロールのなんたるかを小娘に体得させた。
その日から彼女は毎週木曜と土曜の夜に家に来るようになった。何度か来るうちにデェトなるものに誘おうかとも考えたが、彼女は恐らく吸血鬼か何かであった為、頑なに昼間出歩く事を嫌い、明るい場所で私と向かい合うことを嫌った。彼女は家に入るまでは決してマスクを外さなかったし、我々が会うのはいつも私の家で、その度に我々は全裸でロックの何たるかを体得した。ロックの研鑽が終われば同じ布団で眠り、私が翌日学校に行くのと同時に彼女は吉祥寺まで帰っていった。
5回目か6回目の来訪の時、その日はいつもより長く激しい研鑽だったため、私が白目を剥きながらたばこをぷかぷかさせている時、彼女が私に向かって何か言っているのが聞こえた。私は白目を剥いていたので、特に何も考えず聞き返しもせず「あぁ、いいね」と答えた。どうやらこの時彼女は「私の恋人になりたい」といったようなことを私に向かって言っていたらしく、図らずも我々は恋人関係になってしまった。この日が何日だったかというのは記憶に無いので、仮に4月1日とする。
彼女は明るく朗らかで、顔立ちもかわいらしく、背が高く、切りそろえられた金色のボブカットの髪が良く似合う女性だった。1回生の持つ初々しい輝きを持っていたが、私のようなべちょべちょ3回生のもっさりジョークを聞いてカラカラと笑う不思議な感性を持っていた。一方で人の話を聞くのがどうにも苦手だった。私は何度も彼女と話す中で人知れず腹を立てたが、なんだかんだと関係を続けていた。その後も関係を続ける中で彼女に対する不満というのは大きくなり、私の許容範囲を超えるようになった。彼女への不満の詳細は7000字程度では書ききれないので割愛する。そしてなんやかんやあり、我慢できなくなった私はついに彼女と別れることを決意した。7月10日のことである。
次に彼女と会えるのは7月13日の木曜日、その次の週にはライブやらテストやら歯医者やら、用事という用事がぎちぎちに詰まっており、なんとしてもこの日に彼女と別れ、渡していた合鍵を返してもらう必要があった。なんといって別れるべきか、どういう理由を彼女に伝えるべきか、これといった名案が出るわけでもなくその日はやってきた。
学校が終わり、部活が終わったあと私は電車で八王子から吉祥寺まで向かった。東中野で起こった人身事故の影響で中央線は大幅な遅延や運転見合わせをしていた。立川まで耐えたあと私は色んな電車に飛び移り、予定より30分遅れて吉祥寺に到着した。急いでいたため、どこかで伊達眼鏡を落としてしまったが、気にする余裕は無かった。私は終電で帰る予定だったため、駅から彼女の家まで30分ほど一緒に歩いて送っていき、その後帰ることにした。彼女の家までの帰り道、なかなか別れ話を切り出せず、とうとう彼女の家まで着いてしまった。私は焦りに焦り、「1本付き合ってくれないか」とたばこに火をつけた。ニコチンの力を借り、何か名案は無いかと考えに考えた。
そして彼は何を思ったか、こんなふうに切り出した。
「すまん、私はお前に謝らなければいけないことがある。」
彼女は何かを察し、「言いたくなきゃ言わなくてもいいよ」と返した。ところがそんなことで彼の気が済むわけでもなく、ババロア状の脳みそでこう続けた。
「私はお前以外の人間と行為に及んだ。」
「んー、その子かわいかった?」
「かわいい顔ではあった。だがなぁ」
「何よ」
「自分でも信じられないんだが、男の子なんだ。」
そう、彼のババロアブレーンは、自らをゲイにする事で彼女を諦めさせようというなんとも大胆な作戦を生み出した。当然彼女は唖然、先程まで恋人を映していた目にはただの小汚いゲイが映っており、とてつもなく大きなため息をつくばかりであった。そこから彼女は、女の子を抱くことはもうできないのか、彼が男を好きになる前兆はあったのか、などといくつか質問をしたが、彼の答えは彼がゲイであることを助長するものばかりであった。もちろん、彼はゲイではないし、男を抱いた経験もない。追い詰められた彼のババロアブレーンがこのような頓痴気な嘘を捻出したのだ。そこから小一時間彼と彼女は2人の思い出に浸り、時々ゲイであることを罵倒し、謝罪し、感謝し合った。驚くことに、彼の作り話に彼女は涙を流して同情してくれた。「でも、辛いのはお前だよね」などと、1回生の女学生が到底言わないような漢気溢れる言葉をかけてくれた。そして2人はがっちりと握手をして、手を振って別れた。彼は彼女の方を振り返ることはなく、前を向いたまま角を曲がるまで手を振り続けた。
帰り道彼は自分のババロア脳みそが生み出した作戦を振り返り、自分の愚かさに涙した。彼女と真剣に向き合うべきだったのか、もっと他にやり方はあったのか、今となっては手遅れである。結局彼は終電を逃し、XJAPAN好きの運転手のタクシーに乗り込み、吉祥寺から八王子までサンボマスターを聞きながら揺られていた。世界をそれを愛と呼ぶのなら、彼のそれは一体何と呼ばれるのだろうか。私の知ったことでは無い。