コメディ・ライト小説(新)

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家の前で男の人が倒れてたから拾っただけの話
日時: 2023/07/23 00:59
名前: 〇も不 (ID: XWWipvtL)






 梅雨の時期に入って暫く、今日も誰もいない自宅に帰ってくると玄関前にずぶ濡れになった知らない男の人が倒れていた。一瞬、これは現実ではなく、よくある漫画とか妄想の世界の話だろうと思ったが、雨粒が跳ねて制服のシャツが少し濡れたことに気付くと、あぁこれリアルなのか、とはぁ、ため息をついた。




























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 閲覧、拝読していただきありがとうございます。
まだ書くことにあまり慣れていませんので、よければ感想などいただけると嬉しいです。














Re: 家の前で男の人が倒れてたから拾っただけの話 ( No.1 )
日時: 2023/09/29 00:12
名前: 〇も不 (ID: XWWipvtL)



01#『あなたはだれ?』
 雨はまだ降り続け、少しずつ雨音が大きくなっているような気もする。ため息にも気づかず、人の家の玄関前で横たわるこの人のことを今のうちに観察することにした。男性、見た目からして同世代ではなさそうだけど、なら大学生とか社会人とかってこと? それとも、それ以外のやばい人? 身体は筋肉感が殆どなく、ひょろっとした感じ。顔はよく見えないが、綺麗そうに見える。にしても、この雨のせいで匂いを殆ど感じ取れないので、どんな経緯でこうなったのかとかは聞かないとわからなそうだ。そしてその体はとても冷えていた。はぁ。二度目のため息を吐くと、その男性の肩を揺らす。

「あのー、起きてもらってもいいですかー」

 体全体を揺らしながら声を掛けると、意識が目覚めたのか声にならない音を鳴らして体を伸ばしそうとしたが、すぐに縮こまった。そりゃ、寒いか。徐に開かれていく瞳がきっと私のことを捉えたのだろうか。もしかしたら、ひよこも最初はこんな風に母親のことを見つめていたりしたのだろうか。ひよこじゃないから、にわとりでもないからそんなのわからないけど。そこで少しずつ意識が覚醒してきたのか、表情に焦りが見え、

「ほんと……すんません、でした!」

 先ほどまでの様子とは打って変わり、高速土下座からの謝罪。家には誰もいない。こんなのを誰かに見られるのも嫌だったし、私も早く室内に入りたかったから何も言わずに肩を叩いて、その人がなんで? という表情をしているのを無視したまま、ジェスチャーで入れ、と示すとその人は何も言わずにゆっくりこくこくと頷いて見せた。私が鍵を差し込んで扉を開けると、入らないんですか、とでも言いたげな表情をしていたので目線で先に入れ、と動かすと素直に受け入れて二人は人気のない家に上がっていった。

その人は私の後ろをずっとついてこようとしていたが、彼は顔も髪も服も何もかもずぶずぶだったからそれは困る、とリビングに案内してここで待ってて、と伝えると、無言で頷いて棒立ちをしていたから、私は洗面所の方にバスタオルを何枚かを取りにいって再びリビングに戻る。暗い表情をしているこの人だが、普通の身長くらいの私と比べても背が高いのによく痩せてて、でもモデル体型って感じはしないけど。ずっと不安そうな表情をしているし。思わずじっと彼のことを見ていると、目線があってしまう。それを気にしないようにするフリして、声を掛ける。

「これタオルです。服は申し訳ないですがないのでそちらのタオルで代用して、お風呂であったまってください。まぁ、溜めてないんでシャワーで、ですけど」

「……え、あの、そんな風にしていた、だかなくても」

「入ってください。風邪をひかれてもこちらが困りますので、とっとと入ってください。話はそれからです」

 ずっと混乱しているようで体格のわりに弱弱しい様子がちぐはぐだった彼を強引にお風呂場まで押していき、入ってください。と何度も伝えると、彼も折れて、謝りながら服を脱ごうとしたので私は慌てて退散した。
 本来なら私もさっさとシャワーを浴びたかったから少し濡れた制服のままあの人が戻ってくるのを温かいココアをちびちび飲みながら待っていた。そういえば、ドライヤーの場所わかるかな。教えておけばよかった。何故かこのタイミングで睡魔に襲われうとうとしていると、何か近づいている気がした。

「んん……な、に?」

「……寒そうですね。借りた身がなんですが、温まれては」

 背もたれのない椅子の上、眠気の中、きっとあの人に包まれた。シャワーで温まったその人は何故私のことをこうして包み込んでくれたのだろうか。

「……その前に話を聞かないと。お気遣いはありがたいけど……ちょっと待ってて」

 バスタオル2枚で全身を隠すようにしていたその人はやはり髪は濡れていた。ドライヤー持ってこないと。髪濡れたままじゃ、何のためにシャワー使わせたんだ。

「……そのまま座ってて。軽くでもいいから乾かしておいた方がいいから」

 いや自分でやります、と口が動いたような気もしたが、素直にその人は言葉を受け止めてそのまま座っていたからドライヤーで温風を出して乾かしていく。こんな風に誰かの髪を乾かすことなんて今までなかったからこう乾かしているのがおかしくないだろうか、と不安になる。でも、自分からやるって言ってしまった以上、自分でやれ、だなんて言えない。
きっと、というかどうせおぼつかなかったであろう手つきで髪を乾かしていった。

「ごめん、乾かすのに時間かかっちゃって」

 声が小さくなってしまった。この人に余計な心配を掛けてしまうかもしれない。

「むしろ、乾かしてくださってありがとうございます……でも、本当にお風呂に入らなくて大丈夫ですか。何度か咳してました、よね……?」

「アレルギー性のやつだから、雨のせいじゃないんで気にしないでください。それに知らない人を置いてお風呂になんて入れないですから……だから、まずはあなたのこと、教えてもらいます」

 あぁ、なんでこんな言い方しかできないんだろう。もうちょっと、人を不快にさせない言い方があっただろうに。リビング、ダイニングテーブル4人用。向かい合って座ることにした。女子高生と恐らく成人男性?が対面する景色、はたから見たら異常か。そんなことを考えていると、その人は色々と教えてくれた。

 名前は「皇崇」。26歳。昨日、会社を抜け出してきて、ひたすら歩き続けていたら雨が降って雨宿りしようとここに来たらそのまま寝てしまったそうだ。会社はもう嫌だからやめる予定、と笑顔で伝えてきた。無理くり笑顔を作るな。

「……家に帰ればよかったじゃないですか」

「あー……それが……昨日燃えちゃって……」

 燃えた……? え、もしかして?

「そうそう、なんかニュースになってたみたい。今日、親から電話来ててね……本当に、どうすればいいんだろうね」

 そんな目で私を見ないでくれ。心が苦しくなる。無理やり笑顔を作られても困るんだ。

「あっ……ごめん。こんなこと話されても困るよね。ごめん……」

 沈黙が怖い。この気まずい空気をどうすればいいのだろうか。

「……あの、これはちょっとした提案なんで冗談と思ってもらっていいんですけど」

 そう切り出すと、皇さんは首をこてんと傾げ、何を言い出すつもりなんだ、と言いたげだ。
深呼吸して何故か走ってた心を落ち着かせてから、

「一緒に……住みま、せん、か……」

 言葉尻に向かっていくと勝手に私の声が小さくなっていったが、この声をこの人は捕えてくれたくれたのだろうか。無言ながら、その人はその目を大きく開かせていた。それから何度も瞬きして、

「……それ、本気で言ってる……?」

 目が泳ぎ始めた。この状況に混乱しているのだろう。何があって、女子高生から1つ屋根の下、「一緒に住みませんか」と言われることがあるだろうか。どうして、そんなことを考えずに私はそんなことをこの人に提案してしまったのだろうか。でも、そんなの私もわからなかった、としか言えない。口から出てしまった言葉は回収できないのだから。

「どのみち、住む場所ないのならそれまで泊っていけばいいじゃないですか……私、一人暮らしですし……」

「……家もない職もない成人男性が居てていいの?」

「居ていいからこんな風に言ってるんです……じゃあ私のこと、嫌ですか?」

「いや、あそこで倒れて不法侵入したのにこんな優しくしてもらって本当に申し訳ないと思ってるけど……女子高生と成人男性が一緒に暮らしてるのとか……気にならないの?
泊まらせてくれる、って話自体はすごく魅力的というか、その……ありがたいし」

「……」

 はぁ、ため息が出てしまいそうだ。そしてこの重い空気を無理やり吸い込んで、

「じゃあ、この家にしばらく泊ってください。そうしないと警察に通報します」

 この私の言葉に彼は観念したように軽く微笑んで

「わかったよ、それまではしばらくお世話になるよ」

 ほんの少し、雨脚が弱まった気がした。




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Re: 家の前で男の人が倒れてたから拾っただけの話 ( No.2 )
日時: 2024/02/06 21:14
名前: ◯も不 ◆Jx1Vgc1Dso (ID: XWWipvtL)



02#『初めての食卓』

空がすっかり暗くなる頃には雨は止んでおり、私たちは食卓に並んだ2人分の食事に向かう。二人で食べるつもりはなかったが、私が夕食を作ろうとしたら、身体冷えてるから先にお風呂に入ってください、とお願いされてしまって、それに従った結果だ。冷蔵庫には2人分の食材を用意したつもりはなかったが、何日かにわけて同じおかずを食べようとしていたから結果的には足りていた。まぁ、計算は狂ったけど。箸も予備で使ってないのがあったからそれを使ってもらうことにした。それから使ってない、でいうと余ってる部屋もあったから皇さんにはそちらを使ってもらおうか。
皇さんはそこに食事があるのに手を付けようとしない。メニューが好みじゃなかったのだろうか。それとも、潔癖症とか? まぁ、その線は考えられないなら、好みの問題か?

「もしかしてポトフは好みじゃなかったかしら」

皇さんはそんなことはない、と首をぶんぶん振って否定して

「勝手に泊まらせてもらってる立場なのに先に食べるわけにはいかないじゃないですか」

それもそうか。彼なりの配慮か。私がそれを察することができなかったのが悪かったのか。ならばと、いただきます、と小声で手を合わせて副菜のアボカドとトマトの和え物から手に付ける。そうすると、正面からもいただきます、という声が聞こえて一安心。
 食事をしながらも、目の前の人物を凝視してしまう。これはあまりにもよくない。皇宗すめらぎたかし。昨日会社をバックれたら家が燃えていてどうしようもなくなって、私の家の前で倒れていた人。お風呂に入ったからか、少しさっぱりしているような気もする。初めて見た当初は雨に濡れてもっさりとしていた少し長めの黒髪もすっきりしている。あぁ、私の目の前にいる人、世間で言うイケメンとか言う奴なんじゃないか? まぁ、ただ倒れてきたあの状態だとそんなオーラとかもなんにも感じなかったけど。そんな私の失礼とも言えよう視線は気づかれたようだ。

「どうか、しましたか……?」

 彼のその言葉にううん、と平成を装いつつ首を振る。彼は本当に? とでも言いたげな視線を残しつつ、目の前のポトフをまた食べ始めた。きっと、大丈夫だろう。私ものんびりと食事をしていると、彼の目の前の皿は空になっていたことに気づく。

「台所の方にお皿置いてもらって大丈夫ですよ?」

 はっとした表情をした彼はこくこくと頷いて、台所の方へ向かうと少し迷いながら皿をシンクに置いてまた戻ってきた。

「そうだ、この家のこと何も案内してなかったですね。まぁ何にもないところですけど、紹介させてください。一緒に暮らすんですし」

 彼は何も言わず、またこくこくと頷いて、私の後ろを付いてきた。

「ここが今使ってない部屋。だからここを好きに使ってください」

 最後に連れてきたのは2階の空き部屋。掃除こそしてあるが、家具などは要らないからと殆ど処分されている。殺風景な部屋だ。

「わざわざお部屋まで……自分なんか床で寝ますから!」

「いえ、それこそ邪魔になるんで……部屋も使ってもらった方が喜びますから使ってください」

 私の言葉に彼はうん、とこくりを頷いてくれた。

「とりあえず、明日からどうされますか? もう仕事はバックれるんですよね? やめたんですよね? 買うものとか仕事とか色々必要なのありますよね?」

 あ、やばい。質問攻めだ。彼はどんな表情をしているのだろう。うわぁ、なんとも言えない顔をしていた。

「取り敢えず仕事は探す。バイトでもなんでも。料理とか他に手伝えることもするんで! 家具とかそんなの二の次ですよ、先に出てかないと」

 この人、自分のことなんだと思ってるんだろう。

「あの、崇さんみたいなビジュアルなら稼げると思いますよ」

 口から思わず出たのは一番口に出すな、と思われる言葉だった。もうちょっと、他にあるだろ。自分にツッコミを入れた。ビシィ。

「ビジュ……?」

 あ、ビジュが伝わらないパターンですか。

「……崇さん、SNS何かしてますか?」

 SNS、と聞いてあ〜、とあれだよあれ、と言いたげな顔をして

「顔本とかトリッターとかだっけ?」

「あー、それもう古いですよ」

「え、嘘」

「まぁ、明日は私お休みなんで近所の服屋さんとか色々見に行きましょ。最低限買わなきゃいけないものもあるんで」

「歩き、ですか?」

「歩きです。それか、免許持ってるなら車でもいいですよ」

 まぁ、車といっても近くにあるレンタカー屋のことだけど。

「免許はありますよ……車で行きましょう。徒歩で行くなんて人のすることじゃないですから」

 この人、そういう冗談も言うらしい。この後、謎の沈黙と共に彼の切り出した「寝ましょう、明日もありますし」の一言に納得し、眠りにつくことにした。

 朝。遮光カーテンなんてないから、僅かな朝日に目を開けなさい、と言われて、渋々目を擦って意識を覚ましていく。目覚めは正直よくない。今ベッドに横になると間違いなく二度寝をするだろうな、と思いながら一階の洗面台に赴く。冷水を顔にぶっかけて、鏡を見る。なんの変哲もない、ただの顔。あー、メイクしないと。あと朝ごはんも作らないと。どっちから先にしよう、と悩みながら保湿をしていたが、結局先に朝ごはんを作ることにして、キッチンにそのまま向かう。
 毎日誰もいないはずのキッチン。今朝もそうだった。よし、と声を出して、包丁を取り出す。宗さんが朝はパン派かご飯派か。食べない人なのか。わからなかったので、郷に入っては郷に従えをしてもらう。お米は昨日炊いてあったので保温モードにして、先にさっさとみそ汁を作ってしまおうか。今日の具材は玉ねぎと豆腐にしておくか、と玉ねぎを切り始める。高校生になって一人暮らし、誰も料理をする人がいないからするしかなくて始めた料理。人並みにはできるようになったと思う。鍋がぐつぐつ言わせていたから火を止めてかつお節を入れて黙らせる。そうして暫く待つと、かつお節は勝手に沈んでいくので、そこでざるで濾す。これが1番だし、だそうだ。またそのだしを鍋に戻したら温めていく。味噌を溶かして、玉ねぎと豆腐を入れてもう少し待てばみそ汁は完成だ。余ったかつお節はほうれん草のおひたしに混ぜればいいし、おかずは卵焼きでいいのだろうか。誰かのために料理を作るのが好きではないけど、自分が好きなものを食べられるから料理は好きかもしれない。料理にら没頭してる時間は他のことを考えなくても済むから。卵を切るように混ぜながら、そんなことを思う。料理してる動画も好きだし。
 よし、できた! 簡単な朝食ではある。でも、この簡単すら最初は困難だったのを思い出す。包丁すらまともに使えなくて、マルチタスクにこなすなんてできなかった。些細な成長を感じられた。
 時刻は8時少し前。休みにしては早い方なのだろうか、遅いのか。まだ崇さんが降りてくる様子はないようだった。起こしに行くべきなのか? でも今日は家具を買わないといけないから早く起きてもらった方がいいだろうし……。少しばかり考えても、上から物音はしなかった。ので、考えるのを諦めて、私は2階に向かうことにした。
 崇さんの部屋の前。物音はしない。つまり、起きてすらいない、と思われる。ドアを3回ノックするが、反応はない。次はもっと大きくノックをしてみた。が、これも反応がない。ドアに鍵は掛かっていなかったが、異性の部屋に入るのは憚られる。どうしようか。この間に起きてくれればいいのだが、耳を澄ましてみても起きてくるような音は聞き取れなかった。はぁ、と一つため息。意を決して入りますよ、と声を上げた。期待を込めて少し待ってみたものの、反応はない。あぁ、仕方ない。ガチャ、とドアを開ける。
 少し乱れた掛け布団。全く起きる気配のない顔。ベットに近づいて、あの! と大きな声を掛ける。起きて、起きてください、と何度も声を掛ける。布団から出ている顔は何にも変わらない。この人、なんでこんなに起きないんだ。
 これも仕方ない、と掛け布団を少し避け、体を強引に揺らす。その間も起きて、と連呼を続けた。すると、次の瞬間ぐわんと視界が揺れて、何かに思いっきり引き寄せられた。


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