コメディ・ライト小説(新)
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- チャイムが鳴るその日まで
- 日時: 2023/10/13 21:42
- 名前: 三城遙 (ID: 4NhhdgqM)
三城です
お願いします
- Re: チャイムが鳴るその日まで ( No.1 )
- 日時: 2023/10/14 13:32
- 名前: 三城遙 (ID: 4NhhdgqM)
ホームルーム
噎せ返るほどの湿気と暖かな春の香りを含んだ風が、日差しとともに窓から流れてくる。
完全防音の音楽室に一人だけ、僕は春を感じていた。
中学部の体育館では今ごろ入学式が行われているだろう。僕はサボりというわけだ。
一台のピアノがあった。黒くて艶かしい光沢を放つ、グランドピアノが。
その蓋を開けてみれば、白と黒の鍵盤が顔を覗かせる。
鍵盤に手を乗せて力を込めてみれば、柔らかく暖かな音が鼓膜を伝って僕の全身へと心地よく溶けていく。
少しだけ僕にとっては低い椅子に、高さの調整もせずに座って両手を鍵盤に置く。叩いていけば、和音を積み重ねてメロディーが音のしない音楽室を彩っていく。
曲名などは覚えていないが、クラシックというのは分かる。
「____ショパンのノクターン、ね。いい曲じゃないか」
ハスキーで、けれども透明感のある溶けるような声。
先ほどまでの心地よさは消え、焦りとともに手元を見つめる。
背中に悪寒を感じながらも、ゆっくりと声の主を見ると、長い黒髪に長い睫毛。すらりとした長い足、透き通る白い肌。その美しさに、思わず目線が動かせなくなる。
「君は中学部、今日は入学式だろ?」
「ぁ、え...」
喉が上手く振動せず、思うように声が出せない。
自分の心臓の音が、大きな滝のように響いてうるさい。
「大丈夫、別に責めてるわけじゃない。私もサボりだから」
目の前の少女は近づいてくる、一歩ずつ。
制服を見れば高等部の人間であることがわかった。
すると彼女は手を伸ばし、真っ白な歯を見せて笑った。
「私はカコ、でも師匠と呼べ。君は?」
「僕は____」
名前を言ったのは初めてな気がする。小さい頃からずっと名前を覚えてもらえなかった、だから言う必要はなかった。
「なるほど、でも私が師匠なら君は弟子だ」
手を取ると、勢いよく引かれて椅子からよろめきながらも立ち上がる。
師匠の身長と僕の身長はどうやら師匠の方が大きいらしい。
「なんだ、よく見たらかわいい顔してるじゃん」
真っ黒だけどビー玉みたいに透き通る双眸が、大きく見開かれた。
これが、僕と師匠の出会いだった。
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