コメディ・ライト小説(新)
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- それをデスゲームと呼ぶには、緊張感がなさすぎる。
- 日時: 2023/10/14 23:48
- 名前: 院近多無視 (ID: dOS0Dbtf)
第一話 おはようボンジュール
朝の通学路、それは存外音に満ちている。小鳥の鳴く声、車の音、主婦たちのおしゃべり……しかしそれは僕の耳には届いていない。なぜなら僕はイヤホンをしており、そこからそれなりに大きな音で音楽を聴いているからだ。僕の通う高校は校則が緩く、そのためイヤホンをしながら登校する生徒も少なくない。そんなだから偏差値50を割るんだ、近所からはそう陰口叩かれている。しかし何はともあれ僕は、気持ちのいい朝を好きな曲を耳にしながら歩く気持ちよさを、毎度のことながら謳歌していた。そう、思わず聞いている歌を1人でに歌ってしまうくらいには。
「ああ〜マロニエに〜♪歌を〜口ずさみ〜♪花の都〜に、咲く勇姿〜♪」
主婦たちが僕を見て指差しながら口を隠して如何にもヒソヒソと話してるので若干心にきたが、何を言われてるかはわからないのが幸い、僕の奇行を止めるには至らない。
「ああ〜素晴らしい〜♪巴里歌劇団〜♪夢と希望と明日と、正義を讃える〜♪」
気持ちよく歌を歌いながら(周りの人からすれば気持ち悪くかもしれない)登校するのが僕の日課だ。近所で歌劇派高校生と呼ばれて半不審扱いされてるのは無視する。
校門の前に着くと、同級生達が見えてくる。流石に同級生の前では歌わない。それくらいのプライドを持っている僕は、この学校の中では良識派と呼べるだろう。それくらい、この学校の上澄み……いや下に沈殿してる奴らはやばい。
下駄箱で靴を履き替えていると、背中を叩かれる。振り返るとオールバックのイケメンが。
「よっ、歌劇派くん!今日も熱唱ご苦労様っ!」
こいつは高柳光敏、僕の同級生だ。マトモを気取っているが、入学してからの10ヶ月間、盗撮で5回停学を喰らっている。因みにその盗撮写真は同級生達に一枚3000円で販売される。僕のオキニは女子大生のブルーのランジェリーの奴かな。
「お前もなー、よく毎朝恥ずかしげに歌えるよな!しかも古いアニソンとかゲームの曲ばかり……」
「駅員に顔覚えられた奴に言われたくないよ。」
辛辣に言い返すと僕は階段を上がる。こんな犯罪者でも、成績はマトモなのでこの学校では健常者側だ。教室に入ると、金髪でイカつい顔をした男が騒いでいる。こいつが多分この学校で10番目くらいにやばい奴。名前を工藤辰夫と言う。こいつの馬鹿さ加減は凄まじく……ライオンが卵から生まれてくると思っている。
「よお西島!聞けよ、昨晩オカズにした女優がよお!」
僕の名前は西山であって西島ではない。そして、多分この学校で最も議論されているであろう事を開きもせず口にする工藤。
この学校で悩むことといえば、男子は至高の(シコうの)AV、女子は男子にヤラセてあげる対価のお金の話と相場が決まってる。
そんなこんなで、8時20分には7人の生徒が席についていた。あとは遅刻である。因みに7人のうち3人を占める女子、さらにそのうちの1人は妊娠経験がある。しばらく談笑していると担任が入ってくる。
「おっ、今日はいつもより多いなー。感心感心!」
僕らのクラスの担任の金子先生45歳。バツ3で、結婚せずに産ませた子供も含めて8人に養育費を支払っている。
7人ぽっちの教室で点呼を取っていると、突如教室の電気が消え黒板のプロジェクターが開く。
「ボンジュール。ようこそみなさん、デスゲームの会場へ。」
画面に映し出されたピエロ風の仮面を被った如何にもな男。当然クラスは騒ぎになる。
「なっ、なんだこいつ!?いきなり……!」
「誰の悪戯だ!?」
僕の予想ではこれは生徒の悪戯ではない。こんな大掛かりな事をできる能力を持った奴はこの学校にいないからだ。他のクラスも同時に放送されているらしく驚きの声がこだまよろしく連鎖する。仮面の男はこちらの様子もカメラで見ているらしい。
「それでは君たちへ……えっ?1-3と2-4のプロジェクターが壊れてて映らない!?そ、それは後で対応する!」
学校の備品が壊れていくらいは当たり前だ、このくらいの不備は起こる。
「えー、気を取り直して……って、人少なない!?」
仮面の男は最初のミステリアスな雰囲気はどこへやら、慌ててしまっている。どうやらどこのクラスでも出席率は似た様なモンらしい。ていうか、なんでこの学校をターゲットにしちゃったんだろうか、この人は。
「……ええいっ、ままよ!……失礼、取り乱した……先程も言った通り、君達をデスゲームの会場に招待しよう。勿論、拒否権はないがね。それでは簡単に説明を……」
この男は近いうち、最初から言い直すことになるだろう。このクラスだけでも7人中4人がスマホで「招待」と「拒否権」の意味を調べているからだ。この学校の生徒に、何かしながら話を聞く高等テクニックを身につけたものはいない。数分後には、「聞いてなかったから言い直して」の声が響く筈だ。僕はよりにもよってこんな学校でデスゲームを開いてしまったおマヌケな主催者を思って、同情するのだった。
「……と言う訳だ。ご理解いただけたかな、ムッシュ?」
……可哀想に。格好つけのフランス語を決めておいて一から言い直しさせられるなんて……もし僕がそのデスゲームとやらを生きて終えられたら、主催者の頭を撫でて励ましてやりたいものだ。