コメディ・ライト小説(新)

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花売りは唄う。
日時: 2024/09/23 11:50
名前: Rino (ID: MlM6Ff9w)

「花は、如何ですか?」
雪の降る月夜の晩、彼女は現れる。
セレスト色の頭巾を被り、鮮やかな色の花を籠に摘んで。
「お嬢ちゃん、寒いだろ。中に入りな」
こんな真冬に華奢な彼女を外に出すなんて、死ねと言っているのと同義だ。
しかし、彼女は肩をすくめて困ったように笑う。
「お気になさらないで」
14、5歳だろう。まだまだ子供なのに、瞳だけはとても大人びていた。
長い睫毛を伏せ、もう一度ほのかに笑った後に「花は、如何ですか?」と訊ねる。
「…もらうよ」
「ありがとう。どの花がよろしいですか?たくさんありますよ」
花いっぱいの籠を、満面の笑みで見せてくれる。年相応の笑顔を見た気がして、安心するも胸が苦しくなった。
「おすすめは?」
「こちらです」
白い手が迷わずに掬い取ったのは、黄色く甘い香りのする花。
「ツワブキ、と言います」
「いくらだい?」
倍の金額を差し出すと、驚いたように顔を上げた。
「こんな、頂けません…」
「チップだ。受け取ってくれ」
何度も礼をして、静かに立ち去った。
その背中を、無常にも雪が隠していった。

「花は、如何ですか?」
「もらうよ」
次の雪の降る晩、また彼女はやってきた。
「おすすめは、こちらのビオラです」
紫色の小さな花だった。
差し出される前に、もう一度問いかける。
「寒くないのか?こんな冬の日に」
「………」
「凍死する」
数秒間見つめ合った後、負けたように「…寒いです」と呟いた。
「中は暖かいから」
「はい…お邪魔でなければ」
最後まで気を遣われると、こっちが申し訳なくなる。
暖炉の前の椅子に座らせ、ココアを渡した。

「…花言葉、というのを知っていますか?」
「知らない」
一息ついたとき、唐突に訊ねられた。
「花が持つ意味です。例えば、白いワスレナグサは、”私を忘れないでね”という意味が込められています」
「じゃあ、お嬢ちゃんがくれた花は?」
「ツワブキは”困難に打ち勝つ”。ビオラは”誠実”という意味があるんです」
「いいな、そういうの」
静かに咲き誇る花々を思い出した。意味を知ると、途端に愛おしいと想える。
「本にも載っていることがあるので、探してみてください」
目を細めると、「この辺でお暇させていただきます」と退室した。
花の甘い香りを、置き土産にして。

それから何度も、花売りのお嬢ちゃんはやって来た。
そして、もうすぐ桜が芽吹き始める季節の頃、唐突に語り始めた。
「私、欲しい花があるんです。今みたいな春にある花で、綺麗なんですよ。私、雪の降る晩にしか来なかったけど、その花が採れたときには特別に届けたいです。いや、届けます絶対!」
「どうした?」
早口で捲くし立られるのは初めてだった。関わり始めて三ヶ月が過ぎるこれまででも、そんなに慌てる様子など見たことが無い。
「ごめんなさい」
「いや、謝ることじゃないんだ。けど、初めてだろ。そんなに焦ってるの」
「そう、ですか?」
うん、と頷くと驚いた後に柔らかく頬を紅潮させた。

その三日後のこと。
「これです…!」
見せてくれたのは黄色い花が鈴なりになった、美しい花だ。
「ミモザ、って言います」
「へぇ、綺麗な花だな。あ、花言葉は?」
「え!?あ、えと…そ、その!」
「うん」
目を泳がせ、明らかに動揺している様子。
知らないのか?いや、花好きのお嬢ちゃんがそんな訳…
「か、感謝って意味もあります…」
「も?他には?」
訊ねると、またうろたえて「えっと」とか「その…」という言葉だけを繰り返している。
赤いアネモネのように火照った頬と、桃色のカーネーションのような淡い唇。
潤んだ瞳を向けて、決意したように口を開いた。


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