コメディ・ライト小説(新)
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- 胡蝶の踊り子たち 壱〜青春の山吹〜
- 日時: 2024/10/07 19:02
- 名前: 天璋院玉姫 (ID: w/o6P.S0)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14032
登場人物
胡舞姫
石清水八幡宮の宮司・藤原金義の娘。胡蝶の舞の踊り子。
菊吹天皇
平安時代の天皇。
六姫
胡舞の姉。母親がわり
清姫
胡舞のいとこ。貴族の娘。
泉水胡
石清水八幡宮の巫女。
石麻呂
石清水八幡宮の稚児。
一章:胡蝶の舞
そこは京の石清水八幡宮。
今日はやけに多くの人々が訪れています。
今日は勅祭があり、今胡蝶の舞が踊られています。
(父上のため…!)
そこで熱心に踊っている少女の姿がありました。
胡舞です。
実はこの勅祭は胡舞の父・藤原金義でした。
金義は石清水八幡宮の宮司であると同時に、天皇の侍従でした。
とはいえ侍従の中でも一番位は低く、あまり有名ではありません。
今日は天皇の勅使をもてなすために急ぎ、開催した勅祭なのでした。
そして胡舞は姉である、六姫にこう言い聞かされていました。
「胡舞、これは父上にとってとても大切な勅祭。舞さえ上手に踊れれば、それだけで認めてもらえるでしょう。」
胡蝶の舞は四人で踊るもので、胡舞意外に、いとこの清、巫女の泉水胡、稚児の石麻呂です。
ですがこの舞で1番目立っていたのは何を隠そう、胡舞でしょう。
金義は胡舞が目立つよう、蝶の羽を飛び切り大きく作りました。
(うう…恥ずかしいより重たいが勝つ…)
そしてそろそろ終盤に近づきます。
手にかざした山吹の花を皆、胡舞に託し、鈴を鳴らします。
ここで勅使が言いました。
「胡舞殿や、一句お願いできんかな」
(ええっ!聞いてないわ!)
胡舞は息を飲み、六を見ました。
六も真剣に見返してきます。
「山吹に 集まる蝶は 崇高の 天孫の身を 待ちかねるかな」
胡舞はやっとのことで、声を張り上げ、山吹を天高くかざしました。
すると辺りは静まり返り、一気に歓声が上がりました。
それは山吹の奇跡か、山吹の花に一羽の色鮮やかな蝶が留まりました。
でもとたん、胡舞は嫌な予感がしました。
(えっ…)
「うまい!」
ですが勅使の声で胡舞は我に帰りました。
そしてこの勅祭はうまくいき、勅使も大喜びで帰って行きました。
二章:六と出世
六は大はしゃぎです。
「さすが胡舞ね、これで父上の出世も叶うわ!」
と、思いきや、
「すまぬ…出世できんかった…」
と、金義は途方に暮れ帰ってきました。
どうやら、この勅祭を恨んだ他の侍従たちが、金義の出世を阻んだのです。
「帝はわかってくださらなかったの?」
「なんとも…」
このままでは金義と胡舞が浮かばれないと、六は勅使に会いに行きました。
「この度は、勅祭へお越しいただき、有難うございました。」
「胡舞殿の舞をもう一度見せてほしいものです」
「今回はお礼も兼ねて、父上のことなのですが」
そこまで言うと、勅使はビクっと反応しました。
勅使も共犯だったのです。
そして六はその隙を逃さず、勅使を責め立てました。
「父上の催し物を帝に報告せず、踊り子たちも浮かばれない。
それはあなたが帝に告げなかったからですよね?」
「な、何言ってるんですか?私は勅使ですよ。帝に報告しないなんて勅使じゃない…」
「もう、侍従の一人が白状してるのよ!帝に『大した催しじゃなかったと』告げたのでしょう!」
勅使は何にも言えず、その場で固まってしまいました。
その後、勅使は金義に謝り、金義は見事出世を果たしました。
三章:輿入れする?
「姉上はすごいですね〜」
「まあ、ちょっと強引だったがな」
でも金義は嬉しそうです。
六は母の美胡姫が亡くなってから、ずっと胡舞や踊り子たちの世話をしていました。
「六には張り詰めることがあるからな。物心ついた時からしっかり者で」
確かに六は、片付けも身だしなみも、教養もきちんとしています。
「父上、姉上は輿入れなさらないの?」
あれだけ素敵な姉上なら輿入れ相手がいるでしょう?と胡舞は付け加えます。
もう六は二十歳のいわゆる”行き遅れ”です。
そしてそこが金義の悩みの種でもありました。
金義は六にそれなりに幸せになってほしいし、このまま天涯孤独なのも六を思うと、可哀想です。
「六が望めばな」
胡舞にはこう言っておきました。
ですが六が望んでいるかどうかは、誰も分かりませんし、六自身も言いません。
六はその後も石清水八幡宮に留まっているのでした。
四章:帝に会うと
「そろそろ帝に顔出しせんとな〜」
時々、金義はこう呟きます。
「もう、金義様、そればかり」
「ほんとほんと」
とっとと会いに行けばいいのに」
子供たちはそう言いますが、
「やる気が出ん…」
「なら、胡舞も連れて行ってください。御殿の花が見たいってうるさいから」
六も金義を促し、金義は御殿へ向かいました。
「父上がようやく、貴族らしく見えましたわ」
そういう胡舞も、かなり身だしなみを気をつけています。
「行く羽目に…」
結局金義が行きたくないのは、手土産に悩むからでした。
「大丈夫!菊の花びら餅なら」
「普通は、桜なのだがな…」
「桜は風流じゃないわ、今の時期は菊よ!」
久しぶりの御殿に、金義は緊張しています。逆に胡舞はわくわくしていました。
(とても風流で素敵!)
胡舞は不思議なものを見ました。
(あれはなんの花?山吹…?でも山吹は木に咲くし…)
「おい、胡舞。急げ」
「はっ、はい!」
やがて胡舞は天皇の前に出ました。菊吹天皇です。
「久しぶりだ、金義」
「はっ」
「して、その娘は」
「金義が娘、胡舞でございます」
胡舞は嬉しそうに頭を下げました。
菊吹天皇はとても若く、金義と半分の歳です。
しかも顔形がよく、とても優しそうでした。
「金義は、他の侍従に会ってこい。胡舞殿と話がしたい」
金義は去って行き、胡舞は菊吹天皇と二人きりになりました。
(えっ、えっ、どうすればいいのーっ!?)
すると菊吹天皇から話がかかってきました。
「胡舞殿は、胡蝶の舞の名手だとか。いずれ見せてもらいたい」
「はい、私も見るもの見ましたので!」
「見るもの?」
菊吹天皇は首を傾げます。
その様子に
(えっ、何かいけないこと言っちゃった?どうすればいいのーっ!?)
と頭は真っ白です。
「見るものっというのは…御殿の花々です、とても綺麗ですね…」
「胡舞殿は花が好きか…私もだ」
菊吹天皇が同感してくれたことに、ほっとしましたが、次の言葉が口から出ません。
「ええと、不思議なものを見ました」
「それはどんな…?」
「うーん…菊の花に山吹が並んでいて…それも落ちたとかではなくて…」
「それを見せてもらいたい」
菊吹天皇と、胡舞は改めて花を見に行きました。
それを見ていた金義は「何をしてるんだ?」と気になっています。
「こ、これです」
確かにそれは、菊の花の隣に山吹が咲いているようでした。
菊には菊の葉が、山吹には山吹に葉がそれぞれ片方についています。
胡舞には美しい蝶が飛び回っています。
菊吹天皇は菊にそっと触れると、胡舞に笑いかけました。
(えっ、何この、何かを察したような顔っ!しかもあなたもわかった?見たいにこっち見てるし!)
胡舞にはちんぷんかんぷんでした。