コメディ・ライト小説(新)
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- 部活の先輩に恋をして、それから・・・(3)
- 日時: 2025/01/17 20:27
- 名前: しろねこ (ID: 7ikYb8tc)
紫陽花が綺麗に咲く6月初旬。私は、部活の雰囲気にも、久しぶりに触るパソコンにも、だいぶ慣れてきた。毎回休むことなく、平穏に活動を続けている。堅苦しい雰囲気ではなかったことが、本当に救いだ。私が好きな副部長とも、親しみが深くなってきた気がするので、部活がとても楽しく感じる。
そう思っている、部活が始まる5分前。すでに部室にいたので、ゆっくりパソコンを開いていたところ、ドアが開き、そこには顧問と一人の知らない女の子がいた。私と身長は同じくらいで、髪は少し赤茶色っぽいショートカット、ボーイッシュな感じだった。そして、その2人が顧問の席の前に立った。もしかして、転校生で、この部活に入る子かな?
すると、知らない女の子が口を開き自己紹介を始める。
「名古屋から来ました。1年1組の平田零です。親の仕事の都合で、今日から夏休み前まで、この部活で活動することになります。短い期間ですが、よろしくお願いします。」
当然のように拍手が起こる。それにしても、本当に短いな。うちの部活は活動日が少ないから、全然活動ができないかもしれない。それは、ちょっとかわいそうだ。
「零さん、よろしくお願いします。では、席なんだけど・・・やっぱり、1年生の近くがいいよね。なら、辻村さんの隣かな。あのポニーテールの子の席の隣ね。」
「はい、わかりました。」
おお、私の隣ときたか。正直、すごく嬉しい。だから、早く仲良くなりたいと思っている。しかし、私は結構人見知りだ。自分から話しかけることは少ない。不安に煽られるが、ここは、勇気を出して話しかけよう。
「平田さんだね。私、辻村百生っていいます。これからよろしくね!」
「辻村さんだよね。うん、よろしく!あと、呼び名は零でいいよ。」
良かった。結構、会話はできそうだ。勇気を出して話しかけた甲斐があった。
「わかった、これからそうするね!零も、百生って呼んでほしい。今日から夏休み前までって、1ヶ月半もないじゃん。すごく短いね。夏休み明けは、また名古屋の学校に戻るの?」
「そうだよ。正直、本当に短いから転校しなくても良いと思ったけど、どうしても一時的に転校することになったからさ。」
「へぇ、そうなんだ。なんか大変そう。あっ、ところでさ、好きなスポーツある?」
私はいきなり何を聞いているんだろう。嬉しさのあまり、思わず舞い上がって聞いてしまった。絶対びっくりしただろうな。ちょっと引いたかもな。ごめんよ、転校したてなのに。
「えっと、好きなスポーツ?私は野球かな。小2から小6までキャッチャーやってた。面白いし、楽しいから!百生は何のスポーツが好きなの?」
「実は、私も野球好きなんだ!野球好きの女の子が来てくれて嬉しいよ。うちの学校は、野球好きの女子が全くと言って良いほどいないからね。レアだよ、レア。ごめんね、いきなりすごくテンション高くなっちゃって。もしかして、引いちゃった・・・?」
この時、私はどんな顔をしているのか。きっと、興奮して紅潮している。こんなに情けない顔、まだ出会って数分の子に、決して見せるべきではない。ああ、恥ずかしいな。
「まさか、そんなわけないじゃん。むしろ、すごく好きだよ。そうやって仲良くなってくれる子。だから、気にしないでいいから!」
私はすぐさま我に帰る。さっきのあの私は、もう忘れてしまおう。零はすごく優しくて、話しやすい。人見知りの私でも、恐れることなく関わることができた。しばらく零と話したあと、電源がついたデスクトップに体を向けて、タイピングソフトを立ち上げる。ふと、彼女の方を見ると、パソコンの電源の付け方が分からなかったようなので、付け方を教えてあげた。そして、副部長の方に視線を向ける。副部長は、新しい新入部員が来て嬉しいのだろうか、いつもよりも微笑んでいた。やっぱり、笑顔はいいな。私まで笑顔になってしまう。
今日も、恋物語は終わらない。
- 部活の先輩に恋をして、それから・・・(4) ( No.1 )
- 日時: 2025/01/30 22:18
- 名前: しろねこ (ID: 7ikYb8tc)
この中学校に転校してきた平田零とは、たくさん会話をする仲になった。クラスが離れているので、休み時間や、下校のときに話をしている。時には、遊びの約束も。私は、零のおかげで、中学校生活がさらに楽しくなったし、この子の地元のことをさらに知ることができた。人見知りなのに勇気を出して話しかけた、過去の自分には心底感謝している。
今は、梅雨の時期。連日雨が降っているので、部活がある今日も、やっぱり降っていた。今日の雨は、いつもより激しい。下校が心配になるくらいだ。こんなに強い雨は、嫌いだ。部室の中は、電気をつけても少し暗い。校舎が、強い雨音と時々鳴る雷の音を響かせながら、私たちは、少し暗い部室で活動していた。今まで、空いていたはずの隣の席には、零が座っている。何かブツブツ言いながら、キーボードを打っていた。先輩や、零と席が離れている同級生にとっては、変わりない風景かもしれないが、私にとっては、新鮮な感覚で面白かった。零が名古屋に戻るまでは、こんな感じなんだ。
やがて、馬場先生がやってきた。私は、一番に挨拶をする。
「皆さん、こんにちはー。」
「馬場先生、こんにちは!」
「百生さん、こんにちは。今、雨が激しいですね。皆さんの帰りが心配なので、今日は通常より早く切り上げますね。では、部長さん。挨拶をお願いします。」
「はい。皆さん挨拶しまーす。気をつけ、お願いします…」
私は、内心悲しかった。部活の時間が、いつもより短いことが。こんなに楽しい部活なのに、残念だ。でも、天気が関係しているなら、仕方がないだろう。そう思いつつ、私は活動を再開した。
ふと、私が恋している副部長の方に視線を向ける。副部長は、少し嬉々とした様子だった。多分、うちの部活はやることが自由なので、活動していても暇だから、早く帰りたくてあの反応をしたんだろう。何だか、思った反応と正反対だった。副部長は、部活ラブで、時間が短縮されると悲しくなると思っていたが、実際そうでもなかった。他の先輩や同級生は、特に顔色を変えたり、呟いたりしていない。
その後、先輩とタイピング練習をしたり、部員全員でプログラミングソフトで作成したゲームを遊んだりして、あっという間に時間は過ぎていった。そして、いつもより早く部活を終える。部員たちは、そそくさとパソコンの電源を切り、キーボードとマウスを片す音が部室に響いた。ああ、今日の活動も、時間は短かったけれど十分楽しかった。
「これで今日の活動は終わりですね。お疲れ様でした。皆さん、本当に気をつけて帰ってくださいね。川の水も、とても水位が上がっていると思うので。では、部長さん。挨拶を。」
「はい、挨拶しますよー。…」
挨拶を終え、私たちは急いで帰る支度をする。手荷物を通学かばんに詰めたり、タオルを取り出して頭に被ったり。私も早く帰りたかったので、素早く支度を済ませた。
窓外を見ると、さっきより、雨がとても激しく、空がとても暗かった。そして、大荒れの空に稲妻が走っていた。他の部員たちは、窓外を見る度にざわつく。
「うわ、これは土砂降りだ。本当に困ったな。」
「そうだよ。俺の家、ここから結構離れてるし、帰る時は危ないよな。先生に、電話で母さんを呼んでもらおうかな。母さんの車で帰りたい。」
「できれば、そうした方がいいかもな。まあ、俺はそこまで離れてないから徒歩で帰るぞ。」「そうかい。くれぐれも気をつけろよ。俺は助けられないからな。…」
様々な会話を聞きながら、昇降口の方へ向かっていく。校舎には、階段を下る音と、雨が校舎や地面を打ちつける音と、ゴロゴロと鳴る雷の音が響いている。とにかく早く帰りたかったので、早足で階段を下った。
やがて、昇降口には着いたものの、すぐに外には出る気がしなかった。なので、私は少しの間だけ、下駄箱で雨が弱まるのを待ってみることにした。もしかしたら、一時的にこんなに雨が降っているだけかもしれないと思ったから。しかし、雨はなかなか弱まらず、ずっと激しく降っている。弱まる見込みは、まるで全くなかった。
もう学校から出るか、まだ待ってみるかと迷っていると、階段から副部長の姿が見えた。副部長は焦っている様子だった。私と目が合うと、私のもとへ、小走りでやってきた。
「あれ、君まだいたの?俺だけが残っていると思ったんだけど。もしかして、雨が弱まるの待ってた?でも、もう帰った方がいいよ。ずっと学校で待っていても、どうしようもないでしょ。」
「あ、そうですね。ちょうど帰ろうと思ってたところです。」
「そっか。ところで、ちゃんと傘は持ってきた?ないなら、学校のやつを借りなよ。場所がわからないなら、教えてあげるよ!」
「傘は持ってきたので、大丈夫です。わざわざ、ご心配ありがとうございます。」
「全然いいよ!じゃあ、俺は帰るからね。君も今すぐ帰るんだよー。帰る時は、十分気をつけて。」
「はい!」
副部長にそう言われて、私はついに校外へ出た。雨はすごく強かったけれど、そこまで気にならなかった。何より、好きな人と二人きりで話したことが、緊張したけどすごく嬉しかったんだ。それに、あの優しさが、本当にたまらない。心の中は雨もようで、冷たかったけれど、副部長のことを考えたら、次第に心が温かくなり、晴れもようになった気がする。相変わらず、現実の天気は雨だけど。
恋物語、ページが止まることはない。
- Re: 部活の先輩に恋をして、それから・・・(5) ( No.2 )
- 日時: 2025/02/21 20:09
- 名前: しろねこ (ID: 7ikYb8tc)
時は流れ、今は夏休み。連日本当に暑くて、冷房が効いた部室がとても恋しいくらいだ。夏休み中の部活動は、三回のみ。そして、今日は三回目、つまり、最終日だ。日にちは少ないけれど、みんな仲良く活動している。夏休みの部活というのは、なんだか青春を味わっているようで、いつもより楽しく感じる。
夏休みの活動も、平日の活動と内容が大きく変わることはない。通常運転だ。しかし、平日よりも時間に余裕ができるので、二時間ほど活動ができる。二時間もあれば、いくらでもタイピング練習ができるし、ゲームもできる。はっきり言って、最高だ。零の方を見ても、何回もタイピング練習をしているのがわかる。平日も、このくらい余裕ができれば良いのに。
今日の部室は、いつもより様子が違った。なぜなら、昨日・一昨日でマイナビオールスターゲーム(プロ野球の試合)が放送されていたからだ。うちの部活には、野球が好きな部員が結構いるので、口を開けばみんなその話をしていた。
「マイナビ、なかなか良かったよな!セ・リーグ強かったし!」
「そうだな!余裕でホームラン入れてたもんな!さすがセ・リーグだよ…」
ファン達はこんな感じで会話しながら、パソコンに向き合っている。やっぱり野球の話は、聞いているだけでも楽しい。自分が好きなスポーツだから。
そういえば、明日は町内の夏祭りがある。やっぱり夏といえば祭りだ。近所の小学校で開催され、規模はまあまあ大きい。毎年、キッチンカーや屋台がずらりと並んで、多くの人たちで賑わう。祭りは、たった一日しか開催されない。一度逃したら、また来年まで待たないといけない。だから、明日は絶対に行く!何か美味しいものを食べたいし、ミニゲームもやりたい!それに、近所で食堂を経営している知り合いの人が、特別に試食コーナーを作ると言っていたから、そのお手伝いとか、試食品を食べてみたい。また、誰かと一緒に行きたい。それこそ零や、食堂をやっている知り合いの女性、球場で出会って仲良くなった女子高生と。一緒に行きたい人がたくさんいる。
あと、副部長。誘おうと思えば誘えるけど、そんなに親しいわけでもないから、引かれたりしないか心配になる。どうしよう。でも、友達や好きな人と夏祭りに行ったら、さらに仲良くなれるだろうし、いつもより何倍も楽しく感じるだろう。私は必死に考える。副部長も夏祭りに誘うか、誘わないかということを。
気がつけば、もう部活終了の時刻になってしまった。明日の夏祭りのことを考えすぎたせいで、あまりパソコンに手がつかなかった。
私はキーボードとマウスを整えて、部室を出る準備をする。そして、私は部室を出る前に、零を呼び止めた。
「ねえ、零。明日の夏祭り、特に用事がなければ、一緒に行こうよ。零は今年、この街に来たからまだ行ったことないんだよね。本当に楽しいよ。キッチンカーが並ぶし、ストラックアウトもあるよ。だから、行こう?」
「夏祭り、いいね!行く!あ、女子高生の子も誘うの?あの子もいたら良いな」
「うん、誘うよ。きっと行くって言ってくれる!とにかく、明日が楽しみだー!早く明日にならないかなぁ、集合は五時で、小学校の校門前で大丈夫?」
「大丈夫!そうだね、早く明日になってほしいね。じゃあ、また明日!…」
零を誘うことができた。あとは、あの子を誘うだけ。早く家に帰って、誘いのメールを送らないと。
でも、どうしよう。本当に副部長も祭りに誘うか。もし誘ったとしても、本人が乗り気じゃなかったら悲しいし。モヤモヤした気持ちになる。もう全力で伝えるしかないのかな、これは。
よし、誘おう。こういう時は、思い切りが大事だ。副部長が帰るまでに言わなければ。彼とメールのやり取りをしているわけでもないから、直接本人に伝えるという手段しかない。副部長はどこだ。あの人はそんなに早く帰らないから、まだ部室にいると思うけれど。
…いなかった。下駄箱を見ても、副部長の上履きはなかった。副部長は、もう帰ってしまったようだ。気持ちが一気に沈む。
こんな気持ちになったのは初めてな気がする。なんだろう、悲しいというよりかは、ようやく誘う気満々になって誘おうと思ったのに、何も起こることなく、ただ時間が過ぎただけという、空しさ。それに、恥ずかしいという気持ちも襲ってくる。
私は素早く部室を出て行った。今回はもうどうしようもない、諦めようと思いながら校舎を出た。副部長との夏の思い出、欲しかったんだけどな。今年は、叶いそうにもないんだ。まあ、夏祭りは友達と行けるから良いんだけれど。
恋物語は、今日はページが止まった。
- Re: 部活の先輩に恋をして、それから・・・(6) ( No.3 )
- 日時: 2025/02/28 15:21
- 名前: しろねこ (ID: 7ikYb8tc)
夏休みの部活も終わり、ついに本格的な夏休みが始まった。私は、夏が大好きだ。だから、夏休みには、良い思い出を作りたい!プロ野球観戦、夏祭り、プール、旅行…楽しみなことがたくさん出てくる。今日は、町内の夏祭りの日。天気は、驚くほどの快晴だ。七月になる前から、ずっと待っていた。ついに、この日が来たんだ。折角友達も誘ったんだし、思いっきり楽しむ!
今は昼頃。夏祭りは、あと約二時間後に始まる。まだ時間があるので、私は自宅の自室で、読書をしていた。冷房が効いていて、居心地が良い場所でする読書は、最高だ。私が読んでいる地元ラブ系の漫画は、なかなか面白い。表紙を好んで読み始めたのだが、思いの外面白くて、ストーリー性を気に入っているので、先月頃から熱心に読んでいる。
読書に没頭していると、机に置いてある携帯から、新着メールの通知音が鳴った。メールの主は、零だった。読みかけの本に栞を挟み、携帯の画面を見る。
「こんにちは。今日の祭りなんだけど、うちのお姉ちゃんも連れて行って良い?あ、嫌なら全然それで良いけど。返信頼むね」
こんな内容だった。…お姉ちゃん?どうやら、お姉さんがいたらしい。そういえば、本人の口から、お姉さんがいることを聞かなかった。どんな人なんだろう。きっと、零のように優しい人なんだろうな。早く会ってみたいな。私は、零にこう返信した。
「連れてきても良いよ!むしろ、零のお姉さん見てみたいな。それにしても、お姉さんがいたんだね。今日、初めて知った!」
送信ボタンを押すと、五分程で、またメッセージが届いた。
「わかった、連れてくるね!そうそう、お姉ちゃんがいるの。でも、一緒には住んでなくて、お姉ちゃんは大府で一人暮らししてるんだ。今日、たまたまこっちに来る予定だったみたいで、ちょうど夏祭りもあったから誘ったんだ。じゃあ、また五時にね!」
私は了承の意を送信すると、携帯の電源を切って、本を片付けて外に出る準備をした。
現在時刻は、午後四時四十分。夏祭りの会場までは、徒歩十分ほど。熱中症対策も十分に行い、私は自宅を出た。住宅街の中の細道には、すでに夏祭りから帰ってきた小学生の子や、今から会場に向かう中学生が歩いている。みんな笑顔で、楽しそうだった。私も、勿論笑顔だ。もう五時前だが、真夏なので外はまだかなり明るい。そして、外はとても暑い。汗を拭っても、また汗が出てくる。横断歩道を渡り、ついに会場である小学校の校門前に着いた。そこには、零や女子高生の子など、見覚えのある顔の人たちが待っていた。しかし一人だけ、見覚えのない顔の人がいる。藍色っぽいショートヘアーに、おっとりとした目元、程よい桃色の唇。見た目的に、高校生くらい。ああ、多分あの人が零のお姉さんだと思う。…すごく綺麗な人だ。あんなに美人な姉を持っていたとは、もっと早く教えて欲しかったものだ。その優美な姿に見惚れていると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、百生ーこっちこっち!ほら、この人だよ。この人が私のお姉ちゃんだよー!」
私は零たちの元へ駆け寄った。そして、お互いに会釈し、軽い挨拶を交わした。
「辻村百生です。すごくお綺麗ですね!よろしくお願いします!」
「私は平田文乃です。呼び方は文乃で良いよ。あなたも可愛いよ!こちらこそ、よろしくね!」
そうして、私たちは会場を回った。案の定、たくさんの人々で賑わっている。また、和太鼓を叩く音や呼び込みの声も会場内に響いている。歩くたびに、さまざまな屋台に目を奪われていく。美味しそうなお好み焼きやたこ焼き、イカ焼きの屋台が…ちょっと、私は粉もんばかりに目が行ってしまうじゃないか。他にも、食べ物系の屋台は、かき氷やりんご飴、フライドポテトやわたあめなどの屋台があった。それ以外には、光るおもちゃやスーパーボール、金魚すくいやくじなど、そそられるものが沢山ある。
ちょうどお腹も空いていたので、みんなでフライドポテトを食べることにした。一箱に入っている量がまあまあ多かったので、みんなで分けて食べることにした。女子高生の子が購入し、ベンチに腰掛けてポテトを口に運ぶ。それは塩っ気がちょうど良くて、いくらでも食べられそうな程美味しかった。食べ終えると、ストラックアウトのコーナーの方へ向かった。ここは、零が希望した。ルールは五球縛りで、二球以上当てると景品が貰える、もし当たらなくても、小さな景品が貰えるという、ちびっ子にも優しめのシステムだった。零は容赦なく的に球を当てていく。さすが野球経験者だ。零は五球中、四球も的に当てた。当然景品が貰えるので、零は小さな熊のぬいぐるみを貰った。可愛い、と言いながら、自身のかばんにつけていた。
時刻は、五時半を回った。空を見ると、少しだけ橙と黄に染められている。しかし、まだ澄んだ水色の色味が強い。また、一番星が輝いていた。夏祭りは、すごく盛り上がっている。これからは、手持ち花火や盆踊りといったイベントが待っている。まだまだ祭りは終わらない。私は、そう思いながら雑踏の中を歩む。そういえば、あの副部長は来ているのだろうか。来ているなら、絶対に私服姿で来ているだろう。もし見かけたら、副部長の服装が見られるのか。一体どんな感じなのだろう。すごく気になってくる。ここに来ていたら良いな。
後半に続く。
- Re: 部活の先輩に恋をして、それから・・・(7) ( No.4 )
- 日時: 2025/03/07 17:34
- 名前: しろねこ (ID: 7ikYb8tc)
時刻は六時ごろ。だんだん、街が夜に染まっていく。祭りはまだまだ終わらない。今、盆踊りが行われている。大音量で、誰もが知っているアニソンが流れていて、老若男女問わず様々な人が踊っている。とても楽しそうだ。でも、どうしよう。知っている人に、踊っているところを見られたら、なんか恥ずかしい。そう思っていると、突然、法被を来たお姉さんから声を掛けられた。
「ねえ、そこの二人の女の子。ここのステージで盆踊り踊ってみる?なんか上手そうだし」
え?私と零がステージで踊る??しかも、上手そうって言うし。一瞬戸惑った。そして、零に声を掛ける。
「…どうする?あの人、ああ言ってるけど」
「ん?すごく良いじゃん、ステージでできるなんて!踊ろうよ、二人で!お姉さん、踊ります!」
「おお、そうこなくっちゃ!じゃあ、今流れてる曲が終わったら、ここからステージに登ってくれる?」
結局、踊ることになった。正直、すごく緊張する。盆踊りの振り付けはなんとなくわかるけど、間違えたら恥ずかしい。でも、踊ると決めたからには、やるしかない!そして曲が終わったあと、私と零はステージに登った。
「もしかして、恥ずかしがってる?かーわいー!でも、そんなに気にしなくても良いよ。ほら、お面あるから顔隠せるし」
「まあ、それだったら多少マシな気はするけどね…」
「ね?ほら、行くよ。もう始まる」
ステージを登ったあと、先程のお姉さんの声が響いた。
「では皆さん、これがラストです!ここまで踊ってくれてありがとう。シメは、この二人がステージで踊ってくれます。それに、花火のパフォーマンスもあります。楽しんでね!」
お姉さんの声と共に歓声が響き、また大音量で音楽が流れた。最後の曲も、シメにもってこいの名曲だった。私と零は、一つ一つの振りを意識しながら、お面姿で踊る。また、花火のパフォーマンスも始まる。花火は五つの色で咲く。その花たちは群青色の空に映えて、すごく綺麗に輝いていた。あれ。花火って、こんなに綺麗だったっけ。一年ぶりに見たから、花火の美しさを忘れていた。
なんだ、案外。いや、すごく楽しい。断らなくて、良かった。これで良かったんだ。私は、お面の中で笑みを浮かべた。そう思った束の間、女子高生と文乃さん以外の、見慣れた人の姿が目に入った。そして、思わず声を上げてびっくりしてしまった。けれども、踊りは真剣に続ける。
ふ、副部長!?お面の目の穴から、黒Tシャツにジーンズ姿、深緑のショルダーバッグを背負った副部長がはっきり見えた。かっこいい。私服でも、あんなにキマるんだ。やっぱり、副部長って天性のイケメンなのか?そうだったら、最高に良いじゃないか。副部長は、微笑みながら私たちを見ている。しかも、かなり前列の方で。これは気まずい。もし副部長の方も私に気づいて話しかけてきたら、すごく恥ずかしい思いをするだろう。
そして、最後の曲が終わった。またまた歓声が響く。お姉さんも、本日は、どうもありがとうございました!と声を上げていた。
「上手だったよー!」「踊り上手いねー!」「最高だった!」「またよろしくねー!」
嬉しい言葉ばかりだ。でも、こんな言葉も。
「え、ちょ待って。あれって三組の百生だよな?おーい、百生ー!百生が踊ってたのかよー!ぎゃはははは、すげーじゃん!」
「うお、本当だ。あれ、一組の零もいないか?おーい、お前零だよなー?お前キレッキレだったからまじ面白かった!」
「そうだよー。あんなにキレッキレに踊るとは思わなかったぜー!お前夏休み明けの学校でもやれよー?」
ほらほら、こういう連中が絶対いる。でも、悪いやつではないから。別にいいんだけどね。
私はお面を外して、ステージの下に居る人たちに手を振ってみた。そうしたら、みんな振り返してくれた。零の方を見ると、とても涼しい顔をしていた。やっぱり、思いっきり踊ったあとは気分がいいよね。私も今、そんな気持ち。ステージを降りると、さっきのお姉さんに声を掛けられた。
「はい、お疲れ様!今日は本当にありがとう。あなたたちすごいね!すっごく上手な踊りだったよ。声掛けて良かった!」
「ええ、私たちもおかげさまで楽しく踊ることができましたよ!」
「うんうん。あ、突然声掛けちゃったのはごめんね?でも、良かったら来年も踊って欲しいな」
「いえいえ、気にしないでください。そうですね、来年も来れればやりたいと思います」
「ありがとう!それじゃ、今日踊ってくれたから、お礼にこれあげる」
お姉さんから手渡されたものは、小さなシールだった。どうやら、お姉さん特製のものらしい。しっかりホログラムまでついていて、絵のクオリティも高い。こんなにクオリティの高いものをタダで貰っちゃって良いのだろうか。
「うわぁ、ありがとうございます!使うのがもったいないくらい綺麗ですね!…これ、貰っちゃっても良いんですか?」
「良いんだよ。それ、人にあげる用のやつだし。遠慮しないでよ。じゃあね!またいつか!」
そう言って、お姉さんは笑顔で手を振り、私たちとは反対の方向へと歩いて行った。私たちも手を振り返して、文乃さんたちのところへと戻る。そして、ちょうど祭りも終わる時刻になっていたので、帰ることにした。小学校の校門を出ると、一気に寂しくなった気がした。淡く発光する街灯や、帰り道で見るお祭りのおもちゃが、そう感じさせているのかもしれない。
でも、とても楽しかった。盆踊りをあんなにしっかり踊るのは初めてだった。かっこいい私服姿の副部長も見れたし、祭りもすごく盛り上がったしで、今日は最高の一日だった。
恋物語は、再びページが進む。
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