コメディ・ライト小説(新)
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- 推しと彼女
- 日時: 2025/06/03 20:00
- 名前: 毛筒代 (ID: lCrzzWFh)
海には小学生の頃から好きだった彼女がいた。
彼女は杏というボーイッシュでノリのいい性格をした少女。
そんな杏は将来の夢だったアイドルを目指し、海は特に将来の夢もなかった。
それから10年後、海はニート、杏はアイドルになっていて、海は杏がアイドル活動を始めたのをネットで見つけ、それから継続的にストーカー行為を始める。
杏のことが推しでもあり好きでもある海は、様々なハプニングを起こすも奇跡を起こす。そんな恋愛ストーリー(?)が始まる。
>>1ライブ
- Re: 推しと彼女 ( No.1 )
- 日時: 2025/06/03 20:50
- 名前: 毛筒代 (ID: lCrzzWFh)
はあっ……! はあっ……!
つい遅れてしまった。
息を途切れ途切れに漏らす男性は、赤色でハートの形をしたペンライトを手に持ち、汗だくで走っていた。今までニート生活を続けていた為、お陰で脂肪は、このありさま。
それでも俺は、こんな姿になってでも………………。
彼女を追い続けている……!!
俺と彼女の出会いは小学生の頃。当時まだ若かった俺は、勇気を出して告白をするも、簡単に振られてしまった。
当然、好きな子から振られてしまったショックというものは大きく、それから出来た俺の心の傷が、癒されることは無かった。
そして次第に俺は彼女へと殺意を向けるようになった。
その為、今日もこうして彼女のところに走っている。あとでライブ終了後にポケットナイフで殺す予定だ。
彼女の今日の舞台は、小さなライブ会場。3年かかって、やっと地上アイドルになれたらしいが、アイドルの知名度としては、まだまだらしい。
俺がライブ会場に入ると歌が聞こえてくる。
既に遅かったか……。
彼女の声は少し独特でありながらも、ファンを魅了させるほど優しい声で、俺は彼女の容姿に少し驚いてしまった。
小学生の頃に見ていた彼女とは全然違う。メイクをしていたからというのもあるのだろうけど、大人な彼女も、やっぱり可愛い。
もちろん、殺意は湧いているものの、昔から好きだったから愛嬌もある。
にしても、声だけは変わらないな。
その声は、小学5年生の頃の合唱祭の時に聞いた声と、ほぼ一緒だった。
彼女の声は、いつも心地いい。けど、いくら可愛くても振ることだけは許せない。
まあ、向こうからしたら、こんな陰キャで奥の方に居る俺のことなど、とっくに忘れてしまっているだろう。
ライブが終わり、彼女が退出した後、俺は裏側から彼女の後を追った。
「ふー……」
彼女は休憩室で溜息をついた。
「ちょっと、トイレ行ってきてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
スタッフに聞き、彼女はトイレに向かって歩く。
俺は、トイレ近くの廊下で待ち伏せし、やって来た彼女と会う。
「久しぶり」
「だ、誰ですか……!? あなた、スタッフさんじゃないですよね!? もし不審なことするなら、警察呼びますよ!?」
「!? ……それだけは言うなっ!!」
彼女がそう言った瞬間、俺は「まずい!」と、ポケットナイフを取り出し刃先を向ける。
「ここでバレたらお終いなんだよ。なあ、俺のこと覚えてるか?」
彼女は首を横に振る。
「なんだと!?」
俺は頭にきて、刃先を彼女の首元にぐいっと近づけた。
「ほんとに……覚えてないんです……!!」
彼女は涙目を見せる。
「小学校の頃、お前に告白した俺だよ」
「……!? 海、くん……?」
「そうだよ、やっと思い出したか。なあ、あの時断ったよなあ? 俺、めちゃくちゃ勇気出して言ったのに、告白を断ったよなあ?」
「だって、あの時は、まだ……お互い全然知らなかったし、まだ年齢も幼かったし……」
「んなこと、どうでもええわ!! 俺は今まで、ずっとお前を辿ってきたよ。ありがと、お前がアイドルになってくれたお陰で、探しやすかったわ。いやあ、もっと早く殺してあげてもよかったんだけどね? お前がアイドルになる姿、見たくてさあ。それより何だ? この衣装は? こんなヒラヒラな衣装で世に出て、バレないとでも思ったか?」
「殺せないよねw」
「は?」
彼女の表情が一変する。
「ずっと好きだったんだもんね、私の事。それに、殺したいなら、もっと早く、そのナイフで刺してるはずだもんね? ほら、刺せるなら刺してよ、ねえ」
「いい加減にしろ!!」
俺は、流石に、かっとなり、ついに持っていたナイフを勢いよく…………。
駄目だ…………。
出来ない…………。
ただ彼女を刺すだけの簡単な仕業でさえ、俺は熟すことが出来ない。
「杏ちゃーん……んっ? そこで何をしているっ!!」
ちょうど通りかかったスタッフの一人が、こちらに気づいたようだ。
「くそっ!!」
俺は懸命に走り去る。
「怪我は無かったですか!?」
スタッフは杏に駆け寄った。
「うん、大丈夫……」
「よかった……とりあえず、今日はもう遅いですし帰りましょう」
「ええ、それより、その敬語は、もうやめたら……? 周りに誰も居ないんだし……」
杏は、こそっと笑いながら話す。
「そ、そうですね……あ、また敬語を使っちゃった……」
「ふふ、にしても、このこと、バレたら大問題になるよね。あのアイドル杏に、もしも同居人がいたら……」
「そう考えると恐ろしいね。特に、一般人は騒ぐだろうなあ」
「とりあえず、何があっても、私達だけの関係は誰にも言わないのよ?」
「分かってるよ! それより、一体あのクズ男は何なんだ、うちの杏に手を出しやがって」
「ホント、最低だよねwつぎ来たら付きまといで訴えようかな」
「それがいいよ。杏に、あんなクズ男は要らない」
「そうだよね……。青……」
「杏……」
二人はお互いに見つめ合い、甘いキスを交わす。誰も居ないとはいえ、ライブ会場の中でやるキスは、普段とは違って格別だった。
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