コメディ・ライト小説(新)

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三百年の徒花~徳川家最後の姫は、長州の志士に恋をする~
日時: 2025/09/25 15:54
名前: 咲月霧 (ID: 7xmoQBau)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14186

舞台は江戸時代末期、現代のわれわれが言うところの《幕末ばくまつ》……

「ーー志乃しの姫様。長州に下っていただきます」

将軍家の姫・志乃しのに告げられたのは、そんな残酷な命令だった。

長州といえば、幕府の命令に反抗してばかりの将軍家の天敵!!
そこに下るーー嫁ぐなんて、死にに行くようなもの。

重々しく告げる上臈御年寄じょうろうおとしより(江戸城大奥最高の女官)に、

息を呑んで静まり返る志乃姫付の奥女中たち、

肩を震わせ、今にも泣き出すかと思われた志乃だが……

(……やったぁぁぁぁぁ!!!!!)
 
なんと一人だけ大喜びしていた!?

志乃は、言いつけを守るのもおしとやかにするのも大っ嫌いな「おてんば姫」だったのだ!

(きっと長州に行けば、面白いことがいっぱいあるはず!)

期待に胸をふくらませ新天地に向かった彼女に、幕府嫌いの長州藩士たちはさんざん振り回される!!
しかし、楽しい(?)日々の中でも時代は少しずつ長州を追い詰めていって……

笑いあり涙あり!
歴史に翻弄されながらも力強く生きる、世紀のドタバタ・ラブコメディーここに開幕!!

Re: 三百年の徒花~徳川家最後の姫は、長州の志士に恋をする~ ( No.1 )
日時: 2025/09/26 16:04
名前: 咲月霧 (ID: W5lCT/7j)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14186

               第一話「その姫、おてんばにつき」

==============================================

 ……目の前に、おはぎがたくさん積まれている。

 たくさんなんてもんじゃない。これはもう丘、いや山だ!おはぎの山だ!

(す、すごい!すごすぎる!!)

 あんこ味ときな粉味にきちんと積み分けられたおはぎの山、甘くておいしそうな匂い、ちらりと見えるもち米のツヤツヤ……あれ、ここって天国だったっけ?

 据え膳食わぬは男の恥!いや、わたしは女だけど!
 それでもこんなにおはぎがあるのに食べないなんて犯罪でしょ!!

 というわけでわたしは、さっそくおはぎに手を伸ばした。

(まずはあんこから……!)

 ところが。

 もちっ、とおはぎをつかむはずだった手が空を切る。

 おはぎの山がまるまる跳ねあがって向こうへ飛んでいった!

(えっ!?)

 ぽかんとしているとおはぎたちは動き始め、膨張し、だんだん顔の形になっていく……

 おはぎの顔から何かが伸びて、わたしのほうに向かってきて、

「キャーーーッ!!!」

 思わずわたしは叫びながら後ろに飛びのき、その拍子にしたたかに頭を打って横に転がった。

「……突然キャーーーッとはなんですか、志乃しの様」

「んぇ?」

 痛い。痛すぎる。
 涙目になって見上げると……わたしを冷たく見下ろしていたのは、おはぎの怪物ではなく。

 ーー教本を片手に仁王立ちになった、だいだい色の打掛うちかけ姿の山吹やまぶき先生だった。

 山吹先生、わたしの教育係。

 漢詩や和歌に詳しくて、礼儀に口うるさ……ゴホンゴホン、礼儀を細かく知っていて、怒ると死ぬほどこわい。

「え、え、山吹先生?おはぎは?」

「おはぎ?そんなものどこにもありませんが」

 そんな馬鹿な!さっきまで確かにおはぎがあったはずなのに!
 わたしは呆然として畳の床に転がったまま両手を見つめた。

「夢でも見ていたのではありませんか」

 氷のような先生のまなざしがズキズキする頭に降り注ぐ。

 あ、言われてみれば頭がぼんやりするしまぶたが重い気がする。わたしはハッとして頬をひっぱってみた。

「いてっ!……こっちが現実かぁ……」

 あのとき、あのときおはぎをつかんでいれば、まだ夢の中でおはぎを食べられていたかもしれないのに!

 おはぎが動いたからって逃げるようじゃダメだ。動こうが顔の形だろうが、甘いものは甘いものだもんね!食べられるもんね!

(あんなにおいしそうだったのに!あんなにいい匂いだったのに!!)

 後悔のあまりため息をついたわたしは、山吹先生の顔がどんどん怖くなっていっていることに気付いていなかったのだった。

「まったく……このわたくしの話の途中に寝るとは、いい度胸をなさっているではありませんか、ええ!?」

 あ。
 やらかした。

 そう悟った時にはすでに遅くーー

 般若面はんにゃめんもこんな凶悪じゃないよってぐらいおっそろしい顔をした山吹先生が、こちらを睨みながらパタン、と教本を閉じる。

 生存本能が音量最大で警報を鳴らしまくり、わたしは寝ぼけまなこをこする暇もなくとびあがった。

「ごめんなさあああああああああい!!!!!!!」

 鮮やかな土下座を披露したわたしだったが、山吹先生のお怒りがそれでおさまるわけもなく……

「将軍家の姫たるお方が、そのように簡単に頭を下げてはなりませぬ!!」

 ……わたしが怒涛のお説教から解放されたのは、結局それから一刻(二時間)もあとのことだった。






「無理。もう無理。あんなに怒られたうえで夕餉抜きとか生きていけない」

「まあまあ、姫様、そんなに落ち込まないでください。この前、母が仕送りでいろいろ送ってきてくれたんです。一緒に食べましょう」

 山吹先生のお説教が終わり、床に伸びたわたしをそう慰めるのはお千代ちよ
 わたしと同い年の15歳で、わたしの身の回りの世話をしてくれる御中臈おちゅうろうだ。

「お千代~~!」

 がばっと身を起こしてお千代に抱きついた。
 お千代は優しくて、可愛くて、わたしの唯一の理解者だ……!

「姫様ったら食い意地が張ってますねえ」

 あ、嘘。敵かも。

「お千代……!」

「名前だけでそんなに感情を伝えられるのは天下どこを探しても姫様だけだと思いますよ」

「お千代♡」

「褒めてないですよ、はしたないですから」

「おッ千代ッッッッッ」

「やめてください返事に困ります、疲れます」

「ごめんって」

 そんなこと言いながらもごはんの用意をしてくれるので、うん、優しいは優しいのだ。
 毒舌塩対応だけど。

「でも、これを出したらお千代まで先生に怒られちゃう……」

「いいんですよ。そのときは姫様に全責任をなすりつけますし」

「ひどっ!」

「冗談ですよ。山吹様は姫様の御殿ごてんまではいらっしゃいませんから安心なさってください」

 お千代はちょっといたずらっぽく笑ってみせた。
 えくぼができてかわいい。

 わたしはえくぼがないので、羨ましいと思う。

「さ、では食べましょうか」

「うん!」

 お膳に向かって手を合わせる。

「「いただきます」」

 まさかこれが、この御殿で最後に食べる食事だなんて考えもせずに。

Re: 三百年の徒花~徳川家最後の姫は、長州の志士に恋をする~ ( No.2 )
日時: 2025/10/04 11:11
名前: 咲月霧 (ID: u3utN8CQ)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14186

作者の咲月霧です。
連載初めから投稿が滞ってしまい申し訳ありません泣泣
今週末の英検を受験予定のため、今はその勉強が立て込んでおります。
日曜夕方か月曜には更新する予定なので、また読んでいただけると嬉しいです!


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