ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ弐-怪物の町- 参-弐 ( No.102 )
- 日時: 2008/09/12 21:32
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
三話 [ 吸血鬼残酷実験-太陽を好む様になった理由(わけ)- ]
アイスを食べていたあかりの目の前に、霧が現れた。その霧は少し赤みがかかっていて、すぐ分かった。
「おかえり、霊月」
赤い霧は刹那に人の形になり、霊月になった。いや、もうお嬢に戻っているだろうか?
「ただいまっ!」
やはりお嬢だった。いつものお嬢——じゃなかった。着ている服に血は付いていない、顔にもどこにも傷などはない。なのに、お嬢は泣いていた。
それに気づき、あかりはお嬢に問う。
「お嬢? 何泣いてるの?」
「……ある子たちに会ってきたの。散々いじめてボロボロにした子たちに」
「何かされたの?」
「あの子たちは危険なの。喋っている最中で睨んできた——あの子たちの瞳は毒なの。夜に動く吸血鬼たちにはね」
あかりは何も分からない。だが、お嬢がその『あの子たち』と言う生命体に攻撃されたことは分かる。お嬢が強い。だが脆い。全てが強いお嬢でも、『幼い体躯をした子』にはめっぽう弱い。前にお嬢が殺した『桂月アイアンレイン』の顔が浮かんでくるかどうかで……。
お嬢は幼い時に、その桂月と言う同い年の吸血鬼に散々ボロボロにされた。簡単に言えばトラウマだろう。誰でもトラウマは持っているだろう。平気と思っていても全然平気じゃない者も物もあるだろう。だからお嬢は泣いていた。
あかりは、また目から涙を落としたお嬢の顔をちらりと見て、それから座っていた水色のソファーに置いてあった青色のクッションをお嬢の顔に投げた。
ぼふん。
中に入っていた鳥の羽が舞う。
お嬢はぽかんとして自分を見つめる。
あかりはアイスを急いで全部食べ終わり、アイスが刺さっていた棒をぽいと他って両手で構えた。だが遅かった。
お嬢が急いで投げた青色のクッションは、すでにあかりの顔面に当たっていた。
◆
「太陽が地球へ向かって移動してきている?」
あかりは頭のたんこぶをさすさす撫でながら、勝ち誇った顔のお嬢に言った。お嬢は机に腕を立てながら、哀れみを持った目であかりを見下しながらまた言う。
「『真月なんとかかんとか』って言う双子は太陽をつかさどる吸血鬼なの」
「太陽? ……ってちょっと待った!」
お嬢の顔の前に右手をばっと上げて言葉をさえぎり、またお嬢の言葉を確認する様に難しい顔をして言う。
「吸血鬼って夜の怪物って小説に書いてあったんだけど——」
「そう。普通はそうなの。だけどその『真月なんちゃらかんちゃら』ちゃんたちは、なぜか太陽を好むの。きっと遺伝子とか頭の中がいじられちゃったのね……昔々の真月家は実験台として使われていたからね。皮を剥いだまま生きられるのか。とか、血を飲まずに何日何ヶ月何年生きられるか、とか……。とても残酷な実験に使われていた一族だから、きっと頭をいじられてそのまま生きれて結婚そて子供を生んで——それで太陽を好む様になっちゃった。と言う説がある」
吸血鬼は好奇心旺盛の種族。だからこそ実験をやった。
なぜ実験台が真月家に決まったかと言うと、それは『くじびき』で決まった。恨みっこなしの『くじびき』だ。それで真月の元に生まれた吸血鬼は代々と実験台へとされて来た。だがその実験は一度も成功をすることがなかった。——そこでまた一つの実験が行われた。それは、『脳をいじっていても生きられるのか?』だった。そしてその実験は見事に成功。そしてその実験の実験台となった男性の吸血鬼は結婚し、子供を生んでどんどん子孫を残していった。もちろん父からの遺伝子を子供は受け継ぐ。その『太陽を好む』と言う遺伝子もだ。だから——真月家の吸血鬼は太陽を好む様になった。
それから、『実験が一度でも成功したらもう真月家の吸血鬼を実験台としない』と言う契りを元から交わしていた為、それから真月の吸血鬼は実験台とされなくなったのだ。
「同類の癖にそんなことしたの……?」
「いいえ、同類だからこそよ。同類だから大大丈夫。同類だから別に死んでもかまわない。だから同類を実験台へと選んだ。おかげで地球とか、列島に影響はな
かったし」
「吸血鬼のみんなは、実験をやることに賛成したの?」
「もちろんそうよ。じゃないと好奇心を抑えられないからね」
お嬢は哀しく笑った。
そこであかりはまた改めて思った。
吸血鬼は、残酷な怪物だと——。