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Re: あかりのオユウギ弐-怪物の町- 参-参 ( No.104 )
日時: 2008/09/14 13:49
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

四話 [ 気高く隣で-友の前での在り方- ]

 お嬢から吸血鬼がしたことについて話てもらってから、また本題み戻り、あかりはお嬢にたずねる。

「その真月家の双子たちの能力? で太陽がこちらに落ちてくると言うわけ?」
「そう。閻魔大王の推測では、その太陽は本物の太陽じゃなくて太陽に見せかけて作ったとても太陽らしい模型みたいなものなの。わたしが前住んでいた『疑月』と言うのと同じ仕組み。太陽を似せて作った太陽、いわゆる『疑太陽』と本物の太陽を入れ替えたの。たぶん本物の太陽は真月たちの力で『疑太陽』の中かどこかに封印されてると思うけど」

 あかりはへぇ、と言い返してから額に出てきた汗を掌で拭った。それからお嬢の顔をまた見てから、またお嬢に問う。

「で、作戦会議って分けね。んで? 止める方法は?」
「疑太陽をぶっ壊す。それから封印とか色色してある本物の太陽をちゃんとした位置に戻す」
「ぶっ壊すって……どうやって?」

 お嬢は笑って答えた。

「うーんとねー、あかりじゃダメだしもちろん月子も——」

 それは、黒い笑み。

「わたしとファイヤフライレッドナイト(蛍の赤い騎士)が、ブッ壊すの」

 ファイヤフライレッドナイト(蛍の赤い騎士)。それはお嬢の最終兵器であって最高の攻撃。大量の赤く光る蛍が現れて、固まって騎士となり、その騎士はお嬢の盾となりながらも敵を責める。お嬢と赤騎士の防御は鉄壁だ。お嬢は赤騎士を操り、赤騎士はお嬢を守る。
 あかりはお嬢が赤騎士と戦っているところをかつて見たことがある。だからお嬢と赤騎士は簡単に太陽をブッ壊せると思っているのだが、一つ引っかかることがある。それは、

「偽者でもなんでも太陽は太陽でしょ?」

 お嬢は軽くうなづく。だがそれは問題すぎる問題。

「じゃあお嬢死ぬじゃん」

 お嬢は笑って答えた。

「ええそうよ」



『吸血鬼は友を最高の友と見なし、その友が危険なときには自分が前へ出なければならない』

 吸血鬼の、『掟』。掟であって定めであって、それは自分を犠牲にしてまで友を救えと言うこと。
 吸血鬼社会の法律の十二条『友は命を捨ててでも守ること』。もちろん自分だって吸血鬼だ。だから守らなくてはいけない。
 別に法律を守っているわけじゃあない。
 自分は友を護っているのだ。



 あかりは部屋に閉じこもっていた。
 お嬢が笑いながら言ったあの言葉。それが忘れられなかった。怖くて、怖ろしくて、不気味で、哀しくて、階段を一気に駆け上がって自室に入って鍵を閉めた。

『吸血鬼は太陽にあたると皮膚が乾燥して固まる。それから動けなくなって最後には死んじゃうの。ただ日光に当たって死ぬより、大嫌いで天敵の存在の太陽を壊して死んだ方が得よ? 得』

 得なんかじゃ、ない。むしろ最悪だ。なぜお嬢が死ななければならない? お嬢はなにか悪いことをしたか? なぜそんなに吸血鬼は頑張ろうとする? 自分の体が果てるまで——。



 お嬢は階段を見つめながら、後ろのリビングでぼーっとしてる月子に話しかけた。

「吸血鬼は気高くあることが一番の怪物。だけどわたしは無理だった。誰の前でも気高くなれず、誰かに『お嬢様』と呼ばれるのが気に入らず、召使もいとこも父さんも母さんも普通に呼んだわ。まぁ父さんと母さんはそのままだけど、召使のことは名前で呼び、いとこのことも名前で呼んだ——でも、それじゃあいけなかった」

 自分のことを友と思い、離れられなくなるから。

「一緒にニ・三回話した程度で、友はできてしまう。それを知りながら、わたしはたくさんの血族と話をした。あかりが閉じこもってしまったのも、わたしのことを友と思い離れなれなくなったから。友の死は、最高の死。だから死んでっていえない。だからいってらっしゃいっていえない。これは地球に必ず在りうる——そうでしょ? 月子」
「お嬢の言う通りだと思います。だけど、友達を亡くしたら誰だって寂しくなると——思います」

 月子には、『絶対寂しくなる!』なんていえない。お嬢はそれを知っていたから、月子の言葉の『思います』にはあえてなにも思いは寄せず、また話し始めた。

「友が離れるのは最高に哀しいこと。わたしだってそれは知っている。だけど耐えられなくなった。吸血鬼だって、平等といえば平等だし、姫と愚民と言う差があっても吸血鬼は吸血鬼。吸血鬼は気高くないといけない」

 たとえ誰かに『友達になろう』と誘われても。

「友を作ったら必ず緩くなるから——吸血鬼の性格は曖昧。桂月はそれを知ってわたしに『しね』と言った。分かってた。だけど涙が止まらなかった」

 昔話と今を重ねて。

「友だちには、涙がつき物ってね」