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Re: あかりのオユウギ弐-怪物の町- 参-四 ( No.110 )
日時: 2008/09/16 18:27
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

五話 [ また-目から食塩水- ]

 死にたくなければ友を作るな。
 吸血鬼が『気高く生きなければならない』と自分で自分に言い聞かせるのは、自分が死にたくないから。
 気高く居れば、誰も自分を好まないから。



 お嬢は静かに階段を上り始めた。
 あかりに分かってもらいたかったからであろう。

「あのね、あかり——」

 階段を一つ一つ上りながら、お嬢はゆっくりと静かに言う。

「友だちを護りたいのは当然よ? だから、いつまでも部屋に篭ってちゃダーメ。そうねぇ……ずっと部屋に篭っていたら」

 それは前にも言ったことがある言葉。

「直火焼きだぞ?」

 刹那、あかりが篭っていたと見える部屋の扉がものすごい大きな音をたてて開き、中から涙を流して目を真っ赤にしているあかりが怒ったような顔をして出てきた。それから隠し持っていたと見える兎のぬいぐるみをお嬢に投げつける。

「分かってない! お嬢は、お嬢は何にも分かってないさ!」

 お嬢はぬいぐるみに向かって右手を突き出す。すると落ちてきたぬいぐるみは見事にその右手に刺さって動かなくなる。あかりはそれを見て唖然をする。一方お嬢は悲しそうな顔をしてから霧になって消えて、

「泣かないで」

 あかりの後ろに現れて、その両手であかりを後ろから包んだ。
 あかりは抵抗などしなかった。だが後ろにいるお嬢に向かってまた言う。

「断る!」
「なんで? 泣かないでよ」
「全力で断るさ!」

 そういいながら、あかりはお嬢の両手の中で体をくるんとまたしてお嬢の胸の中に顔を埋めて、泣いた。
 あかりは泣きじゃくった。それは生まれたての赤ちゃんの様に。だが赤ちゃんの泣きとあかりの泣きの意味は違う。あかりは心からないているのだ。自分を犠牲にしてまで地球を救おうとしているお嬢に向かって、真正面から泣いているのだ。それは仕方のない事だ。お嬢が恐れていた『自分から離れなくなってしまう』と言うこと。あかりは今それについて泣いているのだ。
 友が死んでしまうのは悲しいこと。だからあかりは泣いているのだ。
 お嬢はあかりを包みながら、静かにこう言った。

「泣かないで」

 それは、遺書の様なもの。

「手はうってあるから」



 お嬢はそれを泣きじゃくるあかりに言って見せた。
 まず前にも言ったように自分と赤騎士が太陽にぶつかって太陽を壊す。壊す前、お嬢は自分の髪の毛の変化させて防御の為の盾を作る。いわゆるバリアだろう。それからお嬢は体にバリアをつけながら赤騎士と一気に太陽を壊す。壊して太陽が砕けるその前にあかりが時間を固(と)めて、その瞬間にお嬢を回収する。それから時をまた動かす。そしてまた訓練を積み重ねてお嬢とあかりだけが動く様にして、また時間を固める。それからお嬢の力で封印してあった本物太陽の封印を解き、太陽系へと性格に戻す。それからまた時間を動かすと言う意外と困難なもの。だがこれくらいやらないと地球を救えない。そうお嬢に言われて、あかりはその作戦をすることに決めた。

「よし、これで準備は整ったぞ」
「……ちょっとまってお嬢。わたし時間の固め方なんてちゃんと知らないよ?」
「そうなの! ……ってええ!? それじゃあまた訓練しなきゃいけないじゃないの! そう言うの先に言ってくれなきゃわたし困っちゃう!」
「作戦を教えてくれたとき『訓練を積み重ねて——』って言ってたじゃん!」

 ううう、となんだかめんどくさそうな顔をするお嬢。だが数十秒後、お嬢はあかりを家の外へと連れ出して、ある廃工場へと連れて来てくれた。それからお嬢は廃ビルの中から三日月の形をしたものを持ってきてくれた。その三日月形の何かはどこかで見た様な気がするが、良く覚えていない。それに、朝なのに町に人がいないと言うのも不思議だ。
 お嬢は出してきた三日月の何かをぽんぽんと叩く。するとその三日月についていた目らしきものが赤くブイーンと音をたてて光る。それから、また三日月についていた口の先が裂けた様に上へつりあがって、それが動いた。

「ぐげげげげ、姉さんどうしたんだい!?」

 喋った。
 お嬢は何食わぬ顔でその三日月に喋りかける。なんだこれ。

「ねぇ、フルちゃんフルちゃん? 貴方はアレに変化できたよね?」
「——アレ? ああ、できますぜ」
「じゃあやって頂戴」

 お嬢が三日月の——フルちゃんと言う物体にそう命令する。そのフルちゃんと言う物体は魚屋のおじさんの様に元気良く『あいよ!』と返事をして、それから数秒うなってから、体を光らせた。

「うおおおおおおお!」
「いけぇ! パターンニに変身だ!」

 お嬢はノリノリでそう言う。もちろんそのフルちゃんとやらは光って光って、それから形を変えていく。まぶしすぎて良く見えなかった。もちろんお嬢は光が苦手なので自分の髪の毛を一本ちぎって目の前に壁を作る。あかりは目を閉じて、そこへ立って光が収まるのをまっていた。——それから数秒後。また間抜けな三日月のフルちゃんとやらの声がした。

「おーけーですよ。姉さん」

 お嬢は壁を元の髪の毛に戻す。それからお嬢はまだ目を瞑っているあかりに言う。

「もう大丈夫よ、あかり」

 お嬢の言葉で、ゆっくりと目を開けるあかり。目の前に三日月は居なくて、一人の人物が目の前に立っていた。それは、懐かしきあの人物。お嬢は目の前に居た人物を見て、あかりに向かって話しかける。

「フルちゃんは吸血鬼によって作られた獏見たいなもの。だけど夢は食わない。夢を見て、その夢に居た人物を真似して人間の姿になる。この姿を見たら、誰の

夢を見たか分かるよね? あかり」

 獏。それは夢を食う妖怪だ。吸血鬼によって、と言うことはお嬢たちに作られたのだろうか?
 だがそんなことはどうでもいい。今は目の前に居る人物が問題だ。あかりは苦笑して、その人物の『名前』呼んだ。

「秋傘、聖——」

 これは、その人物じゃないのに。

「また、会ったね」

 また、言ってしまった。