ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ弐-怪物の町- 参-五 ( No.112 )
- 日時: 2008/09/19 17:44
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
六話 [ 時固(ときと)めの自分-溶(うご)かし方- ]
「言っておくけどあかり。フルちゃんは見た目だけ、その秋傘くんだからね?」
「分かってるよ、お嬢」
再会じゃない再会。それにあかりは気が抜けていた。
目の前には秋傘じゃない秋傘がいる。見た目は秋傘、中身はフルちゃんとやら。まったくもって最低の獏だと思う。まさか大好きな亡き人の姿に変化をしてくれて。気が、狂う。
「あかり、大丈夫。怯えなくていい。そして——許して?」
お嬢は知っている。あかりが、今この獏が変化している人物があかりにとってどんな人物か知っている。今のあかりの状態にも気づいてたみたいで、お嬢はそう誤った。
あかりは何も答えず、黒い髪を揺らして頷く。それから獏の方を見、お嬢へと問う。
「『この人』は、何をするの?」
「フルちゃんはあかりの先生。あかりが自分の意思で時間を固(と)めれる様になる為の練習を一緒にしてくれる先生役かな」
あかりはそれを聞いてにこっと笑うと、ずんずん獏の元へ歩いていって手を差し出した。
「『始めまして』。祭風あかりと言います。よろしくお願いしますね——名前はなんと言うのですか?」
◆
親しき中にも礼儀あり
◆
お嬢はこう考えた。
時間が固まったのは、あかりが危険にさらされたから。なら同じようにまたあかりを危険な目にあわせて見る。するともしかしたらだが、また自分を護ろうとしてまた時間が固まるかもしれない。そう考えて——獏とあかりを戦わせることにしたのだ。
そして素手で戦わせてもあかりに命の危険は訪れない。なのでお嬢は、あかりには武器として太くて結構長い木の棒。獏は剣。ちなみにその武器はお嬢の髪の毛を変化させて作ってある。
「うらぁ!」
獏が振り下ろした剣をぎりぎりで横へ行きそれを交わす。それから、また後ろへ下がって行く獏に向かって息切れしながらあかりは言う。
「はっ……はっ、やりますね、カナタさんっ」
カナタ。それは獏が自分につけた名前。だが、名前をつけましょう、と獏に言ったのはあかり。『獏』と言う名前が寂しいかどうかで、あかりは獏自身に自分の名前を付けさせたのだ。
「いやいや、あかり殿も反射神経が強いようで」
あかりを呼ぶ名も『チビ』から『あかり殿』へ代わり、フルちゃんことフルムーンキッド二号ことカナタは笑いながら言う。やはり作られた妖怪だからか、『疲れる』と言う機能はついていない様に見える。
あかりは木の棒をまたぎゅっと両手で握り締めて、黒い髪を風に靡かせながらまたカナタへと走って行く。それからカナタの前でぴたりと止まり、カナタからの攻撃を待つ。カナタは攻撃役であかりが防御役だからだ。そうじゃないとどうにもならないし、あかりに危険が近づかない。
あかりは木の棒を構えて、カナタからの攻撃を待ち、待つ。カナタはあかりの顔を見て、それからゆっくりと握っていた剣を動かして——あかりの木の棒にぶつけた。
「うぐっ……」
木の棒にカナタが振り下ろした剣がどんどん刺さっていく。あかりは歯を食いしばってそれに絶える。いつもならば、ここでカナタは力を抜いてくれるからだ。だが、カナタは力を抜かない。逆に力を入れていくだけだ。あかりはこの場合の攻め方はどう回避するか分からない。あかりは逃げてカナタの攻撃を避けているため、唯一の武器の木の棒に剣ががっしりと埋まっていて、避けられない、動けない。きっとカナタはそこをついたのかもしれない。
カナタの振り下ろした剣はどんどん木の棒へ埋まって行く。カナタは笑いながら剣に力を加えて、加えて加えて加えて——剣を貫通させた。そしてその剣はあかりの頭の上を、いや、上で、固(と)まった。
「あ……」
カナタの笑みは、『時間が止まるよ』と言う笑みだったのかもしれない。
あかりは時間が固まった所で、真っ二つに千切れている木の棒を見て体の力を抜き、剣が刺さらないよう体を下へ下げながら後ろへとじりじり下がっていき、剣がもう上にはないことを目を上へやって確認してから頭を先頭に上へ体を上げた。
酸素だけが奇跡的に動いている今。時間の固まった世界。どうやったら元に戻せるか分からない。自分のお母さんの血を引き継いで時間を固めることができる様になったのだが、いまいち今の世界に慣れない。
「どうやったら、もどるんだろう……」
ふと、そう呟くあかり。
自分はまだ何も知らない。時間の溶(うご)かし方は? どうしたらお嬢だけを溶かせる? まだ、見習いだ。だが、だからこそ頑張るのかもしれない。地球を救えるのは、今のところ自分だけらしいからだ。お嬢でも死ななければ止められない地球の危機。それを自分も加わって止める。お嬢でも死ななければいけない危機——自分にはそれが止められるだろうか?
不安と不安が交差して頭の中を駆け巡る。自分なんかに何ができるだろうか? 夢見たいな力を使いこなすにはそれなりの時間が必要だ。もしも間に合わなかったら……。
考えれば考えるほど不安は生まれていく。そこであかりは何も考えずに時間を溶かす方法を考えて、考えて考えて考えて——ふと思いついたものをすぐ実行した。始めて時間を固まらせた日、自分が命令をすると時間が溶いた……と言う事は、今でもやれるはずだ。
「時間を——」
二度目の、命令。
「溶(うご)けぇ!」
時はまた、溶き始めた。
練習は成功の元。だなんて……あたり前すぎるじゃないか。