ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ弐-怪物の町- 参-八 ( No.118 )
- 日時: 2008/09/24 17:02
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
八話 [ Bloodprincess Timeprincess 下 -進化- ]
休憩中にカナタから教えてもらった。
自分のお母さんの結婚する前の名前は彩樫 立子(あやかし りつこ)と言ったらしい。『彩樫』と言う殺人を次々と起こした一族の一人娘。それはそれは厳しい家で、『いけないことをやったら叩かれる』と言うことが住み着いていた。そして彩樫立子は自分のお母さんの愛用の着物をクレヨンで汚した。もちろんその岡三は起こって、彩樫立子を打とうとした。そんな時だったらしい。彩樫立子、お母さんの『時間を固(と)められる』様になったのは。
だから自分もそうらしい。
だから自分も受け継いだ。
彩樫立子は自分の母だから。
だからこそ、それを自由に使えなくてはならない——らしい。
◆
世界の運命は自分に掛かっているらしいから。
◆
「おっりゃああぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!」
獏ことカナタが、あかりの頭向かって剣を振り下ろす。あかりはそれをギリギリで頭を右にそらし交わす。そしてカナタの振り下ろした剣は、あかりの首筋でぴたっと止まる。それ以上下へ動かしていたら左肩を真っ二つ。そこから下へ引き裂いてしまうからだ。
カナタは剣を軽々自分の所まで戻し、難しそうにあかりに言う。
「なぜあかり殿はぼくの剣を『避けれたのですか』?」
「……しらん」
「今までのことを言うと、あかり殿は時を固めて避けるかぼくがそこで攻撃を止めるか——と、それぐらいしないとできないはず……?」
「わたしって酷い言われようだな」
ひくひくと口元を吊り上げながらあかりが言う。
カナタは続けて考える様に言う。
「今のあかり殿にはそんな反射神経などないのでは……?」
「フルちゃん、ストップ」
カナタの言葉をさえぎり、今まで真っ黒な日傘をさしながら宙に浮いてカナタとあかりの戦闘を見ていたお嬢がカナタの前へと舞い降りた。それからあかりの方を見、静かに言う。
「今の見てて分かった。あかりちゃんは進化してライチュウになったのよ」
「お嬢。わたしはネズミじゃないわ」
「冗談よ冗談。あかりは頭を右へ動かす最中に少しだけ時間を止めたの。今の動きだけでそれだけ頭が右へ行くなんて考えられないわ」
つまり、とお嬢は言う。
「あかりは進化しているの。だってそうでしょ? あかりだって自分が時間を固めたことに気づいていない。心の底で『時間よ固まれ』と少し思っただけで、時間が固まるようになっている。あかりはフルちゃんとの戦いで時間を自由に操れるようになった。自分の命が危険だ。助けてくれ。——そう思うと、あかりの中の彩樫立子の血が騒ぎ出し、時間を固めると言うことだ。良くやったじゃない——時間のお姫様?」
お嬢は言い終わると、あかりの頭にぽんと手を置いて笑った。あかりは恥ずかしそうにしながらまた目をそらす。カナタはまたにっこり笑ってあかりを見ている。
時間のお姫様に残された課題は後一つだ。それは霊月ファイヤフライを固めないこと。彩樫の血を引いた時間のお姫様には、時間を固めることなどもうたやすい事だろう。固めるコツも掴んだ。だが、次の課題には少々梃子摺るだろう。それは、彩樫の血を持っていない純粋な吸血鬼霊月ファイヤフライを固めない。と言う超難問だからだ。だからと言ってその課題を捨てるわけには行かない。だからまたこれからも——。
「ね、あかり」
お嬢があかりの上に置いていた手をどけて、それをまたあかりの前に突き出す。
「なんですか?」
「——帰りましょう」
お嬢の言葉を聞き、あかりは、はいと返事をしてから自分の右手をそれの上に重ねた。お嬢はあかりの右手を握って、それからカナタに言う。
「フルちゃん、あなたも来なさい」
「分かってますよ」
「それならいいわ。じゃあまた後でね」
それからお嬢は一部の髪の毛をコウモリの翼のようなものに変え、髪の毛をまた一本ぷりちと千切り、それを日傘に変えてからあかりと一緒に空を飛んだ。夕焼けが、二人を包み込むような感じ。
それを見ていたカナタは、苦笑する。
「まったくだよ。あのお方も、あかり殿も。すぶ抜けた力を持っているよ。吸血鬼の中でも不思議すぎる力を持ったお嬢様と、かつて世界を揺らせた時固(ときと)め殺人鬼の娘のあかり殿——」
体を霧に変えて。
「また、この二人が『ワールドルーレパーソン(世界を支配する者)』になるのも、そう遠くはないだろうな」
そして消えた。