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Re: あかりのオユウギ弐-怪物の町- 参-完 ( No.124 )
日時: 2008/10/01 20:30
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

四章 [ 炸裂ライフゲーム-太陽粉砕、破壊の開宴- ]
一話 [ 最終作戦-地獄と悲鳴と赤鬼青鬼- ]

 夏とはいえ、四十度を軽々越える夏だなんて生まれて初めて過ごした。
 それで分かること。
 疑太陽が真月の双子を探して地球にものすごく近づいていること。それともう一つ。地球危機は迫りに迫ってきていると言うこと。これで分かること。
 もう悩む時間は残っていない。
 準備はまだ完全に完了したわけではない。『心の準備』というものがまだ準備できていないのだ。
 あかりには相当な負担がかかるし、失敗と言う不満もある。お嬢はなんとも思わないらしい。ルナはそれなりに心配している様だ。
 だが、もう後戻りはできない。
 三人には前に進む道しか残されていない。

 遊戯は始まる。
 宴は始まる。
 激闘は始まる。
 全ては、あかりに託された、あかりのお遊戯。あかりがお遊戯。あかりだけのお遊戯。

 あかりのオユウギ。



 お嬢はもう死んでいたも同然だった。
 吸血鬼に暑さは毒。だからだ。
 お嬢はクーラーできんきんに冷やした部屋の中で寝ているらしい。吸血鬼は日光と暑さが駄目だということが、また改めて分かったような気がする。
 ルナは結構平気らしい。いや、平気に見えるだけだ。
 まだ感情の直りが完全に直っていないらしく、熱くないように見える。
 あかりは扇風機を自分の物にして、ルナの隣で色々考えていた。

 失敗したら、どうしようか。
 使者を生きたえらせるだなんて、できない。それにお嬢の危険はもちろん察知できない。
 しかし、なぜ宇宙に行く時から時間を止めておかないのだろうか? それが気になるところだった。

「閻魔の所……」
「あかりさん。そんなに臆することは有りませんよ?」
「でも、確かめたいことがある」
「——大切な、ことですか?」

 ルナは静かにあかりに問う。
 あかりはクッションを取り、それに顔を埋めながら言う。

「とても、大切なこと」

 あかりの声がいつもより低く聞こえたのは、クッションのせいだろう。そう気軽に思い、それからルナは『ため息』をついて、『仕方なさそう』あかりに言った。

「門を、開きましょうか?」
「なにそれ」
「地獄の門ですよ。わたしがどうして一人でここまでこれたと思いますか? それはわたしの部屋に門……地獄の門があるから、ですし」

 そう言うとルナは立ち上がって、手をちょいちょいと振ってあかりを呼び、一緒に階段を上った。



 それは大きな扉だった。
 赤と黒の『ドーマン』の様な形で、まわりは金で囲まれている。洋風のその大きな扉を、ルナは紹介してくれた。

「わたしが拘束されていた部屋に、閻魔様が人間の姿になって来てくれました。閻魔様はわたしにカッターと小さくなっているこの扉をくれて拘束を外してくれました。それで、こう言いました」

 なんとも残酷な、それ。

「『それでできることをして見ろ。できたらその扉を通じて地獄まで来て見ろ』と——」

 ルナはそう言って、扉を摩る。

「わたしはカッターで姉様……家族を殺し、この扉を見つめました。すると急に大きくなって、わたしはこの扉を開いて地獄へ行きました」
「あ、ありがとう」

 見事にできている残酷な話。
 あかりは苦笑しながら扉を摩る。そのあかりを見てルナが呟いた。

「いってらっしゃい」

 あかりは微笑して、扉のノブを握り締めて、それを引いた。



「うおっ」

 皮が半分以上とけている人間発見。動いていない。死んでいるのだろう……。

「あちゃー」

 体に穴があいている人間発見。これも死んでいるらしい。
 それにしても、これが本当の地獄なんだ——とあかりは思っていた。
 人間の血で汚れた道じゃない道をとぼとぼ歩いていくあかりに気づいたのか、そこらへんで歩いていた赤い体に黄色の角。赤鬼があかりに声をかけた。

「名前は?」
「にぎゃっ! 鬼っ!」
「そうだけどよぉ……で、名前は?」
「知らない人には……いや、知らない鬼には名前は教えちゃ駄目だって聞かされていて——」
「ちゃうな。名前! 言わんと針山行きだぜ?」
「じゃあ……祭風あかり」

 あかりの名前を聞いたとたん、赤鬼は少し曲げていた背筋をぴんと伸ばし、あかりにハキハキと喋る。

「あかりさんでございましたか! 閻魔大王様に合われるのですね。では——どうぞこちらへぇ」
「そう」

 赤鬼に案内されてそこを歩いていると、だんだんまわりは暗くなり、なぜかだんだん人間の悲鳴が聞こえて来た。

「あ、声は」
「きゃああああああああ」
「なさらず」
「あ、分か」
「やめてえええええええ」
「——りましたよ?」

 気にならない分けがない。
 やはりこの悲鳴にも慣れている赤鬼は何も思わないらしい。すごいと思う。思っていたところで、『そこ』についた。
 いつの間にか赤鬼は消えていて、閻魔大王は座っている大きい椅子の後ろに舌を抜く道具をしまっていた。それをしまい終わり、閻魔大王はこちらを向いてあかりに言う。

「どうした?」
「単刀直入に言いましょう。なぜお嬢が宇宙に出るとき、既に時を固(と)めておかないのですか?」
「そうだぎゃ……。じゃあ単刀直入な問いにすぐ答えよう。それは、『お前がもたないからだ』」

 『お前がもたないからだ』。
 『あかりがもたないからだ』。
 『あかりは宇宙の時間をずっと固めているだけの力がないからだ』。
 なんだそれ。

「え?」
「霊月が霧となって太陽に近づいていても、お前は宇宙の圧倒的な力にうちのめされる。だからだ。だからお前の体のことも考えて、『霊月と一緒に出した』結論ぎゃ」

 『霊月と一緒に出した』。
 『お嬢と閻魔と一緒に出した』——?
 とても、あかりは悲しかった。
 自分のために、また命を削ろうとしているお嬢のことを思うと、悲しくなる。だが、泣かない。ここで泣いたらどうする? だから泣かない。あかりは普通に涙をこらえながら、閻魔大王に口答えをした。

「わたしのことは関係ないじゃない。わたしよりお嬢。お嬢のことを心配してよ」
「無理だ」
「そんなことはないでしょう? わたしは別に死んでもいいもの。せっかく会えた友達を、殺させるわけにはいかない」
「手は打ってある」
「へんなこと言っちゃだめだね。だめだよ」
「何を狂っているのだ? まぁ良い。手は打ってあるのだ」

 狂っている? なんだそれ。

「狂ってないわ。狂っていない。だから、だからお嬢を、助けてあげてよ!」

 そこでなぜか、意識が途切れた。