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Re: あかりのオユウギ2-怪物の町- 4-4 ( No.148 )
日時: 2008/10/12 18:35
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

五話 [ 紅い吸血鬼-剣呑生命(けんのんライフ)- ]

 ボロボロ……ガシャア。

 霊月の右手が消滅した。

 正しく言うと崩れて消えた。だが。
 右手に負担を掛けすぎたのだろうか?
 壊れて消えた、右手は戻らない。
 永遠に宇宙を旅する。

「……いってらっしゃい。もう帰ってこなくていいぞ」

 いままで、ありがとう。
 ってね。



 右手を見送ってから、霊月は太陽を見た。
 刹那にポロポロ崩れる頬。
 その頬を優しく触りながら霊月は太陽に向かってう。

「よーくも右手を崩してくれたな……くくく——」

 次は、怒りを籠(こ)めて。

「倍返しだだからなッ!」

 そして走る。
 走りながら自分の髪の毛を一本千切り、それを紅い剣に変える。それを粉砕しかけの左手に『持たせ』る。
 そして走る。
 もう左手はもう動かない。太陽に犯されたのだろう。だから、指を丸めて動かなくなっている左手に、それを『持たせた』のだ。正しく言えば刺した。だが。
 そして走る。走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る。
 そして、気づけば目の前には太陽が居た。
 
「うおらああああああああああ!」

 さきほどよりも早く走り、太陽に向かって剣を振るう。
 すると。

 『ぼしゅうう』。

 剣は刹那にチリになった。
 それを見て霊月は足に力をいれて数十メートル先の所へ移動する。非難する。逃げる。
 そこでくくく、と笑い、言ってみせる。

「さすがに髪の毛じゃあ無理だな。仕方がない。本物の剣でやるしかないか——」

 霊月は言うと、ポロポロと砂となり崩れてきている左手の肩の部分を、『噛んだ』。
 出てくる血。
 それを舌ですくい、そのすくった血を掌にうつす。そしてしゃがみ込み、その掌を下に突き出した。足が立っているところと同じところで止まる左手。見えない床でもあるのだろうか?
 そして霊月は静かに言った。
 呪文のような、それを。

「A red scar of the night of today(今日の夜の赤い傷跡)」

 それは最終兵器ともいえるもの。

「赤い夜には赤い血を——」

 刹那に、左手を中心に紅い魔法陣が現れる。

「わたしに逆らうものには——」

 するとその魔法陣から剣の柄が出てきて、手を丸めて一つ分くらいに柄が出てきたその時。霊月はその柄を左手に刺し、刺しながらそれをひっぱった。

「極限の、死を」

 それは、紅い剣だった。真っ紅(まっか)な、剣。
 それをぶん、と振るい、また太陽を見た。睨みつけた。
 そしていつの間にかまわりには紅い騎士が立っており、もう太陽に向かって走っていた。

「結構破壊してからやらなきゃいけないんだよな」

 呟いて、霊月は剣を前に構えて太陽に向かって突進して行った。
 太陽と言っても『疑』太陽。機械で作られた『それ』は、鉄のかたまり。だから——剣が刺さる。

「所詮はゴミのかたまり! それなりにこちらの剣は溶けるかもしれないが……その前に片付けてやる!」

 叫び、剣を振るう。
 霊月は、狂乱していた。



 黙って座っていられる状況ではない。だがあかりとルナは黙って、閻魔が用意した椅子に座っていた。
 脂汗が果てしなく出てくる。
 自分はこんなに汗かきだったか?
 考えても仕方ない。
 あかりは両手で、霊月のくれた赤い長い髪をぎゅっと持ち、目をぐっと瞑った。
 暗闇の中に、浮かぶ言葉。それが交差する。

「……三人一緒に、家に帰るんだ」

 『わたしは世界を護ろうとしていない。わたしはあかりと月子を護る。護りに行く。護らなければいけない。護ることが使命だからね』。

「使命って……なんだそれ、ははっ」

 『わたしとファイヤフライレッドナイト(蛍の赤い騎士)が、ブッ壊すの』。

「勝手なこと言ってさ……」

 『友達を失うのは辛い。だからわたしが前に立つ。それだけよ』。

「本当は、自分だって怖いくせにさ……本当に、バ……うっく、ひっく、くっ」

 涙が、出てきた。
 それは頬を伝って、来ているジーパンにぽとりと落ちた。
 悲しい。
 哀しい。
 とても、悲しくて、哀しくて、おかしくて、滑稽で、バカみたいで、夢であってほしくて——。

「こんなんならさっ、ひっ……うっく、夢オチで、いいのになあ」

 霊月が宇宙へ言った後、閻魔大王から聞かされたことが一つあった。
 それは、とても哀しいことだった。

 『霊月が生きて帰ってくる可能性は、零.零零零零零零零零零一パーセントも、無い』

 それであかりは泣いた。号泣した。悲しかったから。
 せめてもで零.零零零零零零零零零一パーセントは有るって、言ってほしかった。

「ほっぺつねってもさ、ひっ、痛いんだよね……ひっく」

 夢である、と言う希望はもう去ってしまった。
 嘘付きを殺す閻魔が嘘をつくとは思えない。
 実感のある明晰夢なんてないだろう。

「生きる、ことってさ、うっく……もっとさ、楽しいことだと、思ってたよ」

 泣いているあかりを、横から見るルナ。
 そして見るだけでは耐えられなくなったらしく、席を立ってあかりの隣にしゃがみ込んだ。
 そしてあかりの頭をゆっくり撫でてから、優しく、子守唄を歌うように優しい声で言った。

「生きることはつらいです。トラブルの起きない人生なんてないです。だから泣き止んでください。今までのことが全て夢で終わる、ということは、わたしが許しません。あかりさんとお嬢と会えたことはとても嬉しいことです。ですからね、トラブルだれけの人生だからこそ、そのトラブルの数だけ良いことがあるんですよ。どんな些細なトラブルでも、です。あかりさんとお嬢に会えたこともトラブル。だから良いことがあった。だから感情を取り戻せた。だから、だから、大丈夫です。トラブルの後には、必ずいいことが起こりますから……」
「……そうだよね、そうだよね。うん、ありがとうね」

 あかりは霊月の髪を握っていた右手を離し、零れてくる涙を拭いた。
 するとルナは、もう大丈夫ですねと言ってあかりの隣から立ち上がり、自分の席に戻った。
 あかりはルナの方を向き、微笑んで見せた。
 微笑んだ。
 小さく笑った。
 ちゃんとした嬉しいことで笑ってないから。
 大きな笑みは、取っておこう。と言うこと。
 そしてあかりは呟いた。

「お嬢が帰って来たら、精一杯笑わなくちゃね」

 三人で笑えることが、最大の、最高良いこと。