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- Re: あかりのオユウギ2-怪物の町- 4-最終話 ( No.154 )
- 日時: 2008/10/14 19:56
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
七話 [ さようなら-怒り- 下 ]
「……遅いな」
地獄で、あかりがぽつりと呟いた。
——ぶちん。
何かの切れる音が、聞こえた。
目の前にいる、閻魔大王様から。
ルナにもその音は聞こえたらしく、閻魔大王の方を見ている。見られている閻魔大王は、はぁとため息をついて、当たり前のように言った。
「霊月が死んだ」
言って、こちらを見た。
『何か言いたいことはあるか?』とか。そう問いているように。こちらを凝視した。
ルナは俯いて何も言わない。
あかりは——自分の膝を殴っていた。
ぺしぺしぺしぺし、べちんっ!
その音と一緒に、あかりは虎の如く吼えた。
「ああもう!」
悲しんではいない。
「ああもうああもうああもうああもうああもうああもうああもうああもうああもうああもう——バカヤロー!」
怒鳴って、俯く。
暴言し、俯く。
耳の後ろにあった髪、前髪が前へ出、表情が読めない。
だが、読めなかったのは数十秒だけだった。
「う……うっく、ひっ…………あああ……」
子犬のようなその声が、髪で隠されたあかりの方から聞こえてきたのだった。
泣いていた。
鳴いていた。
「なんでぇ?……ひっく…………」
悲しみと共に、疑問があまりの頭の中をまわる。
なぜ、霊月は生きていないのか?
その疑問を、もう少し難しく考えた、疑問。
なぜ、霊月は自分の命を助けてあげなかったのか?
なぜ、霊月は時間を固(と)めなかったのか?
と言う、疑問。
あかりは一切時間が固まっていないことを知っている。あかりは霊月に血を与え、霊月の意思でちゃんと時間が固まった。
なのにあかりは時間の固まった世界を見ていない。
どうも変で、疑問で、おかしくて——あかりはその事を涙を拭いて閻魔大王に話した。
「さてと、だ。お前らを観察していたところ——」
ストーカーかよ。
「ルナルドールがあかりの目に針を突きつけた。そして自動的に時間は固まり、無事霊月とあかりは時間の固まった世界に来られた、と。だからいけないんぎゃ」
「はい、閻魔せんせー」
そこへあかりが挙手をする。
「意味が分かりません」
「キャラ崩れてないぶ?」
噛み、閻魔は続けた。
「ちょっとしたトリックぎゃよ」
「はい、閻魔センセー」
『センセー』の意味が良く分かっていないらしく、そこだけが棒読みだったルナルドールが挙手。そして発言。
「トリックってどういうものなんですか?」
「だからな。お前らは間違っていたのだ。得にルナルドール、お前が一番間違ってぎゅ(い)る」
そこで閻魔は続けた。
「時間が固まったのはあかりに危険を訪れさせた。霊月についての実験をするのにあかりに危険を訪れさせてどうする? 時間が固まったのはあかりに危険が訪れたからだ。時間が固まったのは霊月に危険が訪れたことではないということだ。だからその時点で、霊月に危険を訪れさせなければいけないのだ。つまり、あかりに危険が訪れない限り、時間が固まらないのだ。霊月はなぜかそれには気づいてなかったみたいだがな」
閻魔大王は言い終え、ちらりとあかりをルナを見た。
ルナは震えていて、あかりは先ほどと同じように膝を殴っていた。
それを見て、呟く。
「大丈夫だがな」
「はい、閻魔大王さん?」
再びあかりからの挙手。
「大丈夫ということはどういうことですか?」
びしばしと膝を叩きながら言う。
閻魔大王はさらりと答えた。
「霊月は——助かる」
あかりの握っている霊月の髪を見て、
「それのおかげでな」
そして笑った。
なんでこの状況で笑えるかな。
あかりは思い、膝をばしんと叩いた。
◆
怒りと悲しみ。
両方あったけど、怒りの方が多かった。
四章、完