ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2-怪物の町- 5-序 ( No.165 )
- 日時: 2008/10/19 13:19
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
一話 [ それを待っていた-詐欺師- ]
十字架と書いて『とじか』と読む名前の巫女はあかりとルナの目の前で緑茶をすすっていた。
ずずずず、あつー! という音と声が聞こえてくる。
もちろんあかりとるルナにも緑茶が出されたが、あかりは猫舌でルナは緑茶は苦手なので、飲めない。
ずずず、と巫女は緑茶を飲み終わり、ちゃぶ台に湯のみをことりと置いた。自分の目の前に。
「ええと、状況は分かりました」
「その台詞前にも聞いたような……?」
「いいのですに」
呟いてから、十字架は続けた。
「閻魔と言う男の人に——」
「ストップ。違う違う違う。もしかして十字架ちゃんって閻魔のことを普通の男の人だと思ってる?」
「閻魔あいという女の子も居ますし? にー」
「それは、あいという女の子に地獄の閻魔大王がつけた名前だろ?」
「閻魔大王? 閻魔幻天魔大魔王(えんげんてんまだいまおう)のことですかにー?」
「え、何それ」
ものすごく初耳だった。
「閻魔大王、地獄の大王。その閻魔大王が最初に裁いた罪人が閻魔大王に就けた正式名称だそうですに」
「ふうん、で? その罪人の名前は?」
「×××××」
……ん?
「え? ちょっと待って、今のなにそれ? 日本語?」
「閻魔大王はずうっと昔から居るんですよ。だからその最初の罪人の名前が良く聞き取れないのは普通のことです。今ではその罪人の名前を発音するのは難しいですからにー」
「うーん」
「地球に最初に生まれた生物は猿人と言いますし、きっとその猿人は顎がすごく開いたんでしょう、にー」
本気でその最初の罪人の名前が聞きとれなかったらしく、あかりは少し沈んでいた。あかりは結構頭もよく、英語は得意科目の一つだった。だが、猿人の名前は英語とは違ったらしい。本当に無理みたいだ。なのに十字架はその罪人の名前をすらすらと言って見せた。だから沈んでいた。だから十字架を恨めしく思っていた。
そんな変な府陰気の中、ルナがちょっとちょっと、と言ってその閻魔大王にまつわる説の話につっこみを入れた。そのちょっとちょっと、と言う言葉を聞いてあかりは顔を上げてルナを見る。
「猿人の前に妖怪が存在していたと言うんですか?」
「つっこむのそこかよ! 普通は『元の話題に戻りましょうよ』とかいうでしょ?」
「ううむ。というか閻魔大王って妖怪なのですか?」
「ちょっと待て! 無視するなって!」
「閻魔大王は見た感じ人間ですがね……顔が赤いところから鬼といえますしね……」
そこであかりからブチンという何かが切れた音がして、その音が聞こえたのかルナは、あかりからすぐに三センチほど離れる。十字架は湯のみを持ち、湯のみで自分の顔を隠そうとしている。そう、隠そうとしているのだ。
そんなことは構わず、あかりは大声で怒鳴った。
「無視するなって! ……ああもう! もう! もういやだああああああああああああああー!」
◆
『びしゃあ』という何かを零した音が聞こえた。
それから、『ごつん』という鈍い音が聞こえた。
「いったあ……」
ルナが、あかりに向かって湯のみを投げていたのだ。
『びしゃあ』という音は湯のみの中の緑茶を零す音。十字架がそれを見て悲しそうな顔をしたがルナは気にになかった。
『ごつん』という音は湯のみがあかりに当たった時の音。また十字架がそれを見て悲しそうな顔をしたが、ルナはまた気にしなかった。
「怒鳴ってはいけません、あかりさん」
「何気にかっこいいことしてから言うなって!」
笑いまじりに怒鳴なるあかりを、ルナが睨む。
その睨みを見て、あかりは口に空気をいっぱい入れて、顔を赤めていった。
「ごめんなさい」
「本当にキャラ変わりましたね、あかりさん」
「……もういやだああああああああああああああー!」
「えへへ、あかりさん……可愛いに」
「全部お前の所為なんだよおおおおおお!」
◆
「閻魔大王に言われてここに来て、吸血鬼を生き返らせてほしいのですに? そういうことですかに?」
「ああ」
ぶっきらぼうに答えるあかりの頭には、たんこぶがあった。むすっとしたあかりは十字架の顔を見もしない。
十字架はあかりをちらりと見、それから言った。
「無理ですに」
「……え?」
十字架の言葉に声を漏らすルナ。それからその十字架の言葉に疑問を持ち、十字架に問うた。
「無理……とは?」
「ですからに」
ふぅ、とため息をついて十字架は続けた。
「神社は神を祭るところ。そんなところで怪物を生き返らせようだなんて、神主さんがどういうか……」
「じゃあ秘密にしてやればいいじゃないか」
そこであかりが口を開いた。
「空き地ならいくらでもあるだろ?」
「無理ですに」
「……なんだよ、こっちは真剣に信じてここに来たのに——嘘だったのか……?」
「に?」
「独り言さ」
言ってあかりはルナの顔を見た。
ルナはあかりの視線に気づいてあかりを見る。
あかりは顔を斜め左にくい、と向ける。
ルナは頷く。
そしてあかりとルナはたった。
「ど、どこへいくんですかに?」
あわあわとしながら十字架は言う。
あかりを先頭に二人は部屋の扉を開けて、離れから出て行った。
十字架はあわてて廊下を走り、それをおってルナの手を急いで握って引きとめる。
「ちょっと待ってく——」
「なんですか」
十字架の言葉をさえぎり、ルナは言う。
「その吸血鬼を生き返らせてくれないのならばここに居る理由はないのです」
「うににー。そういう言い方をされると……」
きゅぴーん。
きゅぴーんと、音が聞こえた。
何の音かはしらないが、あかりはいつの間にかルナと入れ替わっており、目を黒い目を赤く光らせながら十字架に問う。
「言い方をさせると? 何?」
「うにっ!? いいいいつの間に!?」
「答えて? 言い方をされると? 何?」
あかりの顔が十字架に近づけられる。
怖い。
恐ろしい。
「そんな言い方をされると……生き返らせたくなるじゃないですかに!」
「よし、来た!」
その言葉を待っていた。とでも言うように、あかりは十字架に続けた。
「じゃあ生き返らせてくれるんだよな?」
「うう、うにに?」
「そういったって事は、生き返らせてくれるんだよな?」
「うににー」
「生き返らせてくれるんだよな?」
あかりは笑っていた。
それはどこかに邪悪っぽいオーラが出ていて、そう。邪悪な笑み。それだった。
十字架は冷や汗を少し流しながら、あかりの問いに静かに答えた。
「は、はいです。にー」
瞬間、あかりが掌をルナの向けて上げ、その掌にルナがタッチ。
ぱぁん。
ハイタッチをした二人は、すたすたと離れへ戻って歩く。
十字架はぽかんとしながら離れへ自分と反対方向へと歩いていく二人を見る。
だまされた。
きっと二人は自分がそう言うかのように作戦を刹那につくり、実行したと。
詐欺だ。
詐欺師だ。
凶悪だ。
邪悪だ。
だが十字架は、言ってしまったものにはそれを実行しざるおえない。そう思い、ゆっくりと歩いて離れへ戻った。