ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.170 )
- 日時: 2008/10/21 19:21
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
二話 [ 憑き狐(つききつね)-憑かれた巫女- ]
「では、この神社を今からのっとる!」
離れの中。
そこにいた人間の人数は、一人増えていた。
神主だった。
あっけなく捕まって理由を話されて、それからなぜかロープでぐるぐる巻き、目隠しにされている。
神主は、『分かったよ、お嬢ちゃんたち』とあっさりと受け入れてくれた。そして協力というか許しを貰って、良しだったのだが、ルナが言うには『怪しいです』なのでとりあえずロープでぐるぐる巻き、目隠しをした。恐るべし警戒力。恐るべし月人形。
準備が整ったところで、十字架は人差し指をぴんと立ててあかりとルナに体を向けた。
「では、始めます。——ですがわたしに人を生き返らせる奇跡の力なんて宿っていないので、違う人を……人? 人じゃないな。うん」
一人で頷き、続ける。
「違う怪物を呼んで、それから吸血鬼を生き返らせますに」
「あのさ、十字架ちゃん」
「なんですか? にー?」
「怪物って誰よ」
「ええとですね——説明しなきゃいけないですか?」
「ああ、何があっても、だ。雨が降っても槍が降っても鉄が降っても星が降っても彼氏がふっても彼女がふっても——だ」
それを聞いて十字架は、仕方ないですに、と呟いてから——
ごいぃん。
神主の頭をそこらへんにあった、埃のかぶった無地の水色の花瓶で叩いた。
打撃。
神主はその打撃で体がゆれ、後ろへ倒れこんでしまった。抵抗がない。返事がない。屍になったようだ。
「気絶したたけだけどな」
「んに? 何かいいましたか? に?」
きょとんとして、花瓶を床に置く十字架。そんなゆったりとした動きに、あかりはつっこみを入れた。
「何普通に打撃くわえてんだよ!」
「うにに? ああ、えっとですね……」
「考えずに行動したのか!?」
「いやいや、ええと、その、怪物のことを——知られたくなかったからですに」
言って、俯く十字架。
それを見て、ルナが声を出した。
「少し詳しく聞きたいですね」
「話すつもりですに」
言って、十字架は続けた。
「わたしは一年前くらいに、その怪物に恋をされました。そして、その怪物は美少年の姿でわたしに告白をしてくれました。わたしは、その熱心な気持ちに心を打たれて、OKを出しました。付きあってから数日がたち、そんな時に、怪物にあることを話されました」
少し間をあけて、十字架は続ける。
「『おれはお前のからだがほしい』と。そう、その怪物は、人に憑いて暮らす怪物でした」
憑いて暮らす怪物。
妖怪。
——狐。
「怪物は『狐』で、しかも狐の妖怪でした。怪物は狐でありながら、神だったのです」
「ああ、お稲荷様か」
そこであかりが言い、十字架はそれに頷いた。
「元々巫女として生まれてきたわたし。だから——良いと思った。そして、またOKしました。すると怪物はわたしの中へと消えた。これは、巫女として嬉しいことでした。この歩里島神社もお稲荷様を住ませる神社。その巫女だから——嬉しかったのです。ですが、嬉しさは、すぐ消えました」
声を少し低くして、悲しそうに十字架は言った。
「わたしについた怪物は、狐であり、お稲荷さんであり——こっくりさんだったのです」
こっくりさん。
前噂だった、妖怪のこと。
白い紙に鳥居をかき、その下に『はい』と『いいえ』をかく。それの下にひらがなで五十音を書く。
そして鳥居に五円を置き、言うのだ。
『こっくりさんこっくりさん、お出でになられましたら返事をください』と。
その五円が『はい』に勝手に動いたら、こっくりさんは居ることになる。
そして五十音のところで五円を当てていき、それで願いをこっくりさんに教える。たとえば、『お金がほしい』とか、『明日のテストで満点を取りたい』だとか。他には『彼氏がほしい』とか——『○○○○さんを殺してほしい』とか。
こっくりさんはなんでも聞いてくれる。もちろん願いも叶う。だが、『お金がほしい』という願いは、依頼人の家族のお金をうばって依頼人の財布へ入れるだとか。そんな曖昧なお願いの始末をする。だが結局願いは叶っているので、依頼人は何もいえない。
『○○○○さんを殺してほしい』は、依頼人にその殺してほしい人物を殺させるのだ。
「こっくりさんは悪の怪物です。キューピットさんとか、そう呼ばれていますが……こっくりさんは悪いことをする怪物——妖怪なのです。夜寝て、朝起きて枕元を見たら、そこにはお願いの書かれた紙がたくさん置いて有りました」
神を祭る聖地、神社を管理する巫女とあろうものが、その悪い妖怪に憑かれてしまった。
だから十字架は神主を打撃して気絶させたのだ。
神主にそれを聞かれたら——十字架は巫女としてやっていけないから。
「そしてわたしは——」
「分かったよ、十字架」
そこであかりが十字架の言葉をさえぎり、それから十字架の隣へ行って頭を撫でてやった。十字架はありがとうですに、といって笑った。
きっと、スッキリしたのだろう。
今まで誰にもいえなかったことだから。
◆
「で、です」
話は進んでいっていた。
一度目覚めた神主をまた眠らせて、それから三人でまた話していた。
「わたしの中にいる怪物を呼び出すのには、簡単な儀式が必要です。その儀式とは——」
「とは?」「とは?」
二人して十字架の言った言葉の最後を真似して、十字架の言葉をまった。
十字架は、真剣そうに答えた。
「こっくりさんを、してください」
えー。
「こっくりさんの儀式をするんです。そして、『吸血鬼を生き返らせてください』って五円でやるんです。もちろんわたしからの頼みだと言っておいてください。にー」
にこっと笑って、十字架は新しく入れた緑茶を飲んだ。
あかりとルナは、とっくの昔に覚めている緑茶をすすって、
「なんだそれっ!」「なんだそれ!」
同時に言った。