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- Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.178 )
- 日時: 2008/10/25 14:40
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
四話 [ 話、準備-即答ジェントルフェレット- ]
「俺様は要(かなめ)だ。雨入り(あめいり)の要、呪い殺し(まじないごろし)の要って呼ばれてる。誇り高き『狐殺技術団(きゅうさつぎじゅつだん)』の『こっくりさん』と『お稲荷様』の間に生まれた妖怪——それが俺様だ」
そして、にこっと笑う。
分からない点がいくつかあった。
『狐殺技術団』という言葉と、『《こっくりさん》と《お稲荷様》の間に生まれた妖怪』という部分。
それについて、ルナが五円から指を離して問う。
「『狐殺技術団』というところと、『《こっくりさん》と《お稲荷様》の間に生まれた妖怪』というところについて、教えてください」
「ん? ああ、分かった分かった。そうだよなぁ、お前らは人間だから妖怪の世界の用語を知らないんだよなぁ……んじゃ手軽に説明するから」
言って、こっくりさん——要は、土下座の状態から身を起こした為に正座となっているあかりとルナの目の前にどしっと胡坐をかいて座った。
「『狐殺技術団』っつーのはさ、狐の組なんだよ。妖怪の中の、狐の種類の組のこと。他にも『神殺道化師団(しんさつどうけしだん)』っつー神様の組もある。一様お稲荷様も神様だけどさ、一様狐だから一様狐の組に入ってるんだなー……これが」
『狐殺技術団』。妖怪の中の、狐類の妖怪が集まる組。ただの狐にお稲荷様、こっくりさんなどが集まっている組——らしい。
「んで次。『《こっくりさん》と《お稲荷様》の間に生まれた妖怪』っつーのはさ、その『狐殺技術団』の中の『こっくりさん』の集団と『お稲荷様』の集団の中の男と女が結婚した。そして結婚して生まれた妖怪っつーことなんだよ。つまりさ、俺様はハーフなんだよ。『こっくりさん』と『お稲荷様』のハーフ。今じゃ違う集団で結婚できるのは『神殺道化師団』とか『病殺剣術団(びょうさつけんじゅつだん)』とかそんなのに限られてるから、俺様って結構有名なんだぜ? しかも『お稲荷様』っつー神様やってて、神様のくせに『こっくりさん』で人殺してんのがこれまた有名でさぁ」
『こっくりさん』と『お稲荷様』の中のハーフは、お喋り好きだった。
◆
要というこっくりさんとお稲荷様のハーフは、にかにか笑っていた。
あかりは妖怪はもっと怖く恐ろしいものだと思い込んでいて、少し気が抜けていた。
ルナは霊月を参照に怪物という言葉を覚えていたので、そこまであかりのように思い込んではいなかった。
「でさ、あんたたち、名前何? さすがに人間っつーので呼ばれたらカチンってくるだろ? ま、普通だけどな。うん。だから教えて」
笑って、こちらへ顔を近づける。
あかりはひとまずきょとんとしながら要を見、それから自己紹介をした。
「わたしは祭風あかり。お父さんを殺したわ。で、お母さんが時固(ときと)めの魔術士——世界を支配するもの(ワールドルーレパーソン)って呼ばれてるわ。だから一様時は固(と)められる。そんな人間はずれの人間……よろしく」
次に、ルナが言った。
「ルナルドール・ウィーツィオ。月人形です。姉様に虐待されて、それから閻魔大王様に導かれて姉様を殺しました」
言い終わって、また改めて二人は要を見る。
要は——にかにか笑っていた。
「くはは! なんだよ、二人とも人、殺しちまったのか? くはは! ま、俺よりは人殺し暦は下だよな? 上だったらあんたたちババアだもんな! くはは!」
要は笑って、それから、二人の名前を呼んだ。
二人の名前を呼ぶときの要の顔は、先ほどまでの笑い顔ではなく、真剣な、表情だった。
「祭風あかり、ルナルドール・ウィーツィオ」
「……はい?」「……はい」
返事が帰ってきたところで、要は続けた。
「霊月お嬢様が死んだってことは——本当なのか?」
「……え? れい、げつ、おじょう……さま?」
「あんたたちはそう言っただろう。『霊月という吸血鬼を生き返らせてほしい』——っつーやつ。それについてどうなのか、本当なのかを教えてほしいといっているんだ。お嬢様は強いお方だ。さて、誰に、どうやって、どんな卑怯な手を使われて殺されたんだ? というか殺されたというのは本当なのか?」
要は続ける。
「雷月(らいげつ)に騙されたか? それともあんたたちを人質に取られてあっけなく殺されちまったか? それとも自殺か? どうなんだよ……お嬢様はそんなんで死ぬようなお方じゃねーんだよ。……自殺だってありえねーし、あんたたちを人質にとられたとしてもそれなりな術を使って切り抜けるお方だ。一体、何がどうなってそうなったっつーんだ? 教えろよ……」
「……」「……」
あかりとルナは何も言わない。
「……お嬢様は、力のあるお方だ。だから、もしお嬢様が本当に殺されたってんならお嬢様を殺した相手を俺様がブッ殺すからよぉ。だから、教えろ……教えてくれ……」
それは、悲しんでいるようにしか聞こえなかった。
霊月のことを知っていて、しかも敵討ちもしようと考えている。これは、霊月となんらかの関係がある印だろう。しかも霊月のことをお嬢様と呼んでいる——これもなにか理由がありそうだった。
「お嬢様は……生きてるのか? 死んでんのか? どっちなんだ?」
あかりとルナに問う要。
黙っていると、要は続ける。
「どうなんだ? 生きてるのか? 死んでんのか」と続ける。
もう、見ていられない。何だろうか、この空気は……。
「死んでいます」
そこで、ルナが答えた。
要はルナを見、それからまた問う。
「本当だよな?」
「ええ。本当です。殺され方は太陽を壊し、その衝撃で。お嬢を殺した者は真月と言う双子の吸血鬼と、偽者の太陽です」
それを聞いて、要は、笑った。
普通なら悲しむだろうに、霊月を殺した吸血鬼のことを顔に出して憎く思うだろう。だが、要は笑っていた。「ならおーけー」と呟きながら。
「よし。なら、おーけーだ。心配っつーの? そんな感じだったんだけどさ、それならおーけーだ。俺様はそこまで感情を出す妖怪じゃないんだぜ? おおっと、話がまとまってねぇな。まあいい。すぐに始めるから、こっちこい」
立って、離れの扉の前まで歩いて手招きする要。
あかりとルナは正座から立ち上がり、要のところへ行く。
「おおっと」
どうやら足がしびれたらしく、あかりがそう声を出した。ルナはしびれてないらしく、何食わぬ顔であかりにどうしましたか? と声をかける。
あかりは額に怒りマークを浮かべながらも、要のところまで言った。すると刹那。
びしゅうう。
と、音がした。
混乱するあかりルナ。どこから音がしたのかを探そうとあちらこちらを見回す。
そこで、あかりが声を上げた。
「痛っ!」
痛かったのは、右の頬。あかりは恐る恐るその右の頬に手を伸ばし、そこを触ってみた。
ぬとっと。
気持ち悪い感触がして、その右頬を触った右手を、見てみた。
「……え?」
右手には、血がついていた。赤い、あかりの血。
そう、あかりの右頬は切れていたのだ。そしてそこを触ったので、血がついた。そんな行程だ。
そして刹那に、あかりの右手に舌が伸びた。
「うおっ」
べろり。
と。
長い舌が——要の長い舌があかりの手についた血を舐めた。
「これでおーけー」
「……おーけーじゃない! 何よさっきの!」
顔を赤らめながらも要へ向かって怒鳴るあかり。
要はあかりが怒鳴る前にすばやく耳に指を突っ込み耳栓をしていて、その耳栓を抜いてからくはは、と笑って言った。
「契約。これで完全に俺様はこの願いを叶えるまで他の願いは受け付けない。あんたたちはこの願いを拒否できなくなった。これでいいだろ? あ、後でそっちのあんたの血もいただくならな」
ルナを指差して、要は笑った。