ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.183 )
- 日時: 2008/10/26 20:27
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
五話 [ 実行、行動-妖怪リトルウォー- 上 ]
「あんたたちの頬を切ったのは鎌鼬っつーのでさ、通りすがりにしゅぱっとやるんだけどよ、普通は足を切るんだけど今回は俺様が念入りに頼んで頬を切ってもらったんだぜ。すげーだろ。ま、俺様に逆らえる妖怪なんざ神様と父さんと母さんだけだからな——くはは! んじゃさ、お嬢様を生き返らせるには魂の集まり場へ行かなきゃいけねーんだよな。うんうん、だから、そこに行く為にはやらなきゃいけねーことが一つあるんだ。それを今から実行するから、俺様に迷わずついてこい」
「いや、迷わずって……神社の中で迷うわけ——」
「どうだろうな」
あかりの言葉をさえぎって、要が、くははと笑った。
『どうだろうな』。
どうもしないだろう。
いくら歩里島神社が広いからといって、迷うことはないだろう。どんな方向音痴でも、視覚障害者だとしても、だ。
神社に分かれ道など行き止まりの道なんてないだろう。だから誰でも歩いていけばどこかにつくはずだ。
「違うんだよな……」
「ん?」
「この神社をただの神社と思わない方がいいっつってんだよ」
「は? それはどういう意味なの? この神社はそんなに危険な神社なの?」
「危険とは少し意味が違うけどな。……そうだな、では簡単に説明しようか?」
「いいです」
そこで、あかりと要の会話をルナが入って、
「それは、歩いてみれば分かることでしょう?」
終わらせた。
なんだか、結構怖い。
要はそれを聞いて、そうだよなと呟き、それから離れの渡り廊下を歩いた。
ぎしぎしぎし、と廊下の軋む音がする。この神社はずいぶん昔からあるものらしい。たぶん。
「…………」「…………」「…………」
静かに渡り廊下をあるいて、ふと左を見てみれば、そこには賽銭箱と紅白の三つ網で上に鈴がついた——名前を忘れわので分からないそれが見えた。どうやらここが、鳥居をくぐってすぐに見える真ん中のところらしい。
——なぜだろう。
なんだろう。
へんだ。
なんだかへんだ。
思って、あかりは眉を中へ寄せていたときだった。
ぽつりと、要が呟いた。
「小さな戦争を——始めようじゃないか」
ぶわっと、風が下——廊下から上がってきて、あかりとルナはそれで飛ばされた。せっかく真ん中まで来たのに、また離れ(スタート)へと戻らされてしまった。
あかりはルナにぶつからず、ルナがまた風によって右へずれたので、二人はぶつから、離れの扉にぶつかった。
「痛!」
あかりは言って、背中を少し丸めて扉にぶつかった背中を摩る。怪我は…——していないようだ。
ルナは嫌そうな顔をして、廊下に手をついて立ち上がろうとした。が、
「……」
立ち上がらない。
あかりは、『廊下に手をつける』という動作でルナが立ち上がる、という事が分かったのだが、立ち上がらないルナを見て、いう。
「どうしたの、ルナ……それよりもさっきの風はなんだ!」
「……まったくですよ、あかりさん」
「風がか?」
「筋肉とかつけておけばよかったな……」
「や、話が読めない。どういうことだ?」
そして刹那。
ばきん。
と、スッキリする音が聞こえた。
その音が聞こえたところは、目の前の要のところ。
要は、前を向いているだけだ。音がしたのに、動かない。おかしい。
思って、あかりは急いで立ち上がろうとした。
「……」
そして、やめた。
「はぁ」
そして、ため息。
ルナ同様『筋肉とかつけておけばよかったな』ではない。
ルナはボケでいたのだ。
そう、筋肉とかの問題ではない。
立ち上がろうとしても、下からなにかで吸い寄せられているように、立ち上がれないのだ。
風、か。
風——鎌鼬——要。
要が、鎌鼬の風を使ってあかりとルナをぶっ飛ばし、また鎌鼬の風を使って下に吸い寄せているのか。
なぜ——だろうか?
思っていたところで、またばきん、と音が聞こえた。
あかりは目を細めて、要を見ている。
要は、前にやっていた手を横にした。
「……っ」
そしてまた、要から——要の手から、ぼきん、と音がして……。
その音の正体は、爪だった。
ばきん、という音と共に、爪が数倍伸びる。
だが、狐に爪などあっただろうか?
「狐は一様イヌ科だ。イヌに爪はある、イコール狐にも爪がある。おーけー?」
そうかのか?
「んじゃ、鎌鼬くん、そのまま二人をなんとなくな貼り付け状態にしておいてくれ——頼んだぜ」
そしてまた、ぼきん、と。
「山神様の手元にて、稲荷神(いなりしん)を抜け出した、我に力を返したまえ」
ぼきん。
「神使の我に、力を返したまえ。山神様の神使の我に」
ぼきん。
「農耕の下に新たに立って、愚かな狐に力を」