ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.188 )
- 日時: 2008/10/28 19:50
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
七話 [ 戦い、到着-コンセプトを考えよう- ]
曹操の陣のように、曹操というか要を真ん中にして、前をあかりに後ろをルナにした、その陣。
◆
「これだけ出てくると腹立がたちますね」
ずばっ。と。
そういいながらルナがナイフで黒いもじゃもじゃを切った。
上から下へ、止まらずに。
「だろう? だがしっかりやってくれよ? 目的地はもうそろそろだし」
要もいい、黒いもじゃもじゃを迷わず切った。
「で? 目的地はどこ? ……さっきから思っていたことなのだけど」
すぱっ。
「言ってなかったか?」
「ええ」
「んじゃ説明か……ったく、めんどくせぇ」
要はどうやらお喋りは好きだが、説明などはめんどうくさくてしたくないタイプらしい。だが、疲れてきたのだろう。お喋り好きの要でも、疲れてはくる。もちろん説明について疲れているのではなく、黒いもじゃもじゃを切るのに疲れてきて、『めんどくさい』と思ったのだろう。
さすがに疲れてくるのだ。
爪を上から下へ降ろすだけであっても、それをもう何十回と繰り返してきたのだ。
いや、そう思うと、疲れてきたのではなく本当に要が言ったようにめんどうくさくなってくる。
要はふぅ、とため息をつき、それから目的地について説明し始めた。
「今から向かうところはこの歩里島神社が代々守っているものをしまってある地下だ。神社に地下なんてありえないけどさ、まだこの歩里島神社も立ってそう長くねぇし。十字架は3代目の巫女だし神主は4代目だ。……うん、だから、今から行くところは地下で、その地下にある秘宝見たいなものを使ってお嬢様を生き返らせる。おーけー?」
「おーけー」「おーけー」
答えるのもめんどうくさくなってきたらしい。
「うん、じゃあ、進もう、か、な」
「ええ、進、み、ましょ、うね」
「承知、の、上、で、す」
途切れ途切れにそう言って、要とあかりとルナは歩いた。
黒いもじゃもじゃをめんどうくさそうに真っ二つに切りながら。
◆
切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る。
ナイフを、上から下へ。
切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る。
爪を、右から左へ。
血はでない。切ったものは消えるだけ。跡形もなく。
神が送り込んできたその黒いもじゃもじゃは、何も言わずに切られる。そして消える。テレポートでもしたかのように、切ったら一瞬で消える。
疲れない。
それはいいことなのだが、妙に疲れないことが変に感じる。
疲れないからこそ、変に感じる。
戦いは疲れるからこその戦いだ。
だが、疲れない。
疲れていない。
めんどうくさいだけだ。
「……」
切る。
疲れない。
「……ね」
切る。
疲れない。
「……死ね」
切る。
疲れない。
何回やっても疲れない。
何回もやるのがめんどうくさくなるだけ。
腹が立つ。
ああ、腹が立つ。
殺すという感触を——味わいたい。
だから、爪を右から入れて、それから真ん中あたりで止めた。
「くはは」
まだ死んでいないから、黒いもじゃもじゃは消えない。
消えられない。
「くはは」
爪を抜き、その爪を今度は下に刺し、またそれを真ん中あたりで止める。
消えない。
死なない。
消えられない。
死ねない。
「くはは」
笑って、それからまた呟いた。
「痛いか? 苦しいか? 悲しいか? 大丈夫か? 気持ち悪いか? 気持ちいいのか? ……動けないもんな。感じられないもんな。逆らえないもんな。……滑稽だよな。醜いよな。馬鹿みたいだよな。鬱陶しいよな。憂鬱だよな。死ねないもんな。殺されないと死ねないからな。消えないもんな。殺されないと消えないもんな。……ああ、滑稽だよ」
言って、爪を上へ。
三つに分かれた黒いもじゃもじゃは、消えた。
「醜い、死に間際だな」
「貴方が自分でやった癖に」
「それじゃあまるで俺様が悪いみたいじゃないか。あんたたちも味わいたいだろう? 殺すんならもっと甚振って殺したいだろう? それとおんなじさ」
要は笑いながら続ける。
「俺様とあんたたちは同じ罪人さ。ま、俺様は別にいいんだけどな。地獄の方のお方に殺しを許されている。ま、それはこっくりさんの方のからの殺しで、悪い願いを出した奴しか殺せないんだよな。しかも俺様はもう死んでるし? でもま、地獄のお方にも逆らえないわけさ。お嬢様の奥様のお父さんみたいなものだしよ。俺様はお嬢様に使えていて、それは奥様からの命令であって、奥様のお父さんが俺様をお嬢様に使える役と決めたんだしな」
「……その話の前の方に挙手。わたしとルナは閻魔大王から人殺しを頼まれてるの」
「へー、そうなのか……って、本当か!」
乗りながらも本当かどうか聞いてきた。仕方ないと思うが。
あかりが今まで嘘をついたのは指の数で数えられるくらいだ。それにそんなことに嘘をついたってしょうがないだろう。というか、閻魔大王について嘘をついたら舌を引っこ抜かれそうに思える。
あかりはきょとんとして、それから驚いている要の問いに答えた。
「本当。鎌より重いわね、と言ったのに気づかなかったのかしら? 今時鎌で人を殺すのは死神だけよ? というか実際にわたしとルナが死神で、その鎌で人を殺すのだけれど」
「あー、そうなのか。あ、分かった。んでその死神にお嬢様が入ってるわけだな」
「ええ」
「これまた……奥様の元にこのことは届いているのか?」
つぶつぶと呟きながら、要は進む。
途中で黒いもじゃもじゃが表れたが、そのもじゃもじゃのことを一切みずに爪を右から左へ動かす。めんどうくさいにもほどがあるように思えるが……。
そしてまた10歩くらい歩いたところで要が、お、と声を漏らした。
横から出てきた黒いもじゃもじゃを倒していたあかりは、その声を聞いて前を見た。
そこには、
「扉……」
扉があった。
洋風の、扉。
他に道はなく、扉のところで行き止まりになっている。
ということは、ここが……地下への入り口。
「入るぞ。たぶん暗いから気をつけろよ」
そう言って、要は扉をあけた。