ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.194 )
- 日時: 2008/10/31 20:51
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
九話 [ 準備-また- ]
また起きた神主を打撃でまた気絶させ、さっそく霊月を生き返らせる準備にとりかかった。
場所は西野(さいの)町の廃工場。
最初にあかりが人間を狩った場所。性的暴行事件の犯人をターゲットし、狩った。名前は——忘れた。
持ち物は霊月の髪の毛と壷と日傘。髪の毛と壷はともかくとして、なぜ日傘なんだ? と要に聞いたら、それは地面で儀式を行うというので生き返ったらすぐに太陽に当てられるから。らしい。理由を聞くと、それもそうだよな、と思える。
今日は月曜日。
あかりとルナは学校に通っていないので別に心配しなくてもいい。だが要は十字架(とじか)で、十字架は学校に通っているので学校に行かなければならないらしい。しかも十字架は昼まで寝ているので遅刻というか学校をそのまま休んでいるらしく、三年生の十字架は出席日数が足りなくて困っているらしい。だが要はそんなことも知りながらもそれを気にしず、儀式をするらしい。
「なんつーかさ、晴れてよかったな」
「そうね」
「……蘇生の儀式に天気などは関係あるんですか?」
「ん? ま、俺様は晴れが好きっつーことだけだよ。お嬢様は晴れを嫌ってるっつーか……日光はお嬢様の敵だしなー。というか真月の除いての吸血鬼の敵……あ、そういえば真月も消滅したんだったな」
「真月? 真月なんちゃらかんちゃら——たちのこと?」
「ああ。そのお嬢様がブッ壊した偽物の太陽? 疑太陽(ぎたいよう)に真月の血族が全員乗ってたらしくてよ——んで、太陽に害はない真月だけど爆発にたえられなかったらしくてな、しかもその爆発はすげー奴だったんだよ」
「ふうん」
軽く返事をしてから、要の前を歩くあかり。
要は、私服だった。十字架の服を着て、ではない。自分専用の服を着て、来ていた。
白のTシャツに藍色のかかとまでありそうなジーンズ。今は足首の所でまげてある。十字架が伸ばしているあの黒髪は、ポニーテールでしばっている。
結構、いける。
別にいいが。
そして、また。
また、だ。
また、この並び。
神社の他でも俺様を襲ってくるかも知れないからな。
らしい。
「でさ、なんで西野町なわけ?」
疑問になっていたことだ。
別に門蔵町でもいいと思う。廃工場やら廃ビルなどは門蔵町にもあるはずなのだ。だが、要は西野町を選んだのだ。
「ん? いや、西野町ってさ、人口が愛西市(あいさいし)の中で一番低いんだよな。あそこビルばっかだけどよ、そのビルとかって全体的に廃ビルとかでさ、全部一つの会社が潰しちまったっつー話でさ、その潰れたビルをたどってみると、最初の時点で『霊』っつー漢字が出てくるらしいぜ」
「……イコール、その会社はお嬢の会社だと?」
「ああ、まあな。だが遊び半分で詐欺師っぽくやってたらしいぜ。あー話それちまったけど、んで、その『霊』っつー漢字見て、これは幽霊のしわざだー、とか誰かが言ってよ、次々に皆引越しを始めた。だから西野町はグレた人間がぽちぽち遊び場としてあるいてたり、金がなくて引っ越せなかった人間の集まり場だ。だが今時貧乏の中の貧乏とかいねーだろ? だから結構な人間が引越したりして、あそこは人口がめちゃくちゃ少ねーんだよな」
霊月なら、そんなこと普通にお遊びでやりそうな気がした。
要のお喋りの癖のおかげで、三人は早く目的地の廃工場にたどり着いた。
入り口に黄色のテープがかかっている。
それは、そうだろう。
そこで、人が死んだのだ。
いくら人口が少ないといっても、チャラチャラした人はそんな廃工場とかを溜まり場としている。そしてその廃工場も溜まり場で、変死体を発見して、警察へ電話。これでOKだ。
「懐かしいな」
初めての仕事場。
あかりは顔を緩ませ、そして黄色のテープを装備していたナイフで切る。
そして中へ入った。
そしてあかりの頭の中を、初めての仕事の時の場面が駆け巡る。これも、残酷とは言え思い出だ。
「ちょっくらお邪魔しますよ」
続いて要、ルナの順番で廃工場へ入る。
ひゅうう、と風が吹き、あかりの黒髪を、要の黒髪を、ルナの金髪を揺らした。
◆
そこらへんに落ちていた小石で、直径1メートルくらい丸の中に崩されて読めない文字がざざっと書いてあるだけの魔法陣を書き、その魔法陣の真ん中に霊月の髪の毛を置いた。その髪の毛は風が吹いても飛んでいかない。ポルターガイストだろうか? 別になんでもいいが。
そして次に必要なのが——
「要さん」
ルナが要に声をかける。
「ん? ああ、おーけーおーけー」
要はルナの方を見て、答えた。そして壷を見る。
要の持ってきた、壷の中に入っているものは、知らない。聞かされてないからだ。
要は、持っていた壷の蓋のところについているお札を取り、それを壷へとつけてから、蓋を開けた。
そして壷の中に手を突っ込み、中にあるものを出した。
「……」「……」
それは、血がべっとりとついた、何かの骨だった。
要は、それを無表情で霊月の髪の上に置いた。
べちゃり、と。
音が聞こえた。
「稲荷大社の一代目のお稲荷様の骨だよ。お稲荷様として神社に住む前に、神使として他の神使と戦って右腕が切れたのさ。その戦いを見ていた俺様は、それを貰った。というか盗んだんだ。一代目はそれに気づいてるんかね?」
稲荷大社。
要の実家。
稲荷大社で生まれ、稲荷神で神様として育った。
「一代目は強いお方だったさ」
呟いて、要は苦笑いをした。
そしてその一代目のお稲荷様の右腕の骨に向かって、手を合わせる。
「……あ」
「ん? どうした?」
「これで、準備は——」
「おーけーだ。準備完了」
といってピースサイン。
あかりとルナは顔を見合わせて笑った。
やっと、会えるのだから。
無残な死に方をした、友達に。
無残な死に方をした、家族に。
やっと、会えるのだから。