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Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.200 )
日時: 2008/11/02 15:11
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。

十話 [ 開始、再会-吸血鬼のお姫様- ]

 何日ぶりに、会うのだろうか。
 霊月ファイヤフライは大丈夫なのか。
 赤い髪を揺らして、笑顔でまた自分たちと暮らしてくれるのか。
 トラウマとかは、ないだろうか。
 なさそうだけど。
 少しばかり悔しがっているかもしれない。

「また会ったのは……偶然ではなさそうね」

 なんて。
 そんな洒落たこといって。
 笑うんじゃない。
 自分たちが、どれだけ——



 儀式を、始めた。
 要は、簡単なことだといっていた。
 お嬢様はあんたたちに会いたいと、少しくらいなら思ってるだろ。だから、お嬢様の方から生き返りたいと望んでいれば、儀式は数分で終わるさ。
 そう、彼はいった。
 いって、魔法陣の前に立ってそれに一礼。

「んじゃ、本格的に始めるから」

 言って、要はその魔法陣の上に手をかざした。
 かざした手からは、赤色の光が降りてくる。
 髪の毛は小刻みに震え、血まみれの骨は伸びたり折れたりしている。
 そこで、要が低くうなって、かざしていた手を戻し、まるで魔法陣に前からタックルされたように1メートルくらい、そこからふっとばされて尻餅をつく。
 要はちっ、と舌打ちをして、魔法陣を睨みつけた。

「ちっくしょ……」

 鉄骨にもたれかそれを見ていたあかりが、要へと聞く。

「な、何が——」
「お嬢様の」

 あかりの言葉を素早くさえぎり、要はさきほどよりも強く魔法陣を睨みつける。

「お嬢様の、イメージがつかねぇんだ」
「い、イメージ?」
「昨日もやって見せただろ? 一代目の骨の入ってる壷を取りに行くとき、俺様はお嬢ちゃんにナイフのイメージを作るようにいった。……それだよ。俺様の力は幻想と現実に変える力だ」
「ど、どこかで聞いた力の名前だ! ……いや、つっこんでごめん」
「……それで、俺様がお嬢様に会ったのは結構昔のことなんだよ。だから上手くお嬢様のイメージが取れなくってな。あーだから……あんたたちにも手伝ってもらいたい」
「手伝い?」
「ん。あんたたちの知ってるお嬢様をイメージしてくれると作業が手っ取り早いっつーことだよ」

 霊月ファイヤフライの、イメージ。
 長い時間を過ごしてきた、一人の家族のイメージ。
 それは——

「容易いわ」

 ふうん、と呟いて、要はあかりを見る。

「じゃあ、やってくれるんだな?」
「ええ。別にいいでしょ? ルナ」

 あかりはルナに問う。

「その、イメージするのは初めてなのですが……家族をイメージすることなんて容易いですから」
「ん、ならOKだね」
「ん、おーけーなら早速やってくれ」

 要は立ち上がり、早歩きをして魔法陣の前に立つ。それから鉄骨にもたれかかっているあかりとルナへ手をちょこちょこ振り、二人を呼ぶ。
 あかりとルナは二人そろって早く歩き、要の横で足を止める。

「俺様の肩かなんかに触ってろ。そしたら俺様があんたたちが脳でイメージしたお嬢様の情報を読み取るからな」

 それから要は手を魔法陣へとかざす。
 あかりは左へ二歩ほど歩き、それから要の左肩に右手を置く。ルナはそれを見て、一歩歩いて要へ近づいて、それから左手を要の右肩に置いた、
 両肩に感触が伝わり、あかりとルナが自分の体に触れているということを確認した要は、瞳を閉じて意識を集中させる。
 あかりとルナは霊月の姿を思い浮かべた。
 頭の先から、つま先まで。
 それから怒っている顔。
 泣いている顔。
 無表情。
 そして——笑顔。
 
 ごおおおおお。

 と。
 風が吹いた。
 そこで要は叫ぶ。

「ええっと……ルナルドール! 日傘を用意しろ! 開いとけよ!」

 ルナは刹那に要の右肩から左手を離し、鉄骨に立てかけてあった日傘を持ち、それを開きながら走って行ってまた要の右肩に左手をのせ、ぐにゃぐにゃと曲がりくねっている骨と分裂している髪の上へとかざした。
 それから、要がまた叫ぶ。

「目ぇ閉じろ!」

 あかりとルナは言われるがままに目を閉じる。
 そしてまた、ごおおおお、と風が一吹き。
 ぐちゃぐちゃ、という音も聞こえてきた。髪と骨で体を作っている音だろうか?

「う、ぐうっ……」

 刹那に、あかりの体に嘔吐感がしてくる。
 激しい。
 だが、耐えなければいけない。
 こんなところで、自分の感情に従っていられないからだ。
 耐えなければ。
 耐えなければいけない。
 耐えろ。
 耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ。
 耐えろ——

「また会ったのは……偶然ではなさそうね」

 声が、聞こえた。
 知っている、聞いたことのある声だった。
 声は、ルナの手に握られている黒い日傘を取る。

「目を開けて、いいよ」

 要の声ではない。
 あかりの声でもルナの声でもない。
 三人は目を開けた。
 そこに居たのは。
 すらっとした体躯で。
 赤い長い髪を揺らせて。
 赤い目でこちらを見ていた——吸血鬼のお姫様。
 名前は——霊月ファイヤフライ。

「お嬢!」

 あかりとルナは、要から離れて、霊月ファイヤフライへ飛びついた。

「うぎゃああああ!」

 二人の体重で霊月ファイヤフライ——お嬢は押し飛ばされ、その衝撃で日傘を手から離してしまった。

「あああああああ!」

 お嬢の体は、燃える。
 青い火で、燃える。
 あかりとルナはびっくりしてお嬢から離れる。

「日陰ええええええええ!」

 あかりとルナはすくすく笑いながらも、お嬢を引きずり、鉄骨でできた日陰の所へと連れて行く。
 すると青い火はどんどん消えて、無くなった。

「せっかく生き返ったのにお前らはまたわたしを殺す気かあ! ぼけえ!」
「あはははは」
「笑うことじゃないって! 閻魔大王からなんの施しもされてないから本当に日光に当たったら大変なんだって!」
「うふふふ」
「昔のお嬢様漫画みたいなのじゃないからうふふふふ、って笑わないって!」
「あはははは」「うふふふふ」
「あー! うー! もう!」

 それからあかりとルナも笑いを止め、口の中に空気を入れて頬を膨らませているお嬢を見る。
 お嬢はその視線で口から空気を出す。

「お嬢」「お嬢」

 大きな声で、二人はそういってお嬢に飛びついた。

「おかえりなさい!」「おかえりなさい」



五章、完。