ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.203 )
日時: 2008/11/03 10:29
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。

六章 [ 殺人ベルセルク-下層吸血鬼の狂戦士- ]
序章 [ それは暗い生活からの脱出-雷月- ]

 黒い、暗い石でできた塔の中の、黒い鉄でできた牢屋の中。
 両手に鎖、目に黒い布を巻かれた、女の人がそこに居た。
 正しくいうと捕らえられていた。
 彼女は罪に溺れて、そこで暮らしている分けじゃない。
 捕らえたれた。捕まえられたのだ。
 もちろん無理やりだ。

「……は」

 ぎゅるる、とお腹がなる。
 三日は、もう何も食べていない。
 捕まえられてから、三日が経ったからだ。
 彼女は監禁されたのだ。
 彼女は普通だった。
 彼女は何もしていない。
 彼女は無罪。
 彼女は普通に毎日を暮らしていた。
 彼女は普通に毎日を歩んでいた。
 なのに、彼女は——
 捕まえられた。

「どうしてかな?」

 彼女は枯れた声で、言う。

「なぜかな? なにがあった? なにがおきた? なんでこうなった? なんでこうなっている? なんで僕はここにいる? なぜかな? なんでなにも見えないのかなあ?」

 同様。
 混乱。
 彼女は、どうして自分が捕まえられているのか、知らないのだ。

「僕はなんにもしてないよ? ははは、なんでかなあ? なんでだろうね?」

 彼女は、ははは、と笑う。

「おかしいよ。全然おかしい。僕はどうしてここにいるのかな? いつもなら普通に授業をしていると思うんだけどな?」

 彼女は、登校中に拉致監禁された。
 後頭部に、痛みが走る。

「いたたたた。ははは、はははははは! とらわれの女子高生? ははは! はははははははは!」

 そこで、がちゃり、という音が聞こえた。
 こつこつこつ、と床の石を靴で歩く音が次に聞こえる。

「誰?」

 目を隠されているので、誰が来たのか見えない。
 人間か。
 もしかしたら怪物かもしれない。
 靴を履いた何かは、彼女の問いに答えた。

「雷月(らいげつ)ですわ。雷月 エレクトリティー」

 どうやら彼女の牢屋に入ってきた者は雷月エレクトリティーというらしい。声的に女だ。

「で? そのー雷月エレクトーンさんは——」
「エレクトリティーですわ」
「ふむ。雷月エレクトリティーさんは、僕を監禁した人? なのかな?」
「最初の質問はそれなんですのね。ええ、答えましょう。わたくしは人ではありませんわ」
「じゃあ何かな?」
「あは……吸血鬼、ですわ」
「ふうん。これまた素敵な怪物なんだね。雷月さんは。で? 次の質問にしようかな。どうして僕を監禁したのかな?」

 あは、と笑って、雷月は答える。

「あは……そうですわね、眷属作りと、いっておきましょうか」
「けんぞく?」
「仲間作り、と似たようなものですわ。ですが眷属となるとわたくしが主人で彼方が下僕となりますわ」
「ははは! 下僕! そうか下僕か!」

 そこで彼女はため息をついて、それから大声でいった。

「ふざけんじゃねえ!」

 もしかしたら、彼女が先ほどついたため息は大声を出す為の深呼吸だったのかもしれない。

「僕は一匹狼だからね! そういうのは一切お断りだよ」
「あは……大丈夫ですわ。嫌でも従わせてさしあげます」
「あーやだやだ、キモいキモい。雷月さんってキモいね」
「それは褒め言葉ですか? 侮辱の言葉ですか?」
「両方」
「あは……では、やりましょうか」

 呟いて、雷月は彼女の目隠しを取る。
 だけど、彼女は目を閉じている。
 それを開ける気配はない。
 そんな彼女を見て、来月はあは、と笑う。

「目を開けたらどう? 下僕」
「できないね、ご主人」
「あは……かわいそう」
「雷月さんは、『このこと』を分かってわたしを監禁したのかな?」
「あは……まあ、聞いてなさい。わたくしは今から彼方を眷属としますわ。眷族になる、ということは、わたくしと同じ種族の吸血鬼となることですわ。で、ですわ。吸血鬼には治癒能力、霧となる能力、真っ暗闇でも目が見える能力がありますの。それで、眷属というか、下層吸血鬼となればある程度の吸血鬼の能力が持てる」
「……それが、どうしたのかな?」
「まだ分からないんですの? 吸血鬼となれば、『その目』が直るのですわ」

 『その目』。
 彼女が目を開けない理由。
 それは、

「失明だなんてちっぽけなものですわ」

 失明。
 彼女は、光を失っている。
 目を開けると、濁った目がある。目をあけると痛いし、気持ち悪がられる。それに、目を開けても光はもう彼女には届かないのだ。
 彼女は、きょとんとする。
 雷月はしゃがみ、そんな彼女の顔を、両手で押さえ自分のいる方向を向かせる。

「ほ、本当……かな?」
「わたくしは生まれてから嘘などついたことはありませんわ。で? 下僕。彼方は吸血鬼になるのですか? 吸血鬼といっても、眷属、下層吸血鬼になるだけなのですけれど」
「……僕は、僕は——」

 迷う。
 彼女は迷う。
 彼女は光を取り戻したい。
 彼女はもう一度光を見たい。
 彼女は、光を得るならば、手段は——

「光をまたもう一度見る為なら、僕は手段は、選ばない」

 彼女の言葉聞いて、雷月はそう、と呟いた。

「ならば、いきますわよ」

 雷月は、彼女が着ている青と白のセーラー服の服の首元を横へ、少しだけ力ずくで破り、それで出た彼女の白い首元に、かぶりついた。

「ぬ……あ……」

 彼女は、眉を寄せて、首元に走る痛みをこらえてから、力尽きたようにがくん、と顔を雷月の肩へ落とした。
 来月は、かまわず彼女の血を吸う。

 彼女の名前は安城 改里(あんじょう かいり)。
 小学5年生の時に原因不明で失明。
 だが失明など関係なく普通の私立中学校、高校へ進む。
 そんな、普通の生活を送っていた彼女、改里は、人間から吸血鬼けと変わった。