ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.207 )
- 日時: 2008/11/04 19:17
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。
一話 [ お使い-血まみれの- ]
ルナは、商店街(といってもそう長い商店街ではないのだが)を歩いていた。
白いタンクトップに黒いジーパン。金髪はツインテールで済ましている。
そんなラフな格好をして、白いプラスチックの屋根がついている、少し古めかしい商店街を歩いていた。
ルナは理由もなく外を出歩く人間ではない。
あかりに、頼まれごとをされたのだ。
ルナ、にんじんとたまねぎ買って来てくれないかな? ごめんね。
とあかりは申し訳なさそうに頭を下げたのだ。
時刻は5時。正しくいうと17時だ。
そんな時に、あかりはルナにお使いを頼んだ。
どうやら何かに夢中で手が離せないらしく、それでルナに頼んだそうだ。
ルナは軽々OKを出し、そして今商店街を歩いている。
疑問と共に。
「……」
いつもは、わあわあ騒がしいはずの商店街。
いつもは。
今日は——
「……」
なんで、だろうか。
なんで、店が閉まっているところが、あるのだろうか。
なんで、人がいないのだろうか。
開いている店の主人はレジで居眠りをしている。
可笑しい。
どうして、こんなに——。
「感情が、蘇って来てて良かった」
じゃないと、今でもこう思えないからだ。
「といっても、ですね。これは……いくらなんでも、可笑し過ぎです」
きっと、きっとこれには理由があるはずだ。
思い出せ。
ここらであったニュース。出来事。事件。
思い出せ、思い出せ——
「あ」
ぽつり、と声を漏らす。
ここらであった、ニュースが、出来事が、事件が、あったではないか。
『首切り事件』。
また、門蔵町を中心として行われている首切り事件。
死亡者3名。
犯人は複数と思われる。
そして今も犯人は逃走中。
『首切り事件』は、二日前から始まった事件だ。
それぞれ、男子1名女子2名、と死亡者が居る。
そして、死亡者の死亡の原因は、全て首を切られての原因。
そんな、変な事件。
それが、この今の状況とかかわっていて、いるのか?
まだ門蔵町で殺人は行われていない。
「警戒心が強すぎですね。ですが、前にもこのような事件が有りましたがこのように住人は警戒していなかった……はず」
おかしい。
「お嬢とあかりさんに、知らせますかね」
行って、ジーパンのポケットを探った。
ポケットの中は、空だった。
「あ、そういえばわたし携帯なんか最初から持ってなかったっけ? あ、地獄に通じる扉……いや、あれは部屋へ置いてきてしまったな……。引き返しましょう」
ルナは言って、今自分が歩いてきた方向の逆を向き、歩こうとした。
一歩。
歩こうとした。
どさり。
と。
何かが落ちた、置かれた音がした。
そして刹那に。
「……な?」
ルナに、何者かが後ろから抱きついた。
腰のところに。両腕で。
すぐに、ルナに抱きついた人物は、ルナの腰にまわしていた両腕を離した。
ルナは驚いていて飛んでいた意識を、自分の腰に回された両腕が離された感触によって取り戻す。それからルナは後ろを見た。
そこには。
「……」
血まみれの、青と白のセーラー服を着た、女の人。
そしてルナは一歩踏み出した。
「う」
ルナは、その一歩で何かを踏みつけた。
ルナは恐る恐る踏みつけた何かを見た。
それは、首のない人の体。
「く、首切り……事件……!」
そして気づく。
自分の腰に、血がついていることを。
「お前……」
血まみれのセーラー服を来た女の人は、一歩ルナへと近づいた。
ルナは、腰を低く落として、構える。
体術なら少しはできるからだ。
「お前。わたしに、何をさせたい」
「……」
「なんで、わたしに血をつけた」
「……」
「この血は、この首無しの血か?」
「そうだね」
そこで、初めてセーラー服を着た女の人が口を聞いた。
答えが返ってきたところで、ルナは続けた。
「セーラー服。お前が、この首無しの首を、取ったのか」
「そうだね。もう少し正しく言うと『切り離した』だけどね」
「……セーラー服。お前が、首切り事件の犯人か?」
「そうだね」
「……で? セーラー服。お前は、わたしに何をさせたい」
セーラー服は、ははは、と笑った。
「僕は、君を犯人にさせたい」
「! ……どういう」
「ははは。僕は首切り事件っていう事件の犯人なんだ。だから、その罪を君へ擦り付ける。ということなんだよ」
「……で? セーラー服。お前は、選んで、わたしに罪を擦り付けたのか?」
「そうだね。君が月人形で罪人で死神っていうことをちゃんと把握してから、君に罪を擦り付けた」
セーラー服は、全て知っていた。
ルナは、眉を寄せる。
それから、走った。
セーラー服めがけて。
後1メートル、というところで、右手の拳グーにして、セーラー服へとぶつけ、ようとした。
「っ!」
ぶつけようと右手を動かしたときには、セーラー服は居た。立って居た。だが、今は、居ない。
そして後ろで、ははは、と笑い声が聞こえた。
ルナはすぐに後ろを向いた。
「遅い……かな」
そこには、青と白のセーラー服を着た血まみれの女が立って居た。
「んじゃ」
呟いて、セーラー服はルナに手を振った。
気づくと、足の方は霧となって消えている。
「セーラー服。お前、まさか……」
「ん? ああ、僕は人間じゃないよ。んじゃ、ばいばい」
気づくと、セーラー服は首まで霧となって消えていた。
ルナはそこで走る。
だが、間に合わない。
セーラー服を着た血まみれの女は、霧となって消えた。
「……」
ルナは、走るのをやめた。
この術は、知っている。
お嬢が、霊月ファイヤフライという『吸血鬼』が使っていた、技。
そこで、音が聞こえてきた。
ぴーぽーぴーぽーと、気の抜けた音がして。
次に、きゅきゅっと何かと何かが擦れ合う音がした。
ルナは、また後ろを向いた。
そこには。
「おとなしく手をあげろ!」
パトカーが3台、商店街の出入り口を塞ぐような形で、止まっていた。