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Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.212 )
日時: 2008/11/06 18:00
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。

二話 [ 疑い-本当の- ]

「ルナあああああああああああああ!」

 ばたん、と、取調室の扉が勢い良く開いた。
 扉を開けた者は、赤い髪で黒の長袖のセーターに黒のミニスカート。そこしたにレディースを履いていた。
 霊月ファイヤフライ。
 吸血鬼。

「お前ら! ルナが理由もなしに人を殺すと思ってるのか!」

 お嬢が息切れをしながら、叫んで言う。
 お嬢のいった言葉に、一人の警察がつっこみを入れる。

「理由があれば殺すの!?」
「ん? あー、ええとだな……ああ! お金がないので人間を殺してくれ……という理由でなら殺してくれすだろう!」
「その理由の意味が分からない!」
「つ、つっこみを入れるな! 警察め!」
「逆ギレされた!?」

 いいからルナを返せ! とまた叫び、霊月は黙った。
 警察はおどおどしている。

「あ、あの、取調べが終わるまで所(しょ)の外で待っててくだ——」
「断る」

 警察の言葉を短く遮り、それから霊月はまた淡々と続ける。

「『はじめてのおつかい』のノリで見守っていればよかったんだ!」
「あ、のう、お嬢? 大丈夫ですよ」

 そこへルナが言葉を入れる。

「ん? もう取調べが終わるの?」
「いえ、わたしが牢屋へ入って終わって大丈夫ということです」
「それって全然大丈夫じゃないじゃない!」

 叫んで、霊月は取調室の扉をやっと閉めた。
 それからルナを取調べしていた警察へずんずん近づいて、警察が着ている鼠色のスーツの襟を持ち、警察へ自分の顔を近づけて霊月は警察に向かっていった。

「ルナは何もしていない。ルナを返せ」
「……では、証拠をお願いします」

 警察は、さきほどとは違い真剣な顔をして霊月へ問いをかけた。
 霊月はシニカルに笑う。

「いいよ。んじゃあ、出てきていいよー」

 霊月はいって、警察の襟を持っていた両手をぱっと離して、それから扉を見た。
 数十秒後。
 小さく、扉が開いた。
 入ってきたのは、白いTシャツに青色の半ズボン。薄緑色のエプロンをつけた、黒髪のショートカットの男の子。
 霊月はその男の子の元へ歩いていって、それから男の子の後ろへまわって、男の子の背中をとんと押した。
 男の子は衝撃で一歩、二歩と前へ進んだ。
 霊月は男の子の肩へ両肩を置き、男の子へとこそこそ話しかけた。

「自己紹介」
「えっ! あ、はい。……門蔵商店街の八百屋で働いている者です」
「名前」
「あ、はい。千鶴です」

 よろしくお願いします、と千鶴という男の子は頭を下げた。
 見た目は小学生っぽいのに礼儀がなっている。親、だろうか。
 霊月は千鶴の頭に手を乗せ、あはは、と笑う。

「見てたんだよ、この子」
「……何を」

 警察が声を低くして言う。
 霊月はまた、あはは、と笑って千鶴の頭をぽんぽん軽く叩いた。

「ルナと、ルナの身体の近くに落ちてた死体を生きている時に殺した奴のやり取りを、見てたんだよ」
「……本当ですか? 君」
「あ、はい。ちゃんと見てました。黒髪のショートカットの人が、そこの金髪の人に抱きついて、それから……消えた。そんなところを見ました」
「……」

 警察は黙る。

「あはは。さすがにここまで知ってる証言者が居れば、どうにもならないでしょ。では、ルナを返してもらうよ。千鶴くんもついてきてね。じゃ、さらばだ」



 霊月との帰り道。
 千鶴とは商店街を通った時に別れた。
 霊月は黒い日傘を差して、ルナは後ろで手を手で握って帰っていた。

「それにしても、よく証言者なんて見つけましたね」
「門蔵町には全体的にわたしのコウモリを飛ばしてるからね。そのコウモリからの連絡でルナに何があったか、っていうことがビビビーンと分かった訳」
「……千鶴くんは、自分からついて来たんですか?」
「ん? 違うよ。店の二階の窓からルナと首切り事件の犯人が戦っているところ見てて、がたがた震えてただけ。ちょいと脅したら素直についてきてくれたしね」
「……子供の使い方、荒いですね」
「ガキは嫌いなのよ」

 霊月はいって、日傘をくるくるとまわした。

「ぴーぴー泣くところとか歩くのが遅いところとか。もう蹴りたくなっちゃうのよね」
「お嬢が子供を蹴ったら、即死ですよ」
「あはは。でも、別にいいじゃん。ガキなんて」
「よくないですよ。子供は未来を作るんです」
「あはは! 未来なんか吸血鬼が壊しちゃうぞ」
「本当にやりそうなので、そういうことは言わないでくださいよ」

 霊月はまた、あはは、と笑った。
 それからは会話はなかった。だが、そのかわりに霊月がルナの手を繋いでくれた。もちろんルナを自分の日傘に寄せて、だ。
 だけど、太陽が落ちると霊月は日傘を閉じて、ちゃんとルナと手を繋いで帰ってくれた。
 ルナは、それでほっとした。
 霊月が手を繋いでくれて、ほっとした。
 
 気づくと、我が家が目の前に建っていた。



 八百屋の一人息子の舵辺(かじあたり) 千鶴は、2階で本を読んでいた。
 本と言っても、絵が1ページ1ページに描いてある、いかにも子供らしい本だった。
 真っ暗な部屋で勉強机の明りをつけて、その本を読んで——読み終わった。

「……ふう」

 息をついて、本を閉じる。
 それから座っていた勉強机とセットでついてきた黄土色の椅子から降りて、窓へゆっくり歩いていった。窓へ近づいて、窓を開ける。
 夜空は、星でいっぱいだった。

「おおー! 夏の大三角形発見!」

 叫んで、窓の外に右手を出して、見つけた夏の大三角形を指でなぞる。
 それから、赤く光る星を指でなぞる。

「この星、赤いな……」

 言って、指をどけてその赤く光る星を千鶴は見た。

「さそり座の一部だったかな?」

 声が、聞こえた。
 もちろん、千鶴の声ではない。
 声は続ける。

「理科は結構好きだったんだよね。ははは!」

 声は、笑った。
 それから声は、千鶴の後ろに立っていたらしく、千鶴の首に右腕をかけて自分へ千鶴を引き寄せた。それから右腕をくい、と引く。
 かふ、という声が千鶴の喉から漏れた。

「お坊ちゃん、君はとても悪いことをしてくれた」

 声はまた、腕を引く。
 千鶴は眉を寄せて、声の腕を両手で掴み、自分の首元から放そうとする。が、千鶴の弱い力では声の腕はぴくりとも動かない。

「君はどうして脅されただけで本当のことをいうのかな? ああ、君はとてつもなく悪い子だよ」

 そして声は、どこからか銀に光るナイフを出して、左手に握っていた。それから腕を放し、前へ倒れようとする千鶴の口に右手をつけて、千鶴を後ろへ倒した。

「うっ!」

 千鶴は激しく床に頭を打ち、嗚咽を漏らした。が、声が千鶴の口に右手を重ねて口を塞いだ。
 これでもう嗚咽も漏らせないし、叫べない。
 倒れる時に両手を下にして倒れてしまった為、千鶴はもう動けない。

「君は悪い子だから——」

 声は左手に握っていたナイフを千鶴の首元につけ、

「死刑だ」

 下へ引いた。
 それから右手を千鶴の口から放す。
 千鶴は死んだのだ。首を切られて。だからもう右手で口を塞いでいても意味はない。だから声は右手を放したのだ。

「……ははは」

 小さく笑って、声はナイフをまたどこかへしまい、切断された千鶴の首を左手で抱えた。
 それからゆっくり歩いて行って窓の前へ立ち、窓の枠に右手右足という順番でそれを掛けて、それから左足も枠へ掛けた。

「……ははは」

 声は、青と白のセーラー服を着ていた。
 黒髪のショートカットで、赤い目。
 声は枠からジャンプして、屋根へ立った。
 そこは、商店街の裏側。
 声は屋根から飛んでコンクリートでできた道路に降りた。

「ミッションクリア」

 声は呟いて、霧となって消えた。