ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.222 )
- 日時: 2008/11/09 12:30
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。
四話 [ 従う-下僕の- ]
青い長い髪を、教会の壁の付け根から吹いてくる隙間風がゆらす。
その青い髪の持ち主の名を、雷月 エテクトリティーという。
雷月は吸血鬼。
血を吸う鬼。
吸血鬼の中の吸血鬼。いわゆる下層吸血鬼ではない、純粋な吸血鬼。
雷月は、吸血鬼の中の一族の雷月一族に生まれた吸血鬼だった。
雷月一族は吸血鬼の中で、一番お金持ちの一族。それと一緒に一番わがままで、自分たちを上の一族と決め付けて他の一族を見下している。
雷月一族は眷属を作り仲間を増やしていくことを主な仕事としている。いざという時に、仲間が居たら便利だから、だろうか?
「僕はそんなこと、知らないんだけどね」
◆
改里は道を歩いていた。
隣には青い長い髪に青いワンピースを着た雷月が歩いている。
「ねえ、下僕」
雷月は改里のことを下僕という。下僕だから。
「なんですか、ご主人様」
改里な雷月のことをご主人様という。ご主人様だから。
「次は女の子の首がいいですわ。男というのはどうも汚らわしい存在だとしか思えませんの」
「ははは。いけませんよ。それだと逆に男は女のことを集団でしか生きられない存在だとしか思っていないと思います」
「そうかしら? では、男は色々と外見がいやらしいと思うんですの」
いい終えて雷月は微笑む。
その微笑を見て改里は苦笑する。
「……それは女の方もですよ」
「そうかしら? ……胸は女には必要な物だとわたくしは思っているんですが……」
「胸があるから女、と?」
そうですわ、といい、その大きい胸を張る雷月。
「胸は女に必要なものですわ。胸がなければ女とは思えません」
改里は自分の胸を見る。
ぺたんこ。
「まな板で悪かったな!」
「あは……別にあなたに向けて言った言葉ではありませんわ」
「あ……う……」
「でも、そう聞こえていたらごめんなさい、下僕」と雷月は続けた。
はっきりいってむかつく口調、話し方、態度。
だが、改里は逆らえない。下僕だから。
雷月の、眷属、だから——
「でもまあ、わたくしは胸なんて大きくても小さくてもどちらでもいいんですの」
「……ぼ、僕もどちらでもいいさ。胸なんて」
ふん、と呟いて、改里は雷月から目を離す。
「あは……では、話を変えますわ」
雷月は腕を組んで、自分から目を離している改里を向いていった。
「一人、見逃したんですって?」
その言葉で、改里の足が止まる。
「金髪で、死神で、月人形で、罪人の人間を」
雷月は止まっている改里を気にしず、歩き続ける。
「感情を亡くして、痛覚がなくって、そして——」
そこで雷月は足を止めて、青い瞳を大きく開いて改里を見た。
「忌々しい霊月の家族を」
空気が一瞬で、凍りついた。
改里の頬に、汗がたれる。
「下僕。貴方の実力ならあんな人間数秒で殺せたはずですわ」
「……」
「あは……下僕、命令よ?」
「……」
「その人間の首を、次は持ってきなさい」
その人間の首。
霊月の家族の首。
ルナルドール・ウィーツィオの首。
その首は、雷月の食べ物となる。
「もう一度言いますわその人間の首を持ってきなさい。これは命令よ」
下僕は、ご主人様の言うことを聞かなければならない。
下僕は奴隷で、ご主人様の人形。
人形は、糸が切れるまでご主人様の言う通りに動かなければならない。それは、運命。それは、定め。それは、絶対なことだ。
だから改里は雷月を見て言った。
下僕だから。
人形だから。
運命だから。
絶対だから。
定めだから。
「ご主人様の、仰せの通りに」
言い終えて、それから雷月へ頭を下げた。
逆らえないのは、承知の上だから。
逆らえないのは、運命なのだから。
「ならいいですわ」
言って、雷月はこちらへ向かって歩いてきた。
ゆっくりと、怪しい微笑を顔に浮かべながら。
「帰りましょう。あの忌々しい太陽が出てくる前に」
そして雷月は改里を取りすぎ、向こうへ歩いていく。
改里はどことなく悲しい表情を浮かべてから踵を返し、雷月の後ろを歩いていった。
改里は雷月の下僕だから、命令には逆らえない。
改里は雷月の眷属だから、命令には逆らえない。
改里は霊月に救われたからこそ、その恩の為に命令に従う。
改里は救われたから。
改里は眷属になったことで、救われたから、だから改里は従う。
返しても返せない恩を返す為に。