ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.236 )
- 日時: 2008/11/16 19:42
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。
七話 [ 一族-力の- ]
家に帰って玄関を開けたら、刹那にあかりが、「おかえり」と言いながら微笑んでくれた。霊月はそれを見て微笑して、それから3人でまたお風呂に入ろう、と言ってくれた。
何もなかったかのように。
さっぱり綺麗に雷月と改里にあったことを忘れているかのような、そんな霊月にルナはそう聞いた。
すると霊月はまた微笑して答えてくれた。
「何も、なかったからだよ」
霊月には、雷月と改里にあったことはちっぽけなことで、家族三人でお風呂に入ることが大きな行事らしい。
なんとなく、嬉しかった。
◆
「ルナの首元、手の痕が残ってるね」
湯船に使っているあかりが、髪の毛を上に上げて体を洗っていたルナにそう言った。
ルナは体を洗うのを一旦止め、あかりの言う首筋を撫でてから言う。
「首、絞められてしまったんです」
「ふうん」
あかりはそれに興味を示さず、間逆に「そんなことはどうでもいい」と言うように会話を終わらせた。
それも、仕方のないことだ。
今回はルナからかかわった事件。あかりはあえてその事件へかかわりを持たない様にする為に、そう会話を短く終えたのだ。それにルナは何も言わず出て行ったので、そこらへんにあかりは関係を持っていない。持とうとしない。持ってはいけない。
今回は、ルナの物語だから。
そこでルナはシャワーの出るノブを回し、出てきたお湯で体中についている泡を洗い流してから、気持ち良さそうに何も話しかけてこない霊月と無表情で天井を見上げているあかりの真ん中に体をつけた。
「ほお……」
シャワーのお湯よりも、この湯船のお湯の方が温かくて思わずルナは声を出してしまった。
その声に反応したのか、今まで魂が抜けていた様だった霊月が会話をし始めた。
「お風呂って、あったかいよね」
「お湯ですから」「お湯だしね」
あかりとルナは同時に答える。
「三人で入るとお湯も増えて……やっぱり3人はいいよね」
「お嬢が居ない間は2人で入ってました」
「いいないいないいないいな」
「だってお嬢死んでたし」
「……今から思えば、死んでいたときのことなんて覚えてないんだよね。『畜生』って叫んでから体が熱くなって意識が途切れて、気がついたら要とあかりとルナが目の前に居たんだよね」
お嬢を生き返らせる為に色々あったんですよ、とあかり。
「要は良い奴でしたけど……巫女とか嫌いだ」
ルナはあかりの唇をちらりを見て、言った。
「巫女さんとは、『すーぱーらぶりーたいむ』でしたよ」
「『すーぱーらぶりーたいむ』?」
「あああああああああああ! 完璧思い出してきた! 止めろルナ! もう何も言うなよ!」
「ですからね、お嬢。あかりさんは巫女さんと——」
「いやああああああああああ、むぐうっ!?」
あかりが悲鳴を上げたところで、ルナの向こうに居た霊月が長い腕を伸ばしてあかりの口を手で押さえた。ルナはそれであかりに押し付けられる。
「あかりー。叫んじゃダーメ」
「うむぐ」
あかりの顔が赤面していく。
「可愛いな、あかり」
「むぐうっ!」
あかりはさらに赤面して、自分の口についている霊月の手を無理矢理ひっぺがした。
「むがあ!」
「あはは。女としてだよ。安心してあかり。わたしは百合も結構好きだから——嘘だけど」
「嘘じゃないっぽい嘘をつかないで!」
「可愛いな、あかり」
「うぐぐ……」
あかりの顔がまた赤くなる。
それを見ていたルナが霊月の方を向き、微笑して言った。
「あかりさん苛めはもう止めましょう。のぼせてしまいそうです」
「苛め!? 今普通にいじめって言ったよな!?」
「あはは。そうだね」
「納得するなあ!」
◆
その後。
お風呂を出たらすぐに歯を磨いて、あかりの部屋にルナと霊月の布団を運んで、川の字(と言っても漢字の『3』を縦にしたような感じで)3人で寝ることにした。
布団に入り明りを消したところで、ルナは雷月と改里考えた。
ルナは人間で改里は下層吸血鬼。下層がついていても人間と吸血鬼とでは比べ物にならないだろう。そして、例としてルナと改里との差が今日明らかになったわけだ。霊月が居なければルナは今頃どうなっていたか。だからルナは考えた。改里に勝つ方法を。死神の職業をやっていた(今は休業中でやっていない)身だが、やはり吸血鬼には勝てる気がしない。どうしようか。誰かに力を借りるか——それしか思いつかない。人間が吸血鬼に勝つことは、できないのだから。何をしたって。頑張ったって。
「1人より、1人と99匹じゃあ、違うんだよ」
と、そこで、霊月の声が聞こえた。
ルナは驚いて、右側に寝ていた霊月の方(霊月、ルナ、あかりと言う順番で寝ていた為)を向いた。真っ暗で何も見えない。その暗闇の中で、霊月がまた言った。
「力を貸すさ」
「で、でも……これはわたしからかかわった事件です」
「死なれちゃあ困るんだよ」
「……」
「霊月一族の中の法律を忘れちゃあいかん分けだよ」
「……え?」
「『家族、友人を守り無駄な犠牲を出してはいけない』」
それが法律だよ、と言って、それから霊月は何も話しかけてこなかった。
力。
霊月が率いる霊月一族の力を——借りる。
なぜだがそういう物はルナはあまり好まないが、仕方なくルナは力を借りることにした。
といっても、霊月一族の力とはなんだろうか? やはり吸血鬼の大群だとか……要を見て考えてみれば狐の大群だろうか? だが、それは霊月が本格的に力を貸してくれるときまでのお楽しみ。
ルナはそう思い、考えるのを止めて枕に顔を半分埋めた。
◆
そして朝。
ルナが目を覚ました頃には、隣で寝ていた霊月とあかりはもう居なかった。また、寝坊してしまった。
思い、ルナは目を擦りながらもあかりの部屋を出て階段を降りようとした、所で。
しゅぴぃん。
と。
何かが何かを切る、そんな音が聞こえた。
ルナは刹那に後ろを見る。だが、後ろには誰も居ない。ルナは眉を寄せてからまた前を向き、階段を降りようとした。
と。そこで、自分の着ているパジャマの足首に赤い何かがついていた。
「……」
赤い何かがどんどん広がっていく。これは——血?
「ルナー! 早く降りてきてー!」
霊月の声が、リビングの方から聞こえてきた。
ルナはそのでてくる血を不思議に思いながらも、霊月を優先して階段を降り、リビングの扉を開けた。
「おはよう、ルナ」
リビングには、『大勢』した。
あかりと霊月と——『その他もろもろ』。
赤い者から青い者まで、その『その他もろもろ』はリビングでくつろいでいた。
ルナが唖然として、『その他もろもろ』見ている中、霊月が『その他もろもろ』の紹介をした。
「ここにいる者たちこそが、今回の事件の力になってくれる存在の——霊月一族率いる日本最強の妖怪たちさ!」
一瞬、めまいがした。