ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.249 )
- 日時: 2008/11/21 18:41
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。
九話 [ 作戦 -計画の- ]
「では、作戦会議だ」
皆でわいわい遊んでいた祭風家のリビングに、霊月の声高い声が響いた。その声で皆静まり、座っているところから体を霊月へ向ける。
霊月はその動きを見、皆自分を見ていることを確認してあはは、と笑う。
「作戦の題名は——『ズバッと参上、サラリと解決、ササッと退散作戦』だね」
『ズバッと参上、サラリと解決、ササッと退散作戦』。
それはつまり、雷月たちの前に堂々と参上してから短時間で解決し、ヒーローのように何も無かったようにそこから退散する作戦。だと思うが。
……微妙。
「雷月んとこへ行って、作戦の内容を解決して、帰る——我ながら完璧じゃないの!」
その言葉を聞いて、あかりとルナは顔を青くする。
どう考えたらその作戦が完璧に思えるのかが分からない、からだ。なのでそこであかりが挙手。
「作戦の内容が省略しすぎてあって分かりません」
「だからさぁ」
なんで分からないの? という風な顔をして、霊月は答えた。
「雷月のところに行って、雷月と改里を離れ離れにさせてから——」
「そんな作戦だったなんて知りませんでしたよ」
そこでルナが首を入れる。霊月はルナをちらりと見て、それから下唇を上に出して拗ねているような顔をしてからまた続けた。
「それから改里を雷月を殺させるように納得させるの。そのために妖怪たちを呼んだの。——それで、それからわたしたちと契約させてから改里を離す。それだけだよ。で、今回の作戦はただたんに雷月と改里の中を引き裂く作戦。引き裂いてから改里に雷月を殺させる。そしたら吸血鬼が死んだときにくる災厄は改里に持ってかれて、こちらには何も起こらず一石二鳥。だけど改里がこちらに好奇心などをもっていたら行けないな。だから改里を納得させるのには二口女の口を使う。そんな感じだね。だから整理すると、簡単に引き裂いてしまえばいいんだよ。きっと改里もいやいや雷月にくっついて来てるんだと思うし……あ、だからまずは雷月の口を狙おう。口を狙って改里に命令させなければいいんだ……あ、それから改里の耳をふさげばいいか。ええと、だから、作戦はそれだけ。細かいことをしてはいけないさ。妖怪たちは雷月を改里に近づけてはダーメ。だから妖怪たちは雷月の行動を止める役。わたしは空間製作をしてその場所に誰も近づけないようにするから。だからルナは安心して改里を納得させる。もしもの時のために後ろにあかりを装備しておくからね。じゃあ、各自解散祭風家のどこかを自分の住処にしよーう」
簡単に終わらせて、霊月はあはは、と笑った。
妖怪たちは全員そろって「はい」と言い、それぞれ散らばっていった。
テレビの横で石になる奴、カーテンの中に隠れる奴、冷蔵庫を開けて色々と物を食う奴、天井に張り付く奴、ソファーの上で琴を鳴らす奴、大黒柱を齧る奴、姿を風に変える奴、リビングにおいてある机の上で丸くなる奴。合計8名。
「リビングが!」
あかりがショックそうな顔をしてリビングを見回す。
それを見ていた黒い髪をポニーテールとして結んでいる紫色の着物を着た絡新婦(じょろうぐも)は、琴を鳴らしながらあかりを見て言う。
「なぁ女。お前は琴を弾けるかや?」
「んー? あ、わたし楽器無理なんだ」
「そうなのかや……まあ、得意技を持ちたければいつでもわっちに聞いとくれ。琴などを教えてやるっちゃ」
絡新婦は言い終えると、琴を見てまた真剣にそれを弾き始めた。
あかりはつまらなさそうな顔をして、またリビングを見回して——大黒柱の所でその動きをやめて怒鳴る。
「ちょっとそこの鼠! 大黒柱を齧るなあ!」
「うにゅにゅ?」
黄緑色をした短い髪を揺らして、大黒柱を齧るのを止めた鉄鼠(てっそ)はあかりを見る。
「何かな? 木はおいしいよ?」
「これだから天然キャラは嫌いなんだよーう。この鼠め!」
「うにゅにゅ。あっちの名前は鼠じゃないよ。鉄黄(てっき)だよう」
「て……てっき? 敵機?」
「うにゃにゃ! 敵機じゃないやい! 鉄の黄緑で鉄黄だい!」
怒られた。
鉄鼠——鉄黄は、あかりを無視してまた大黒柱に大きい前歯でかじりつく。
「のおおおおおおお! やめて! 大黒柱食べたらこの家つぶれるからやめて!」
「ん? んぬぬ……木はおいしいのに」
「おいしいからって食べないで! 食べたら死ぬう! つぶれるう!」
「そこに痺れる! 憧れるゥ!」
「それは少し違う!」
あかりの突っ込みを聞いた後、鉄黄は仕方ないな、という顔をしてから大黒柱を齧るのを止め、床に置いてあったアラレの入っている袋からアラレを取り出して口に入れた。鉄黄はもうあかりの方を向かず、今度はアラレを食べるのに集中し始めた。
と、そこで。
あかりの着ている黒のTシャツの半そでのそでがくい、と引っ張られた。あかりは後ろを向く。そこには、赤かオレンジかの色をした髪にショートカットで胸に包帯が巻いてあり、舌はピチピチのスパッツより薄いそれを着た——妖怪が立っていた。
「何?」
「……なか」
「ん?」
「……お腹、すいた」
「そこにあるアラレ食べたら?」
あかりは鉄黄が次々と食べているアラレを指指す。が、燃えているような髪の色をしたその妖怪は首を振る。
「……やだ。死体、食べたい」
「掘り返してきたら?」
「……いいの?」
「ダメダメ」
「……でも、橙火(とうか)は、死体が、食べたい」
名前的に見た目的にこの妖怪は火車だと判断したあかりは、ふうとため息をつき、それから少しだけ話を変えて会話を進めることにした。
「名前は?」
「……橙火」
「投下?」
「橙火」
「そう。橙火ちゃん。貴方は火車で、死体を盗んで食べるのよね?」
「……正しくは、肝を、食う。小腸が、おすすめ」
「別に食べないよ?」
あかりは口元をひくひくと吊り上げる。
「わたしはあんたじゃないし」
「……そう、だね。橙火は、橙火。あな——」
そこで橙火と言う名の火車は息をついて、続けた。
「——たは、あなた」
「どこで区切ってるのよ!」
「……仕方、ない」
「ちっちはどういう意味だか分からない!」
「……話が、ズレてる。橙火は、死体が、食べたい」
そこであかりはしばし考え、それから右手の人差し指をぴんを立て、橙火を向いて言った。
「我慢なさい」
「……うい」
その「うい」が返事だったのか、言い終えると橙火は鉄黄のところへゆっくり歩いて行って、そして鉄黄が手に持っていたアラレを横取りして食べた。
「気が変わるのが早い奴なんだな……」
あかりは呟くと、絡新婦が座っているソファーまで歩いて行き、それからそのソファーへゆっくり腰を降ろした。
絡新婦はあかりをちらりと見、うふふと笑った。
「わっちは紫琴(しこと)と申すっちゃなあ」
「……自己紹介ありがとう」
紫琴はまたうふふ、と笑い、それから琴から手を離してあかりをじっと見つめてきた。
「女は琴はお好きかや?」
「んー? あ、わたし楽器無理なんだ」