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Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.256 )
日時: 2008/11/24 21:00
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。

十話 [ 作戦 上 -実行の- ]

 その後は散々妖怪たちから自己紹介を受けた。そのおかげで久しぶりに出会った人物(というのはおかしい。生物?)のことをうざい、と。くどい、と思った。
 そして12時がまわり、瞼も次第に閉じてくるようになった頃にあかりとルナと霊月は寝た。
 妖怪たちはリビングで休んでいるという。
 あかりとルナと霊月は、自分たちの部屋で寝た。途中で1階から物音と琴の音が聞こえたけど、別に気にはしなかった。



 夏も終わり、季節は秋に変わり始めた感じがしたなぜか肌寒い朝。ルナは昨日とは違い、6時15分に目を覚ました。この時間なのであかりと霊月はまだ眠っている可能性がある。
 ルナは水色のパジャマの上に白の無地の上着を着てそれのチャックを胸元まで閉めて部屋をでた。

「う、わあ……」

 寒い。
 それはもう冬かと思うぐらいに寒かった。ためしとして、そこで息をついてみた——白い。息が白く見えた。これで確定した。何かが起こっている、と。
 ルナは眉を寄せて、階段を一段一段降りる。

「あー、冷たい……なあ」

 息も見えるこの寒さの中、冷えている階段を裸足で歩くのはとてもつらい。だが、ルナに限らずあかりも霊月もスリッパを持っていないし、ルナは靴下を持っていない(なぜかあの肌触りが気に食わないのだ)。なのでこの冷たさは我慢しなくてはならない。

「む……う」

 口の中に空気を入れて拗ねた顔になりながら、ルナは階段を降りた。そして冷たさをこらえて、これまた冷えているリビングのドアノブを引いた。

「おはようございます」
「遅いのう、女」

 真っ先に声をかけてくれたのは絡新婦の紫琴だった。
 そして次に、鉄黄。
 そして次に青二(二口女の名前)。
 そして次々と妖怪たちが朝の挨拶をしていった。以外と礼儀正しい。
 とそこで、冷蔵庫を背もたれとして、着ていたボロボロの着物の帯を結びなおしていた青二(あおに)が、ルナへ手を振る。
 ルナは目を擦りながら、その冷たいフローリングの床をあるいて青二のところへ向かった。

「……何ですか?」
「や、別に——さ。……く、ない……か?」
「はひ?」
「さ、寒くないかって言ってる!」

 怒られた。

「なんだか今日はいつも以上に寒いしあんた人間だしどうせ今着てる服も薄いし寒くないかって言っただけよそうよそれだけよ挨拶交わして次にその話ってありえますかって顔してるわねあんたそうよそうよ悪いかしら挨拶交わした後にこんな話したらいけなかったわねそうねでもそれで悪いかしらそうかしらどうからし——」
「どう『からし』?」
「噛んだ。悪い?」
「わざと?」
「噛みゅだ。悪い?」
「……わざとじゃなさそうですね」

 ルナはそう言ってから青二の顔を見た。
 と、そこで青二の顔が突然とうがらしのように赤くなる。
 ルナはびっくりして思わず青二の肩をつかんだ。

「大丈夫?」
「うぎゃああああああああああああああああああああ!」
「大丈夫!?」
「離れろ触るなダメだ近づくなこっち見んな向こう見ろ向こう行け! きゃああああああああああああああああああああああああああああああ——」
「……大丈夫じゃなさそうですね」

 また一言言ってから、ルナは青二から離れる。と瞬間に青二の叫び声は止まった。
 青二はルナが自分から離れた後も、

「あーやばいやばいやばいやばいやいば……刃っ!?」

 とぶつぶつ呟いていた。
 なんとなく、妖怪にもパワフルな奴が居るんだなと思い、ルナは心の中でくすくす笑った。
 とそこで、リビングの扉が力なく開いた。

「おふぁよう……」「おはよーう」

 扉を開けたのは霊月で、後ろにはあかりが居た。霊月はあくびをしていて、あかりは両腕を抱くようにしていて肩を震わせていた。
 妖怪たちは一声に霊月とあかりに(と言っても正確には霊月に)挨拶をした。
 霊月はあかりをちらりと見、それからソファーの前で突っ立っているルナを見た。

「なんだか寒くない?」
「……ですよね」
「まあ、一様防寒対策はしたんだけど」
「……どこを——ですか?」
「下だよ。下。足元足元」

 霊月は言って、両手を胸元まで持って行き、その手の人差し指を下に向けてたたせる。
 ルナはその人差し指を見、それからどんどん視線を下へ持っていった。

「……うお」

 見ると、霊月はフローリングの床から2センチほど浮いていた。
 そしてルナはそれを見て改めて言った。

「ずるい!」
「えっ! 怒られた!? なんで!?」
「わたしたちはわたしたちで寒さを我慢しているというのに、お嬢はそんなずるいことを! 吸血鬼として最低です! 石の上から落ちるです!」
「言っていることがよく分かんないよ! 石の上から落ちるって何!?」
「ですから、お嬢はずるすぎて石の上に3年も居られないということです! ずるいお嬢が自分の背に乗っているなんて……石さんもさぞかし可愛そうです!」
「あああ! ルナに怒られた! いじめられた!」

 霊月はそう言ってから何も喋らず、ルナは霊月をじっと見つめていた。それから数秒がたったところで、ルナは霊月の肩に手を軽く置いた。

「嘘ですよ」
「……え?」
「ですから——まあいいです。後ろのあかりさんがかわいそうなので早く入ってきてください」

 ルナはそういい終えると、霊月の目の前にあった体を右へ動かした。霊月は「ううう」と言い俯きながら前へ数歩歩く。と後ろのあかりがやっと入れる、という顔をしてリビングの中に入った。

「じゃあ、朝ごはんを食べようか」

 さっきまでのことを忘れたかのように、霊月が皆に声をかける。

「火車はこっち来て。わたしの小腸をあげるから」
「えー」

 霊月の言葉を聞いて、あかりが気持ち悪がるようにそう言う。

「小腸っすか」
「吸血鬼なんだから、普通に蘇生するから大丈夫だもん」
「そうかそうだなそうですね」
「うんうん。こういうときに役に立つんだよね、吸血鬼の絶望的な治癒力は」

 霊月は言い終えてからあはは、と笑い、それから机の上で膝を山のようにしてそれを抱きかかえるような体制でこちらを見ていた橙火へ手を振る。橙火はそれを見て刹那に机から立ち上がり霊月の元へ走ってきた。霊月はすばやく動いてここまで来た橙火を見てシニカルに笑い、あかりをよけてリビングを出て行った。
 とそこで。
 気持ち悪い音がリビングの扉の外から聞こえてきた。
 ぐじゅう、だとか、ぐちゃあだとか、それはもう描写のしにくい霊月が自分の体の中を抉る音。
 あかりはそれに顔を引きつらせ、ルナはリビングの扉を見て驚いたような顔をする。他の妖怪たちは、そんな音聞き慣れてるよ、とでも言うようにその音に一切の反応をしなかった。
 恐るべし慣れっこ。
 そして次にリビングの扉が再び開いた。
 入ってきたのは何食わぬ顔をした霊月と、口元が血だらけになっていた橙火だった。

「何これホラー!?」
「臓器物を食べると誰でも口元は汚れるものだよ、あかり」

 言って、霊月があかりの肩に軽く手を置く。

「しかも火車は小腸にかぶりついたからね……あ、でも大丈夫。廊下は汚れてないよ。髪の毛を変化させてカバーしたから」
「……」

 あかりは霊月の言葉を聞いて口元をひくひく上げ、それから霊月の後ろに居た橙火を指差した。

「口元洗ってらっしゃい。洗面所は扉出て左の1つ目の扉だから」
「……うい」

 橙火はそう返事して、リビングから出て行った。
 霊月はそれを見てあはは、と笑った。

「じゃあ、さっさとごはん食べて着替えて出発しよう」



 朝ごはんはトーストと目玉焼きだった。
 トーストと卵が一瞬で無くなり、あかりが嘆いていたのは別に気にしなかった。
 着替えた服はネクタイと靴下までもが黒いスーツセットだった。それは霊月があらかじめ用意していたもので、サイズが元のサイズより一つ上の物なのでだぼだぼだが、大きくて多少動きやすくなっていた(だが妖怪たちは元の服のままなのだが)。
 ということで出発した。
 ルナは一人で歩き、その数メートル後ろをあかりが追う。霊月は祭風家の玄関で。妖怪たちは気配を完全に消した後、バラバラになってルナの数十メートル後ろを歩いている。
 そんな体系で、作戦を実行に取り掛かった。