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Re: あかりのオユウギ2 -剣呑- ( No.260 )
日時: 2008/11/26 22:16
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。

十一話 [ 作戦 中 -開始の- ]

『ヘイヘイヘイ! 霊月ファイヤフライさんからの通信だよー。まわりに人を寄せ付けないようにしといたから、ぞんぶんに納得させておーけー! ってああ! 雷月たちが来てるよよよよよよ——』

 赤色をしたコウモリがルナの耳元でぼそぼそしゃべる。このコウモリは霊月の髪の毛が変化したものと考えられる。もちろんこのコウモリを動かしているのは霊月なので、今コウモリで喋っているのは霊月だ。

『よよよよよよよよよよ——よっ!?』

 あまりにもコウモリが「よよよよ」うるさいので、ルナはコウモリを左手でつかんでそれを地面へたたきつけた。ルナは地面へ軽く埋まっているコウモリを気にしず、また前へ進む。

『あああー。ルナがひどいー。助けてーうわーん』

 コウモリは泣き叫ぶ。が、ルナはその言葉は一切耳に入れずにまた一歩歩く。

『うわああああああああああああああああああああ——』

 とそこで、コウモリの声色が変わった。

『ルナ、頑張れ』

 ルナは振り向いてコウモリを向く、が、もうそこにコウモリの姿はなく、地面に赤い髪の毛がそこにあった。
 ルナはこれで察知する。近くに——いや、数メートルも無い至近距離に雷月と改里が居ることを。
 そして。

「千切れろお!」

 声が聞こえて、ルナの首を『何か』が掴み、ルナの体を上げる。ルナは眉をしかめて、両手を後ろへ回し自分の首を掴んでいる『何か』に爪を立てる。と、その爪が『何か』につい込んだのか、その『何か』がルナの首を掴む力が少し和らいだ。——と瞬間。空中へ上がっていたルナの体が、突然と下へ落ちた。

「うわっ」

 ルナは声を漏らして打った足をさする。と、ルナの肩にぽんと何かが軽く置かれた。ルナはその何かが置かれた肩の方を見た。そこには——

「頑張れ」

 二口女、青二の手が置かれていた。と思うと、すぐに青二はその手を離して雷月の方へ走って行き、

「秘術、『一時停止(モーメントオブストップ)』!」

 叫んだ青二の手が雷月へ触れた。と、刹那に雷月の姿は消える。

「ちょ、おま、待て!」

 改里の声音がし、ルナは後ろを向く。そこには確かに青と白のセーラー服を着た安城改里が居た。
 改里は青二へと走っていくが、青二は刹那に霧となって消えた。改里はそのわずかな時間で起きた出来事に目を丸くし、動きを止めた。
 ルナは改里を見ながら、ゆっくりと立ち上がった。そして少し膝を曲げ、黒いスーツについた砂を両手ですばやく払い、払い終わるとまた元のように膝を伸ばした。

「待てないさ。もう作戦は開始しているのだから」
「ご主人様をさらって——月人形、お前は何がしたい」
「……セーラー服。わたしはお前に質問などしていない。こちらの質問に答えろ」

 ルナは一度深呼吸し、続けた。

「どうしてあの吸血鬼に従うんだ?」
「……月人形、お前、何言ってるんだよ」
「どうして……ですか?」

 ルナは改里に対しての口をいつものおとなしい方に変えてまた訪ねた。
 改里は一歩後ろへ下がり、ルナを睨んだ。

「何が目的だ」
「まずはわたしが言った質問に答えてください」

 改里はルナを睨むのを止め、次は真剣な目をして答えた。

「眷属で下僕で返そうとしても返せない恩があるから、だ」
「では次の質問です」

 ルナは即答して続けた。

「二択で答えてください。雷月ファイヤフライと、離れたいですか?」
「……え?」
「雷月ファイヤフライと離れて、自由に暮らしたいですか?」
「そ、それは……」

 改里は一旦黙り、それから『いつものように』答えた。

「月人形! お前、本当に何したいんだよ! 僕とご主人様に間を開けようと考えてるんだろ? そんなこと、できない。僕はご主人様の下僕だから! だから、変なこというのは止めろ! 軽く殺すぞ!?」
「……わたしたちは、できれば貴方を救いたい」
「何馬鹿みたいなこと言ってるんだ! 本当に殺すぞ!?」
「とらわれの貴方を、救いたい。救って、自由にしてあげたい」

 ルナの言葉を聞いて、改里は同様にまた一歩後ろへ下がる。頬には脂汗が出ていて、なんとも追い詰められている風が漂ってくる。
 ルナはかまわず続ける。

「無理をしていませんか? 屈辱を味わってませんか? 滑稽だと思いませんか? 無理やりに下僕にされてませんか? それは全て雷月の仕業じゃあありませんか? 嫌なんじゃないんですか? 雷月を殺して逃げてやりたいんでしょう? そうでしょう? 自分の意見をはっきり言ってやりたいでしょう? なら、それを実行しましょう。わたしたちは貴方の見方です」
「あ……嫌な分け……」
「嫌な分けがない分けがないんです。ええ、そうですね……貴方の情報を少し調べたらすぐに嫌かどうか分かります」
「や、やめ……ろ」
「どこかを故障していて、それを直してほしくて下僕になったのか。いじめられていて、自分をいじめている奴より強くなりたくて下僕になったのか。ただの興味本位で遊んでいたら、本当に吸血鬼と出会ってしまって下僕にあったのか……。どれなんですか?」
「や、やめろ!」

 と、そこで改里が怒鳴った。

「やめてくれ……よ……」

 今までとはめっぽう違う、弱弱しい声を改里はその口から漏らした。よく見ると肩を震わせていて、目には涙がたまっている。まるで、大きい犬におびえている子犬だ。
 ルナは震えている改里を見て少し驚く。
 改里は両手で震えている肩を抱き、それからルナの方を今にも泣き出しそうな目で見てきた。

「僕は、好きで下僕をやっている分けじゃない。それは確かだ。だけど……好きで、嘘をついてまでやらなくてはいけないことくらい、あるんだ」
「……」
「僕の覚悟に邪魔をしないでくれ。だから、殺す」
「……どう思ったらそこから殺すという意思になるのか分かりませんね。……じゃあ、本気を出しましょう」

 言って、ルナは軽くその場でジャンプを3回行った。それから肩をまわす。途中で「ごき」という音が聞こえたが、ルナは別に気にしなかった。そしてルナは着ていたスーツの胸の浮き側のポケットから1本の注射器と薄い収納識の果物ナイフを取り出した。
 対して改里は、来ているセーラー服のどこかからまた青い柄のナイフを取り出し、それをルナへ向ける。
 ルナは注射器の蓋を取り、ちゃんと中に入っている液が出るかどうか少し液を出して確かめ、それを改里へ向けた。

「ではルールを作りましょう。貴方は霧になってはいけない、空を飛んではいけない。というルールを付けるんです。いいですよね?」
「ああ」

 改里の返事が返ってきて、ルナは微笑し「では」と呟き、続けた。

「リッパーが、死神に勝てると思っているのですか?」
「ああ。リッパーも強い」
「ですが死神も強いです」
「そうだな。……じゃあ、始めよう」

 ルナはまた注射器の液を出して、言った。

「真っ赤なお昼にしましょうか」