ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 -吸血鬼伝説- 1-3 ( No.27 )
- 日時: 2008/08/15 16:39
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
四話 [ 学校-殺人予告- ]
「はよー」
「おはよー」
朝の挨拶を交わす名前もまともに覚えていないクラスメイトたち。それを横切りながら、祭風あかりは一年二組の教室へ入った。
そして、その教室の状態をみて、止まる。
「あ、おはよう。あかりちゃん」
いじめられ役のれいのあの人。いや、桂杏里が普通に机に座っているではないか!
いつもなら、いじめ役の女子数人に囲まれているのに…なにがあったのだろうか。
「あのね、あかりちゃん」
桂杏里が話しかけてくる。
や、聞こえない。なにも聞こえないぞ桂杏里。自分は信じない。お前みたいな弱虫っぽい奴がどうして果ての無いいじめから逃れられる? 嬉しいことなのだが、どうしても喜べない。ただ、顔がひきつるだけだった。
なので、とりあえずあかりは桂杏里の右手をひっぱり、二階の階段を上った。
◆
人気のない、立ち入り禁止の屋上。そこであかりは、桂杏里と話をしていた。
「なぜ、桂ちゃんは昨日の様にいじめられていないの?」
「昨日の夕方、彼女たちとお話したんです。そして今日、普通に登校したら——このように」
「なにそれぇ」
信じられん。なぜ、あのいじめからこいつが逃げられたのが信じられん。
「まぁ、信じられないけどいいか。んじゃ、ええっと——」
「桂ちゃん。そしてわたしは、あかりちゃん——ですよね?」
夏の青い空の下。風が爽やかに吹く屋上で、杏里は笑って見せた。それから、昨日とは大違いに笑って、アスファルトの屋上を歩いていった。
◆
もしかしたら、自分は同情していたのかもしれない。
・・・
黄土色の机に、愛用のシャーペンで絵をがりがりと書いていると、あかりっと元気良く名前を呼ばれた。あかりはあーと、気の抜けた返事を返しながらも、がりがりと机に絵を描いていく。がりがり。
すると、またあかりっとさっきよりも大きな声で名前を呼ばれる。あかりはさっきと同じように、あーと音量を上げて言う。それから、声がした方を向く。そこには、
「はよっ。ほれ、あかり、例のブツ」
にこにこと顔に笑みを浮かべている秋傘が自分を覗き込んでいた。そして手には——白いビニール袋。それを見てあかりは、はっとしで秋傘の手からビニール袋をもらう。それから、中身を確認する。中には——じゃがいもが二つ。
あかりはにこっと笑い、秋傘にひとまずお礼を言う。
「ありがとうね」
「や、じゃがいもならうちに腐るほどあるからな」
「二つで十分よ」
そう言い、じゃがいもの入ったビニール袋を机の横のフックにかける。
「ふーん…。あ、じゃあ今度さ、うちに来て料理作ってよ」
「は?」
「じゃがいもの料理。おまえ小さい時から料理やってるから、料理得意なんだろ? な? いいじゃん」
「か…勝手に決めないでよね。あ、作ってあげるわ」
「じゃがいもの芽(毒)とかありそうだな」
わはは、と笑う秋傘と自分。
向こうの窓から風が吹いていて——自分たちの髪を揺らす。そんな中、祭風あかりは心の中で決めていたことがあった。
それは、きっと誰も分かっていないこと。秋傘だって、普通に『それ』をくれた。赤星先生との会話を気にしずに、自分に『それ』を渡した。
準備は整ったのだ。完全に。さっさとやるんだ。禁じられている——殺人を。