ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 -Betrayal- ( No.274 )
- 日時: 2008/12/06 21:18
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。
一話 [ 作戦-Blood- ]
とりあえず、だ。
橙火の件もあるし血文字の件もある。なので霊月はあかりと橙火をつれて皆が集まっているリビングへ戻った。そして橙火に何があったか、と、血文字のことを話した。
だが、この件について考えることはない。
橙火についてのことも血文字についてのことも、それを行った者のことはもう見当がついているのだ。それは、『I certainly kill you!』の文字で分かること。と、このような事件が起きるのは前々から予測していたことだ。
雷月エレクトリティー。
霊月一族と敵対している一族の娘であり、改里の元御主人様。夏に雷月から改里を奪い、妖怪たちが雷月を痛めつけてそれからは姿を見せなかった。が、ついに動き始めた。
そう、橙火の件と血文字の件は、雷月がやった。と考えている。
霊月いわく霊月一族と最も中が良くないのは雷月一族であり、血文字と肝をぶち巻ける人の殺し方は昔から雷月一族が愛用しているという。
だからと言って。
なぜ、橙火を狙ったのか——
「答えは簡単よ」
霊月は飽きれた顔で言った。
「その辺に独りでいたから」
吸血鬼はあまり殺す人間を選ばない。とりあえず死ねばいい、としか考えていない。だが、食事にはこだわる。霊月一族はB型の血を飲んで生きていて、雷月一族は生首を好む。桂月は肝を好んでいた。
「だけど、今回は殺す目的で行ったみたいだけどね」
霊月はまた飽きれた顔で吐き捨てた。
「……前の作戦でアイツを殺しておけば良かった。アイツの一族は仕返しはとことんやるからね」
と、そこで霊月は机の上にあった飴の袋を開け、中から飴を取り出し口に入れ、それを歯で1回噛んでから、よし、と呟いて腕を組んだ。
「次の作戦を練るわ。内容は簡単。アイツ……雷月エテクトリティーを——」
また、飴を噛んでから。
「全力でぶっ殺す」
そして形が大きいのと小さいのと様々なものがある飴を飲み込む。霊月は飴は最後まで舐めきるタイプなのだが、橙火の件で怒っているのか数秒で1個の飴を食べてしまっていた。だが怒るのも悪くないだろう。自分の一族率いる大切な妖怪を殺されたのだ。
醜い姿に殺された橙火は、今は体についている再生できなかった血を洗い流すために風呂へ入っている。長時間。それだけの傷を負ったのだろう。何の根拠もなく殺されたのだ。
とそこで霊月がだけど、と一言。
「とどめは改里がしなさい」
「はひ?」
霊月の言葉に霊月の隣に座っていた改里が気の抜けた声を漏らした。
「そ、それはどういう——」
「勝手に眷属にされて恨んでるんじゃなかったかな? ワトソンくん」
「ははは! ホームズ先生は勘が宜しいしお優しいんですねぇ」
「探偵舐めんなよ畜生」
そこであかりが口を入れた。
「ホームズ先生は偉大なお方さ」
「ちゃんとしたシャーロック・ホームズの小説読んでない癖に良くいえるね、あかり」
「『シャーロックホームズごっこ』で悪かったね。だけどそれしか売ってなかったんだもん」
「赤川次郎を読みなさい」
えー、と嫌そうにするあかりを見、霊月は口元を緩ませてからまた前を向いて話を戻した。
「作戦の整理をしましょう。実行日時は明日の夜でターゲットは雷月エレクトリティー。やることは雷月エレクトリティーを抹殺すること。けが人がでたらわたしを呼ぶこと。死人は出さない出させない。以上、解散!」
◆
それから数分が経過してから橙火が顔を赤くさせて風呂から出てきた。他の皆はあえて橙火に何も聞かず、あかりとルナはあかりの部屋の掃除をとりあえずしておいた。だがカーペットについた血はとれきれないし生臭い匂いも取れなかったので、これからあかりはルナの部屋で一緒に寝ることにした。
と、ここで説明。
霊月の——吸血鬼の血には治癒能力があり、それを怪我人が負っている怪我の部分に垂らすと数秒で治ってしまう。だがその怪我人は下層吸血鬼にならない。悪魔で、治癒能力だからだ。
霊月はため息をついてまた腕を組む。
とそこで、むせる。
そして——何かを吐いた予感がして口に当てていた手を見た。そこには、
赤い、液体があった。
霊月は急いで赤い液体を舌で舐める。
赤い液体。赤い、液体——血。
霊月は血を吐いたのだ。原因不明の、血の嘔吐。どこもかしこも痛くはない。以上なんでどこにも感じない。霊月が眉を寄せて居ると、霊月の空いている隣へ紫琴が腰を掛けて来た。彼女の手にはホットミルクの入ったマグカップが握られていた。
「ほい」
紫琴は霊月へそれを出し、霊月はそれを受け取り口へ運ぶ。まだ季節は秋だが寒いときは寒い。なので一口それを飲んだ瞬間、体が暖かくなった。
また口元を緩ませた霊月を見て、紫琴はうふふ、と上品に笑う。
「体は大丈夫かえ? お嬢様」
「見てたか」
紫琴はまたうふふ、と笑い、答える。
「蜘蛛の目は8つ在ることを——忘れてはいけませんよ、お嬢様」
「他の6つの目はどこにあるんだかな」
霊月はまたホットミルクを一口飲み、ふうと息をついた。
「誰にも言うなよ」
「承知していますえ、お嬢様」
「——無理やり生き返ったからな。神様はわたしが生きるのを許してくれないみたいなんだ」
「一度は死んだ身、ですかね?」
「ええ。もしあの『血』がそのようなものだったら——わたしを宇宙へ飛ばしてくれ」
紫琴は霊月を何言ってんの、とでも言うような目で見て答えた。
「医者を用意する」
「どんな?」
「アスクレピウスとか?」
「それ医者の神様でしょ」
「一様医者だえ」
「蛇使いだが牛使いだかしらないけどさあ……」
「じょーくやえ。あめりかんじょーく」
紫琴はまたうふふ、と上品に笑う。
「最高の医者を用意いたしますえ」
「くはは……楽しみにしとくよ」
霊月はまたホットミルクを一口飲んだ。