ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ2 注意事項 ( No.283 )
- 日時: 2008/12/11 22:22
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。
二話 [ 休養-明日- ]
暇なので、とりあえず改里と遊んでいた。
「赤川次郎」
「宮部みゆき」
「アガサ・クリスティー」
「……シャーロック・ホームズ」
「詰まってきたね、改里。はやみねかおる」
「ええー」
「岡崎隼人」
改里は随分と長い間唸ってから、とても悔しそうな顔をし、下唇を噛締めながら小さくぼやく。
「負けました」
あかりはふんっと鼻を鳴らして、『有名な小説家』の名前を並べていく。
「深水黎一郎、佐藤友哉、 森博嗣とか……」
「どうせメフィストだろー?」
「メフィストだからこそ、よ。フリッカー式とかは有名じゃない!」
「知らん」
改里は眉をしかめて、それから答えを出した。
あかりはそんな不機嫌そうな改里を見、またふんっと鼻を鳴らす。
「知らないのは大変よ。今すぐ赤川次郎買って来なさい……あ、でも最初はアガサ・クリスティーが面白いかもね」
「言ってる意味が分からないな」
「分かれ」
「小説に興味はないな。あるのはお前の血だけだ」
改里はこちらを見ていたあかりへ顔を近づけ、あはは、と笑ってあかりの頬を人差し指でつつく。
「ご主人様から聞いた。ワールドルーレパーソンっつー奴なんだろ? お前」
「知らない。最近は時間とか止めてないし止めれるか分かんないし?」
「構わないさ。わたしはちょっと変わった奴の血が飲みたいんだ」
「そこらへんのO型の血でも吸ってなさいよ」
改里はあかりの言葉を聞いて、顔をしかめながら先ほどよりも力を込めてあかりの頬をつついた。以外とふにふにでやわらかい。
「O! 何それ食料? あはは! バカだな、お前も。O型なんて飲んでられるか! 時代はB型だよ! 霊月一族は立派なB好きなんだぞ!?」
そこであかりが、うっと声を漏らして嫌そうに改里を見つめる。
「やば。わたしB型だ」
「観念しろー! あかりー!」
言って、改里はあかりの頬をまた強く人差し指でつっつく。あかりは一生懸命改里の人差し指を払おうとするが、下層がついても吸血鬼の改里に力の勝負で勝てるわけがないのだ。改里はあはは、と笑いながら頬をつっついてあかりへ身を近づけていく。とそこで、あかりのトラウマが蘇り思考が開始する。
何だかこのままだと改里と——よし離れよう。よし離れよう。キスはいやだ。またルナにからかわれる。何がすーぱーらぶりーたーいむがこんちきしょう。よし、ここは全力で身を守ろう。そうだ、唇に手を当ててガードをすればいい。よし、来た!
思考して、唇に手を当ててガードしようと今まで改里の人差し指に攻撃をしていた両手を動かそうとしたときだ。
「うおあっ!」
改里が叫び声をあげる。なぜだろうか。
改里が自分へ近づいてくる。なぜだろうか。
改里が唇から自分へ近づいてくる。なぜだろうか。
改里の唇と自分の唇が重なる。なぜだろうか。
◆
「てめえ何しやがるう! ばっきゃろう!」
あかりは叫んで、すぐに改里を押す。改里は気の抜けた声を出し、元いた場所まで戻る。改里は眉を寄せて、なにするんだ、と呟いてあかりを見る。
「あわわわわぐがががががががががが」
あかりは、赤面してまるでロボットの様な機械的音声を発していた。
「ががががががががががががががぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱー」
「いや、すまんすまん。つい腰が浮いてしまった」
「あうぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐがぱああああああああ」
「いや、本当にすまん。これは僕が悪い。本当に。ごめん」
あかりの機械的音声は止まらず、あかりが落ち着いて普通の声を出せるほどまで回復するまで止まなかった。もちろん落ち着いた時最初にしたことは改里を思いっきり殴ることだったが。
◆
はしゃいでいるあかりと改里を見て、青二はため息をついた。
なぜ短い期間でこんなにも仲が良くなれるのか、分からなかったからだ。
ため息をついた青二を見て、ルナは顔を青二へ近づかせる。
「どうかしましたか?」
青二は下を向かせていた顔を上げ、『別に』と言おうとしたのだが、叫んでしまった。
「きゃあああああああああああああああああああああああああ!」
ルナは刹那に下を向き、両耳を両手で塞いで超音波のような青二の叫びを遮断し、完全に叫びが止まったところで耳から手を離して眉を寄せて改めて青二を見た。
「どうかしましたよね!?」
青二はさきほどのあかりよりも顔を赤面させてルナの問いに答える。
「どどどど、どうかしたわよ悪いかしらそうよね妖怪なんかだ驚いて変よねでも別に怒られる側じゃないしそんなこと知らないしわたしの勝手だしそもそも顔を近づけるアンタが——」
「熱ですか?」
「のうわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
青二は悲鳴を上げて、それから冷蔵庫を向いて冷蔵庫へ頭をどかんどかんぶつける。
ルナは青二の動きに眉を寄せ、腕を組んだ。
◆
「貴方、部屋の中なのにいつも葉を差しているのね」
上半身裸に下半身は赤い布をつけただけで動かない赤子を胸の前で持っている女性、産女の飛赤(ひあか)は、葉を両手で持ってタンスとタンスの間に出来ている50センチくらいの所にちょこんと座っている白葉(はくは)に言った。
白葉は飛赤を見上げ、それから蓮の葉の傘をくるくる手の中で回した。
「蓮の葉は、わたしたちがコロポックルであることを証明しているものですから」
控えめにそういう白葉。
飛赤は、身長の差に気づいてしゃがみこみ、赤子を抱いていた両手のうちの片手で白葉の頭を優しく撫でた。
「そう。わたしも。この赤い腰巻は産女という証」
「おんなじですね」
「そうね。——で、貴方はどんな力を持っているの?」
非赤はシニカルに笑う。白葉はそれに赤面しながら手の中で葉を回しながら答えた。
「おお、主に呪いを掛けられますすすす」
「へえ……」
「北海道にある十勝という所の名前はわたしたちコロポックルが掛けた呪いの名前なんです。ええと、その呪いは『トッカプチ』というもので、日本語に直すと『水は枯れろ、魚は腐れ』というものになるのです。そのような呪いが、主にわたしの力です」
「わたしはこの赤ちゃんを使うの」
何気に中が良い二人組みであった。
◆
そんな祭風家のリビングであるが、他の者は独りでぽつんと居る。
さあさ明日は血祭り血祭り。楽しく殺り合いましょう。こちらは不死身の妖怪軍団、そちらは不完全不死身の吸血鬼1人。どちらが勝つかは予想の通り。下僕は主人を殺すのか? 何も知らずに殺すのか? 妖怪と吸血鬼と人間に騙されていることも知らずに、主君を殺して殺されるのか。
吸血鬼を殺したら、その吸血鬼を殺した人物に災厄が飛んでくる。
それはとても滑稽なお話。騙されてしまった下僕の滑稽なひとつのお話。
蜘蛛は、蝶の罠に見事に嵌りました。