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Re: あかりのオユウギ2 -吸血鬼伝説- 1-4 ( No.30 )
日時: 2008/08/16 07:14
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

五話 [ 殺人準備 上-黒のワタシ- ]

 長く伸ばした黒い髪を、ゴムで結んで顔に掛からないようにして、あかりはじゃがいもの芽を撥ですり潰していた。
 ごりごりごりごり。
 聞こえる残酷な音。たれる汗。真剣な目つき。あかりは——人を殺す為のことに必死だった。もうすぐで——あいつにあえなくなる。そう思うと、また手が動く。全自動すり潰し機の様に。



 あいつのご飯なんて、作りたくなかった。
 あいつと同じ空気なんて、吸いたくなかった。
 あいつの指紋がついた物を、さわりたくなかった。
 そんな思いで芽生えた気持ち。それが——『殺してしまえばいいんだ』と言う気持ちだった。
 自分が小学校二年生の時。朝食、昼食、夕食を作っていたのはいつも自分だった。最後の家族。自分と血の繋がったたった一人の家族は、テレビの前でご飯ができるのをただただ待っているだけ。そしてご飯ができたよ、と言うと、一目散に机に向かって、お茶碗の中の物。おかずなどを食べていった。そして自分に残るのが——本当に本当の残りカス。
 それが嫌だった。どうしても——お父さんに消えてもらいたかった。
 全ては仕返しと言う三文字で収まる。小学二年生の娘に毎日毎日家事を押し付けてきた——次は、自分がお父さんに何かをする番なのだ。ちっぽけなことで終わらせはしない。派手に楽しくやろうじゃないか! ねぇ、お父さん?



 ごりごりごりごりっ…。

「ふぅ。完成」

 時刻はすでに〇時をまわっている中、額についた汗を手で拭い、あかりが笑みを見せた。
 手にはすり潰し終わったじゃがいもの芽。確か次は——乾燥だったな。
 そう思い、あかりは用意しておいたマスクを耳にかけて、粉状のじゃがいもの芽をこれまた用意しておいた新聞紙にそれを新聞紙の上から零れないそうにそーっと入れ(移し)、ピンク色のカーペットにそーっと置く。
 準備は完了だった。そして、お父さんを殺す為の台本も頭の中でできあがっているし。まず、いつもの様に朝食を作る。作るメニューは、ご飯、味噌汁、玉子焼き、ウインナーだ。特性青酸カリを入れるものは、玉子焼きの中。卵をかき混ぜているところで、入れるのだ。効き目は一分後ぐらいだろうから、お父さんよりも早く朝食を済ませ、「お皿は水につけておいてね」と言ってすぐに家を出ればいい。ということで、完全に、完璧なこととなっている。またくわしいことは後で話そう。
 とりあえず、すでにお父さんは——自分の掌の上。いつ潰して(殺して)も仕方がない。蜘蛛は——蝶の罠に引っかかったのだ。



 とりえあず、またお風呂に入ることに決めたあかりは、次々と来ていた衣服を脱ぎ、お風呂へ入った。
 体を洗う気力もなく、普通にお湯に入って出ればいいと思っていた。
 やはりお湯は気持ちよく、もう寝てしまいそうなほどだった。
 もう本当に寝てしまいそう…という所であかりはお湯から出て、お風呂場から出て、薄ピンク色のバスタオルからだを拭く。両手から首、首から胸、そして背中を拭き尻を拭き、そして足を拭いてタオルは洗濯機の中へ入れる。それから下着をはいて鼠色のTシャツを着、少し濃い鼠色のパンツをはく。それから上げてあった黒い髪を下ろして、二階へと上った。
 ぱたぱたと上る階段。もうお父さんは眠っていて、下からは音一つ聞こえてこない。そんな静かな家の階段を上りきり、自室の扉をあけた。
 電気をつけ、小走りで薄ピンクのベッドに向かい、倒れこむ。
 ぼふんっ。
 それからちゃっと起き上がり、隣の黄土色の勉強机から本を取る。今丁度読んでいる本だ。名前は——『吸血鬼伝説』。
 書店でちょうど目に入り、気づいたらこの本を買っていたのだ。読んでいたら分かるけど、これはとても不思議な話だった。
 主人公が吸血鬼に噛まれ、下層吸血鬼となってしまう。下層吸血鬼とは、吸血鬼に噛まれ、完全にその吸血鬼の僕となってしまった人間のこと。そしてその下層吸血鬼となった主人公は、人殺しをする。したくもないのに——だ。そしてある日。血まみれとなった主人公は、もう人を殺したくないがゆえに自殺しようとする。噛まれた吸血鬼にやめろといわれても、主人公は死に物狂いで自殺しようとし——死んでしまう。と今はまだここまでしか読んでいないのだ、そこから先の話は分からない。だが——とても読者をひきつける、ひきつけようとする書き方で、話で、結構気に行っている本だった。
 その本を、また一時が過ぎていることも忘れ、あかりはそれを読み続けた。