ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: あかりのオユウギ2 +注意事項あり ( No.305 )
日時: 2008/12/23 12:14
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: ファゴットの使えない殺人鬼は殺人鬼ではありません。

 わたしはベットに横になっていた。
 入院して5週間目。大視症(マクロピシア)という病気らしい。わたしの小視症の場合、右目だけが普段の2倍大きく見える。左目で見ると小さなもの。だけど右目で見るととても大きなもの。それはそれで不便なのだ。ということで入院している。
 ため息をついている時調度個室の横に引くタイプの扉が空く音が聞こえた。

「おっす」

 入ってきたのは声からして出野(いずの)くんだった。
 出野くんはベットに横になっているわたしに声をかけた。

「元気してるか?」
「うん」
「体調おーけい?」
「うん」

 よし、といって出野くんはベットの下においてあった椅子を引く音が聞こえてそこに座ったのか、どしっという鈍い音が聞こえた。
 出野くんはこほん、と小さく1回せきをしてからまた話しを始める。

「外さ、真っ白だった」
「雪降ってるの?」
「うん。けど降って来たばかりなんだぜ。だからまだ積もってないんだ。つーわけで来るとき顔に当たって冷たかったんだぜ」

 ふむ。もう雪の降る季節になってしまったんだ。というか時間の流れが速く感じる。12月の始めに入院したけれど起きて診察して食べて寝ることしかしていないのに気づいたらもう12月の後半。なんだか色々とおかしい気がする。
 さすがに体もなまって来たし頭もおかしい気がするし目も大変だし。少しくらい運動をしたい気分だ。
 とそこで、わたしの左の頬を優しく何かがつっついた。

「出野くん? かな?」
「うん。あのさ——」

 がさごそと何かを探る音が聞こえきた。すると出野くんはわたしの左手を掴み、そこへ何か薄っぺらいものを乗せた。

「見て」
「見るの?」
「うん」

 わたしはため息をついて右手で薄っぺらいものを掴んだ。どうやら二つ折りにされている——紙だと思う。わたしはそれを開いたところで左目を開けた。
 とそこで出野くんがあわてて左目へ手をかざす。

「み、右目で見ろよ!」
「え……でもさ」
「ど、どうしても! じゃないといけない!」

 右目は大視症で見たものが全て2倍の大きさに見えてしまう。だけど出野くんがどうしてもというのでわたしは左目を閉じて今度は右目をあけた。
 ピンク色の紙かなにかに鉛筆で書いたのか黒い少しバランスのくずれている文字が大きく書いてあった。1つは漢字で1つは平仮名。

 好き

 わたしは右目を閉じて今度は左目でそれを見た。
 花柄のピンク色の紙にすごく小さい何かが書かれている。

「クリスマスプレゼント」

 ぼそっと出野くんは言ったが、わたしには丸聞こえしていた。
 それから急に出野くんはわたしを両手で抱きしめた。とても暖かい。黒い薄そうな上着はかさかさ音をたてる。
 出野くんはわたしの病気を上手く使ったのだ。病気。大視症。右目で見たものが普通の2倍大きく見える。
 ぎゅう、と出野くんは強い力でわたしを抱きしめ続ける。

「きついきつい」

 わたしはくすくす笑いながら出野くんがわたしにしたようにわたしも出野くんの体に両手をまわした。
 寒いホワイトクリスマスが、とても暖かいホワイトクリスマスになった。
 まるで、夏の季節のように。
 まるで、夢のように。

 そこでわたしは出野くんの頭に在る白いとがった何かを見つめた。出野くんはこれからパーティーへいくかのような格好をしていた。黒いスーツに黒いネクタイ。首には金の懐中時計がぶら下がっている。
 そこで出野くんは呟いた。

「不思議の国にもクリスマスが訪れるんだぜ、アリス——」

 出野くんに抱かれながらわたしは左目だけであたりを見回してみた。
 黒とショックングピンクのストライプの壁紙に玉虫色の光を出しているライト。扉は木でできていてとてもアンティークっぽい。
 ああ、そうか。そうだった。時間の早さについていけなくて忘れていた。
 わたしはこの御伽噺の主人公なんだった——

  わたしはベットに横になっていた。
 入院して5週間目。大視症(マクロピシア)という病気らしい。わたしの小視症の場合、右目だけが普段の2倍大きく見える。左目で見ると小さなもの。だけど右目で見るととても大きなもの。それはそれで不便なのだ。ということで入院している。
 ため息をついている時調度個室の横に引くタイプの扉が空く音が聞こえた。

「おっす」

 入ってきたのは声からして出野(いずの)くんだった。
 出野くんはベットに横になっているわたしに声をかけた。

「元気してるか?」
「うん」
「体調おーけい?」
「うん」

 よし、といって出野くんはベットの下においてあった椅子を引く音が聞こえてそこに座ったのか、どしっという鈍い音が聞こえた。
 出野くんはこほん、と小さく1回せきをしてからまた話しを始める。

「外さ、真っ白だった」
「雪降ってるの?」
「うん。けど降って来たばかりなんだぜ。だからまだ積もってないんだ。つーわけで来るとき顔に当たって冷たかったんだぜ」

 ふむ。もう雪の降る季節になってしまったんだ。というか時間の流れが速く感じる。12月の始めに入院したけれど起きて診察して食べて寝ることしかしていないのに気づいたらもう12月の後半。なんだか色々とおかしい気がする。
 さすがに体もなまって来たし頭もおかしい気がするし目も大変だし。少しくらい運動をしたい気分だ。
 とそこで、わたしの左の頬を優しく何かがつっついた。

「出野くん? かな?」
「うん。あのさ——」

 出野くんはわたしに急に抱きついてきた。

「ホワイトクリスマスプレゼントを渡しに来たぜ」

 出野くんはウサギの毛のようにほわほわしていてとても温かかった。