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Re: あかりのオユウギ2 -吸血鬼伝説- 1-5 ( No.34 )
日時: 2008/08/16 21:26
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

六話 [ 殺人準備 下-赤のワタシ- ]

  長く伸ばした赤い髪を、ゴムで結んで顔に掛からないようにして、『彼女』は用意しておいた気に入った血を持つ人間の血を吸っていた。
 ちゅーちゅー…。
 聞こえる残酷な音。口漏れる血。真剣な目つき。『彼女』は——血を吸い尽くすことに必死だった。すんごく——美味しい。そう思うと、血を吸う速さが倍になる。全自動血吸い機の様に。



 『彼女』は、血が空になった人間から手を離して、床に軽く落とす。どしゃ。と言う音。それを聞きながら、『彼女』は金で作られた玉座に座った。それからゴムで結んでいた髪を下ろし、隣に霧の様に現れた召使ともいえる、黒髪ショートカットが両手に押せていたおぼんから、赤ワインの入ったワイングラスを手にした。それからワイングラスに口をつけ、すぐに離す。血を飲んだ後の赤ワインは何だかしょうに合わないから。
 一服してからまた一服していた『彼女』に、召使の黒髪ショートカットは言う。

「王女様、お味はいかがでしょうか?」

 召使が聞く。すると『彼女』は下をべーっとだし、難しい顔をして言った。

「あ…血と赤ワインの組み合わせは最高的にダーメ。水ちょうだい」
「そうでごさいますか…」
「後さぁ、敬語? 謙譲語? それ、やめれくんないかなぁ?」
「え…そ——」
「どうしたの? チキサニ。ダーメよ、わたしに逆らっちゃぁ」

 ダーメ。と言うのが口癖らしい、その『彼女』は、召使に脅しをかける。召使の頬に流れている脂汗を見ると、『彼女』に逆らうとどうなるかを知っているようだった。そんな召使を見て、『彼女』はクスクス笑いながら言う。

「別に、大切な召使を火形にはしないわ。貴方はわたしの一番の召使。だから、そんな豪華な名前をあげたんでしょう?」

 チキサニ。それは、天から最初に地上に降りた女神、木の精霊チキサニ姫のことだ。
 召使のチキサニは、ええと呟く。それを聞いて『彼女』は、それならっ! と大きな声を出して言う。

「じゃ…じゃあ、ええと——王女様のことはなんて言えば——」
「お嬢。お嬢でいいわよ。チキサニ」



 謙譲語破棄契約をすました『彼女』は、とっくに〇時を過ぎている中ベランダにのしかかっていた。どうも——臭いがしてくるのだ。
 『彼女』と、召使等がすんでいのは、月の中。月と言っても、機械でできた月。本物の月は二次元空間かどっかに消しておいた。そしてその機械の月の名前を、『疑月(ぎつき)』と言い、その『疑月』の中に存在する、『彼女』が住んでいる所。所というか城。その城の名前を、『疑中城(ぎちゅうじょう)アイヌラックル』と言う。
 疑中城から外を見ると、何も無い様に見える。だが疑中城は『疑月』の中。その『疑月』の中にいると感じられないのは、『彼女』の父の力。『疑月』が本物の月ではないと分かるのは、『彼女』の母の力のおかげなのだ。
 そして、その『彼女』が感じ取っている臭いとは——殺人の臭い。しかも、家族を家族が殺すという殺人の臭いだ。良い予感がする、そう思い、『彼女』は疑中城から地球を見ていた。



 『疑中城アイヌラックル』から外。地球を見終わると、『彼女』は疑中城から飛んだ。
 長い赤い髪がだんだんと変形し、コウモリの翼となる。横は四十センチくらいだ(片方)。その頭のコウモリの翼をぱたぱた動かしながら、『彼女』は静かに言った。

「体霧(たいむ)」

 すると『彼女』の体は霧となり、消えた。

『門蔵(かどくら)町——。ここから殺人の臭いがするわ』

 そう霧となっていた『彼女』は言い、だんだんと霧から体を現した。それから地面へと降り、頭のコウモリの翼を普通の赤い髪に戻した。
 そして、ある家の前でにこっと微笑む。茶色の屋根の家だ。レンガの一メートルくらいの塀には、『祭風』と書いてある。そしてまた思う。ここから殺人の臭いがする。ぷんぷんと——とっても臭う。
 それを感じてから、『彼女』は静かに言った。

「疑中城アイヌラックル二代目王女。と言うか二代目姫。と言うか二代目お嬢、霊月(れいげつ)ファイヤフライは——明日、ここへ舞い降りようぞ」



 何かが聞こえたような気がした。だが、窓に向けた目をまた本へ向けるあかり。そして最後の行まで読み終わり——人思いにぱたんと本を閉じる。
 それから本を置き、ねっころがっていたベッドから体を起こす。それからクスクス笑った。

「明日明日明日。明日お父さんは死ぬ。明日お父さんを殺す。あははあはは。あっははぁ! 蜘蛛は蝶の罠にあっけなくはまるの。可哀想、可哀想…あっははは」

 蝶は、蜘蛛を殺害できることについて笑った。
 笑ってしまった。
 狂ったように。