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Re: あかりのオユウギ2 -吸血鬼伝説- 1-6 ( No.41 )
日時: 2008/08/18 19:51
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

七話 [ 殺人鬼と吸血鬼-出会いは一生モノ- ]

 あっけなく今日は来て、あっけなく青酸カリ入りの朝食も作った。そしてあっけなく家を出て、猛スピードで自転車のペダルをかき上げて、門蔵第一中学校についてしまった。
 後戻りは——できない。そろそろ、お父さんは死んでいる頃だったから。
 殺ってしまった。殺ってしまった。中学一年生の、祭風あかりは人を殺してしまった。
 全身から零れる恐怖。警察に捕まったりしないだろうか。死刑…とか、そういうのは大丈夫なのだろうかっ。
 考えれば考えるほど怖くなる。人を殺してしまった自分が怖くなる。怖い。どうしてこんなに怖い? 人を殺すという罪を背負う覚悟は前々からできていたのに。

「なに…? この、ヘンな感じ…」

 とりあえず、『落ち着け』と自分で自分に命じてみた。——さっきよりは落ち着いただろうか。
 悔やんでいるのだろうか。いや、そんなことは——ない、はず…。
 不思議と湧き上がってくる恐怖に不安を覚えながらも、学校の駐車場に自転車を止めていると、

「あっかりー!」

 声がした。
 自分の、友達第一号の秋傘聖の声が。



「な、なんで秋傘がここに——」
「や、ベランダから外見てたらさぁ、あかりが猛スピードで自転車こいでたからさぁー」
「…でもなんで学校に来てるって分かったの?」
「征服」

 教室の黒板に、カッカッとチョークで落書きをしながら話す。まだ登校時間は一時間前だというのに、扉が開いててなぜか良かったと思っている。
 秋傘は知らない。自分が、人殺しと言うことを。酷い手で、人を殺したことを秋傘は知らない。知ってほしくない。大切な——友達だから。
 色色と考えてる所で、秋傘が書いているものを見ようと隣を見た時、自分は未知との遭遇をした。

「あ…」
「どうだ! 上手いだろ! 俺のマイキャラキターの——ロボウサラビット一号だ!」

 信じられないほど…キモい。りんかくがまとまっていない。そしてウサギと言うのも分からない。なんだこれ、なんだこれ…。

「あのさー秋傘? ロボウサラビットの、ウサはウサギでしょ? なら、それはロボウサウサギって言ってるのと同じよ?」
「うっるせーな。設定が細けぇんだよお前は! だいたいそんなこというお前の絵は——」

 秋傘が、あかりが書いたウサギを見て、絶句し、それから言う。

「自分が下手でした。ごめんなさい」

 しょぼーんと俯く秋傘を見て、あかりはクスクスと笑った。

「あはは…あははっ!」

 それは、昨日とは違う、とても素敵な蝶の笑み。



 その夜、あかりは窓をじっと見ていた。

 赤い空に、赤い月。

 全てが——赤い。そんな赤い夜の中、あかりは魂が抜けた様にそれを見ていた。
 お父さんの亡骸を病院へ、朝自分がやっていたことを警察へ、そしてもう警察には帰ってもらった。涙は出てこなかった。唯一でてきた言葉。それは、『さみしくなります』、だった。お母さんが死んだ時は大泣きしたのに——お父さんとお母さんでは随分と違うものだな。そう思って、机の三段目の引き出しの中からデジタルカメラを取り出し、ベッドの頭を置く側にある窓に手をかけて、次に足をかけて、何を思ったか一思いにそこから飛んだ。
 下に落ちたときの音なんて知らない。気がつかなかった。
 とりあえず、デジタルカメラで赤い空を取ってみた。
 カシャ。
 結構移り具合の言いデジタルカメラだ。最新のカメラはもっとすごいらしいが——別に今ので十分だと思っている。そんな時だった。

 ずごごっごご・・・ぷしゅー。

 世にも奇妙な音を聞き、自分は同様した。
 いかにも人間が出せる声ではない。それにこんなリアリティのある音が出せるのは、本当に機械か、それ様に作られた機械か——どっちみち機械しか出せないのだ。
 少しだけ肩を震わせながらも、あかりは周りを見た。まずは後ろ、右、左。そして最後に、嫌な予感をただよわせながらも、前を見た。
 そこには、

「こんばんわ」

 三日月形の何かに腰を下ろしている赤い髪の——声からすると女性だ。
 いつの間に人類はこんな素晴らしき何かを作った? もうテレビとかで発表しているのか? 自分は遅れているのか? 色色と考えながら、それらの威圧におされ、気がついた頃には尻餅をついていた。

 それからその三日月形の何かがぺちゃくちゃと喋り、次に赤髪の女性が気軽に挨拶をする。初対面…だよな?
 それからクスクスと笑いを漏らしながら、赤髪の女性は言う。

「貴方——家族を殺したでしょう」
「ぁ…」

 まったくの図星だった。なぜ、初対面の女性が、それを知っている。初対面…だよな?

「ダーメじゃない第一地球人。でもいいわ。おかげでわたしがここに降りれたのだから」

 意味が分からない。もしかしてこの女性はくるっているのか? まさか、夢でも見たのか? その夢が正夢となって——ああもう!
 動かない体の中で、あかりの魂は働いていた。

「わたしの名前はファイヤフライ。霊月ファイヤフライよ。んで? あなたの名前は?」

 赤髪の女性に問われる。別になにも言う気じゃなかったのに、勝手に口が開いて、舌が動く。

「祭風、あかりっ…」
「そう。あかりね。わたしのことは——お嬢でいい。ダーメよっそんなに震えてちゃぁ…わたしの期限をそこねたら…」

 体がまた震え上がる。

「直火焼きだぞ?」

 言葉と顔があっていないぞ。霊月…ふぁいやふらいさんよ。
 それから、ふぁいやふらいと言う不思議な名前をもった人(?)は、三日月形の喋る何かから降りて、自分の目の前に手を出した。『つかまれ』といっているのだろうか?
 とりあえずあかりはその手に自分の手を重ねる。すると、ふぁいやふらいが引っ張ったのか、数秒も掛からずに自分は起き上がっていた。なんと言う——怪力だろう。
 色色なことに脅えているあかりを見たふぁいやふらいは、また言った。

「よし。わたしと手を繋いだあかりは、もうわたしのお友達! ということで、立たせてあげた仮の返しとして、止めてくんないかなぁ? さすがに野宿とかってダメなのよね。普通に食べ物はあるけど」

 そう言って、家の中へづかづかと入ってくるふぁいやふらいと言う変人。なんだこれなんだこれ。
 そしてまだ混乱しているあかりに、ふぁいやふらいが扉の向こうで言った。

「出会いは、一生ものなのよ? だからよろしく」


一章、完。