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- Re: あかりのオユウギ2 -吸血鬼伝説- 1-完 ( No.48 )
- 日時: 2008/08/19 12:59
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
二章 [ 人狩りデッドゴッド ]
序章 「閻魔様にご挨拶」
霊月ファイヤフライと言う奇妙な名前を持った人(?)と出逢ってから数週間がたち、そのファイヤフライのこともちゃんと『お嬢』と呼ぶようになったし——そしてそのお嬢の正体も分かってきていた所だった。
お嬢は自分の部屋で一緒に寝る。そんな時、お嬢は机の上に置いてあった本。『吸血鬼伝説』を見て、こう言ったのだ。
『わたしはB型の人の血が好きよ?』
明らかに、お嬢が自分の正体をバラしているにしか聞こえなかったその一言。でもまぁ、三日月形の何か…じゃなくて、ちゃんと名前があり、『フルムーンキッド一号』というらしいが、それに乗って月から降りてきた時からただの生き物ではないと確信していた。
だが、お嬢が吸血鬼だなんて——世界は、自分が思っている以上に大きいと思った。
「あーかーり! お風呂入ろーよお風呂! わたしアレ大好きなんだ!」
無邪気に、二階にいたあかりに向かって声をかけるお嬢。その声を聞いて、二階からあかりは言う。
「分かった!」
それから、風景画を書いていた自由帳を閉じて、書いていたシャーペンを置いて、机の電気を消して自室から出、一階へと続く階段を降りて、風呂場へ向かった。
そこには、全ての衣服を脱ぎ去ったお嬢がたっていた。
「お…お嬢? 先に入っていればいいものを——」
「あかりと一緒に並んでお風呂へ入るのがわたしの日課見たいなもの! 一日たりとも見逃せないわ!」
「今すぐその日課を取り消して」
ひくひくと口元を動かしながら、来ていたTシャツを脱いで、いつもの通りお嬢と風呂へ入った。
するとお嬢は一目散にお風呂のふたを開け、中の湯にどぼーんとつかる。
「あっ! コラ、お嬢! ちゃんと体を流しなさい」
「…返事がない。ただの屍の様だー」
返事ちゃんとしてるじゃんか。
とりあえず、洗面器に風呂の湯をまんぱんに入れたあかりは、それをかけ、体を洗う用具を出してそれに石鹸を擦りつけた。
それから泡が十分にたつまでごしごしごしごしとそれと石鹸を擦る。結構泡が立った為、石鹸を専用のケースに入れて、泡泡の体を洗う用具でごしごしと体を優しく擦っていたあかりに、お嬢が静かに言う。
「あのねーあかり。明日…下へ行こうと思ってるんだ」
「——下? ブラジル?」
「違う違う。…地獄よ」
信じられない言葉に、あかりは思わず洗面器にためてあった湯を頭からかぶる。なんだそれ。なんだそれ。
「閻魔様にご挨拶しなくちゃいけないの」
信じられない言葉に、あかりは思わず洗面器を頭に装着。閻魔様? あの嘘つきの人の舌を抜くっていうあの閻魔様!?
冗談と、信じたいあかりだった。だが、それは冗談ではなかったのだ。
◆
「ふっははははは! 良くぞ来た! 吸血鬼姫よ! ふはははっひゃっ!? 舌噛んだ! イタイイタイ!」
想像以上にでかい閻魔大王。予想以上にバカらしい閻魔大王様。
それに、あかりは口元をひくひくさせていた。
「で? わたしを呼んだ理由ってなに?」
いつもと性格の違うお嬢。だがそれに閻魔大王は納得しているというか——お嬢の性格は今の状態のものだと思っているのだろうか。何もいわずに言って見せた。
「人狩りをしてほしいのだ。最近世の中は犯罪であふれかえっておる。だから、吸血鬼姫と、その他もろもろにその犯罪をした人間の魂を狩ってほしいのだ。やり方は簡単。人狩り専用の鎌で腹をプスッとさせば良い。それだけだ」
「ふぅん…。よし、引き受けたっ! やるぞあかり!」
「え? あ、なに? 人狩り? ガリガリーポッキーガリガリー」
あかりは何だか意識が大変なようだ。それを知ったお嬢は、もうっ と拗ねた様に言う。
それを見ていた閻魔大王は、ふはははと高笑いして、
「では、こちらの方でもう一人ほど人狩りに参加してくれる奴を探しておこう。では、数日後にまた烏を飛ばすのでな」
烏がお嬢の元へ来て『地獄へ来てくれ』といわれたのだろう。
それからお嬢はクスクス笑って、言う。
「人狩りねぇ…結構興味があるわ。わたしもやっていいか?」
「ああ。では——こちらでは一人集めて来るのでな」
「じゃあ、三人で人狩りをすればいいのだな?」
「ああ、三人の死神が生まれるのだ」
数日後、三人の死神が、一夜にたくさんの人を殺す。
「死神ごっこね? うふふ、楽しい楽しい」
そう言ったお嬢は、あかりを一思いにお姫様抱っこそして、閻魔に一言だけ言って消えた。
「じゃあね…五代目の閻魔大王様——」
お嬢が消えた後——すぐに罪人の悲鳴が聞こえた。千針山地獄に、釜茹で地獄に地の池地獄。地獄に住む閻魔大王に、休みはなかった。
そして、いつの間にか目の前には首の鎖でつながれた罪人。それに向かって閻魔大王は言う。
「お前は、人を殺したと。それも一人ではすまず何十人も殺したと? 現代の切り裂きジャックと言うあだ名がついた人間よ」
「殺していないさ。本当の本当だ!」
死にたくない。地獄から抜け出したい罪人の中で、最もな奴はいつもこう言う。それにあきれていた閻魔だったが、座っている玉座の様な椅子の後ろからその大きな体にあわせて作られた専用の舌抜き機を取り出して、その罪人の隣にいた青鬼に命じた。
「口を開けさせろ」
青鬼は頷き、その怪力で罪人の口を無理やりあける。するとその口の中にある舌に向かって、閻魔大王の舌抜き機はどんどん近づいていき——舌を掴んだ。
罪人はやめてくれやめてくれと言っているが、閻魔大王はそれを無視してひっぱる。ひっぱるひっぱるひっぱる——ブチィッ。
残酷な音が、地獄に響いた。