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Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-参 ( No.60 )
日時: 2008/08/25 18:20
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

四話 [ 戦闘ミゼラブル-お邪魔虫- 上 ]

『人差し指指、内緒モードひそひそっ』

 録画していた大好きなアニメを最後のエンディングまで見て、わたそはため息をついた。時刻は十一時四十分くらい——四十一分になった。
 もう少しで人狩りの時間が始まる。そう思い、お嬢と呼ばれているわたしは自分の部屋へ向かった。

 部屋の扉を開けて、電気をつける。そして、棚と冷蔵庫と座布団しかない自分の部屋をとりあえず見回して、棚の前まで来てそれの扉を開けた。それから、ハンガーに掛かって、上から吊るしてあった人狩りをする時の服を手にとり、それを見た。白い、ワンピースだ。だが、人狩りをした時の返り血で汚れているため、なぜだか見ると生生しい。それから、黒色のネクタイを触る。確か、あかりは大きいリボンで、月子はスカーフ見たいなものだった様な…?
 思いながら、わたしはとりあえずそれを着て見ることにした。黒のワンピースに黒のレディース。黒の手袋を次々と脱いで行き、シロイワンピースを下から着た。胸までそれをあげたら、肩を書ける所に手を通して、お終いだ。鎌は、閻魔大王が呼ばす八咫烏が持ってきてくれる。
 とりあえず、八咫烏に名前をつけようとたった今思いつき、考えてみることにした。格好良い名前がいいだろうか…? 可愛い名前がいいだろうか…? それよりわたしの八咫烏はオスかメスどっちだろうか?
考えていたら、玄関らへんからあかりの声が聞こえたので、とりあえずぱたぱたと足を慣らしながらそっちへ行ってみることにした。

「あっ、お嬢! そろそろ八咫烏がくるから——」

 あかりがそう言い、わたしに向かって手招きする。
 わたしはにこっと笑い、玄関へ向かった。すると急に…胸騒ぎがしてきた。これは、なんなのだろうか? 



「や……」

 八咫烏の持っていた、今日狩る人の名前を見て、わたしは絶句した。『桂月(けいづき) アイアンレイン』。わたしの——霊月と昔から敵対してきて、もう一つの吸血鬼の一族の、姫。昔、ずっと昔に会ったことがある。
 青い、長い髪に、青い瞳。ほしいものはなんでもそろえて、嫌いな奴は即殺す。そんな、残虐的な性格を持った吸血鬼だった。
 桂月は、吸血鬼社会の中で最も血まみれの姫と聞いたことがある。だからそれなりに人を——

「お嬢? お嬢ー!」
「えあっ!?」

 あ、もしかしてわたし、ずっと黙り込んでた!?

「あ、ごめんね。じゃあ、行こうか!」

 あかりはこちらを心配そうに見つめ、月子は大丈夫ですか? といってくれている。わたしはにこっと笑って見せて、八咫烏の頭をなでた。すると、八咫烏は翼を広げ、わたしを乗せ、飛んでいった。すごい速さだった。ふと後ろを見ると、後ろにはわたしとは反対方向へと飛んでいくあかりと月子がいた。
 ふぅ、とため息をついて、わたしは前を見た。それから、八咫烏の背に巻きつけてあった赤色の飾りがついた鎌を取り、それを舐めた。



 なんということだろう。家を出て行くときの胸騒ぎはコレだったのか——今日は厄日だ。

 八咫烏が空中を飛んでいる中、わたしは勝手に八咫烏の背中から飛び降りた。今日は、風がない。だが下に落ちるときには必ず、酸素を切る様にしたにいく。ワンピースはもちろんふわっと、昔の少女漫画みたいにめくりあがっていた。だけど隠す気力なんかわかなくって、そのまま落ちていく。
 ずしぃん。
 衝撃が足から腰へと、どんどん下から上へ走り、最終的にはなくなる。それからため息をついて、後から鎌が上から落ちてきた。さすがに鎌と一緒に落ちると、そっちの方に体重が偏って脱臼をしてしまうかもしれないから、落ちている途中で離したのだ。
 鎌の柄を持ち、わたしは歩いた。『森の、焼け跡』を。まだそこらへんでは火が燃え続けている。きっとこれは——、

「桂月、鉄の雨(アイアンレイン)……」

 そう呟くわたしの目の前には、その桂月がたっていた。
 赤く汚れた青色のフリフリのドレス。右手には青色の剣。青で統一された、残虐姫。桂月アイアンレインは、にこっと笑って、わたしに言って見せた。

「おはよう、霊月」
「おはよう…? いつ失明したんだ?」
「失明? 相変わらずバカなのね、霊月って」

 うふふ、と笑って桂月は続ける。

「吸血鬼にとって夜は朝も同然。だって、吸血鬼は夜に動くものでしょ?」
「だからってお前は森を焼くのか」

 そうだ。この森の焼け跡を見たときから分かっていた。これは、桂月の仕業だと言うことが。
 すると桂月は、またうふふと笑って言う。

「そうよ、そう。それにね、邪魔だったの。だから——」
「燃やした」
「で? 貴方はどうしたの? 霊月ぃ」

 わたしをバカにしている様な喋り方。昔も、そうだった。わたしを散々バカにして、消えた。
 わたしはまたため息をついて、言う。

「見て分かんない?」
「……何? 職業死神にしたの?」
「今は死神と吸血鬼。両方の職業をやってるよ——お前みたいにな」
「わたしの職業は一つ(吸血鬼)だけよ? 何言ってるの?」
「いいや、お前は二つの職業を持っている。一つ目は吸血鬼。二つ目は——人殺しだ」
「あっははははははははははははははははあああぁ! 貴方そんな考え方もするんだぁ…そうね。そう言えばそうね」
「だから殺しに来た」

 わたしは、全速力で桂月へと走った。すると、攻撃しにくると分かった桂月は、青の剣を構える——。
 ガキィンッ。
 鎌と剣の押し合い。どちらが勝っているかは…不明だ。すると桂月はそれをやめ、剣を引く。それから、倒れそうになったわたしの心臓めがけて剣を向けてくる。わたしは急いで体をたくさんのコウモリにさせ分裂させ、数メートル離れたところでコウモリから姿を変え、もとの私になる。やはり服はなかった。コウモリになると、やはり体の大きさも変わるため服は脱げる。だが、恥ずかしいとは思わなかった。とりあえず、このままでも動きやすくて良かったのだが、なぜかわたしは自分の赤い髪の毛を一本抜き、鎌を地面に刺しておいてからその髪を、腰辺りに結ぶ。すると、その髪の毛は見る見るうちに赤いワンピースへと変わる。いわゆる、『変化』と言う奴だ。
 それを見ていた桂月は、今度はこちらから、とでも言うようにわたしに向かって走ってくる。わたしは急いで鎌を取り、柄をぎゅっと握り締める。
 ガキィッ。
 相変わらずな押し合い。今度は、わたしがそれを振り払い、倒れそうな桂月の腹めがけて鎌を大きく振り下ろす。桂月はそれを右へ転がり避け、持っていた青の剣をわたしの腹へ刺した。

「ごふっ」

 口から血が出る。だが、まだ行ける…たとえ桂月の方が力が上だとしても、だ。
 そしてわたしは、自分から腹に刺さっている桂月の剣を抜き、大声を出していった。

「わたしは…わたしはこの暗いでは死なないぞ桂月ぃっ!」

 そして、また、瞬間移動か何かで数メートルの所まで行った桂月のところへ走り出した。
 ——戦いは、まだ始まったばかりだから。