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- Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-四 ( No.61 )
- 日時: 2008/08/25 20:11
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
四話 [ 戦闘ミゼラブル-しねと死ね- 下 ]
「うわああああああああああああああ!」
叫び、鎌を横にして桂月の横腹を切ろうとする。だがやはり止められる。だが、わたしはどんどんその鎌に力を入れる。すると桂月の青の剣はピシピシといい始め——折れる! 最高のチャンスを、わたしは無駄になんかしない。わたしは、桂月の腹に鎌を六センチほど入れてから、前にそれを引いた。
「ごふぅっ」
桂月の口から血が出る。桂月の腹から血が出る。青のドレスは、また赤に汚れる。だが、桂月は腹を押さえながら、折れた剣の柄の方を取り、前に出す。それに気づき、わたしは急いで後ろへ下がる。
桂月は腹を押さえながら、わたしを睨んだ。わたしは桂月に向かって吐き捨てる。
「これで両方傷をおったな」
「このっ…莫迦(ばか)野郎がぁ!」
前までとは違う、とてもめりはりのある声。すると桂月は体をコウモリに変える。するとやはりわたしと同じように青のドレスからたくさんのコウモリが出てくる。すると桂月は、ドレスのすぐ横で姿を元のものへと変える。きっとその厚いドレスじゃ動きにくいんだろう。そしてふと、桂月の足元を見ると、そこには十匹ほどのコウモリが倒れて、いや、死んでいた。きっとあのコウモリは、あの傷の所だろう。きっと切り離したのだ。そう思い、また桂月を見ると、彼女の身長はさきほどよりも小さくなっていた。
「どうした桂月。背ぇ、縮んでるぞ」
「鎌に毒ぬってあるでしょ。だってあのままじゃ毒が体に回って死んじゃうんだもの」
「良く気づいたなぁ…おめでとう」
「ええ、ありがとう。でも、これじゃまともに戦えないわ」
計月は、下に落ちている真っ二つの青の剣を見て言う。
わたしはそれに、笑いながら言う。
「体術でやったらどうだ? 蹴りくらいは——弱っちい蹴りくらいなら決められるだろ?」
「大丈夫よ。これだけでも戦えるからぁっ!」
真っ裸の桂月は、柄がついた方の剣を取り、それを舐めた。
それから——消える。どこへ、どこへいったんだ。卑怯、卑怯。
「桂月!」
わたしが周りを見ながら叫ぶと、声が聞こえた。声が聞こえた時では、遅かった。すでに、桂月の折れた青の剣は、わたしのみぞおちに後ろから刺さっていた。
「ごふぅっ…あ…あ、あぁ」
力が抜ける。口から血が出るだが——わたしは持っていた鎌の刃を横に向け、それを後ろへと力の限り動かした。
「ああああああああああ!」
桂月の、唸り声。それを聞いたとたん、ほっとしたのか、わたしは倒れこんだ。わたしの頭の下には——桂月が倒れこんでいる居る。どこを切ったのかわからなかったが、桂月ももう動けないらしい。
わたしは桂月が刺した青の剣を前かから、ひこっぬく。
「う…ああああああっ」
枝の部分が大きくて、わたしの体を倍に圧迫する。だが抜かなければ、そう思い、わたしはそれを引っこ抜いた。
「ああっ」
血が出る。出血多量で死ぬ…そう思い、わたしはまた髪の毛を引っこ抜いて、それを布に変えた。それから、それを右手で持って、向こう側の左手へまわし、それを二回ほど繰り返してから前できつく縛る。痛いが、これくらいはやっておかないともう死んでしまう。十分に生きたが、まだ死ぬわけにはいかないのだ。
でるだけの声を喉から絞り出して、わたしは倒れている桂月の腹にかけておいた頭を少しだけあげ、桂月に言った。
「桂月ー生きてるか?」
「あ…こ、今回は…わた…の、ま……け、ね」
「そうか」
「え…え……」
「お前、もう死ぬんだな。声が、ヤバいぞ」
「しお…どき、ね。れい…づき、つ…よ、く……なっ」
桂月の言葉は、そこで途絶えた。それと同じように、わたしの意識も、そこで途絶えた。
◆
まだわたしが生まれて幼かった頃、わたしと桂月は親友だった。桂月はわたしのことを『ふーちゃん』と読んで、わたしが桂月のことを『けーちゃん』と読んでいた。
とても仲良しで、お気に入りのおもちゃを交換して、一緒に笑っていた。だが、ある日、桂月はわたしに言ってきた。
『しね』
と。それから、どんどんわたしを侮辱していって——最後には、高笑いして、消えていった。わたしにとって、それは十分過ぎるトラウマで、それいらい、わたしは桂月とあうと、幼い子供とあうと、恐怖に心を染めて、逃げ出してしまうのだ。歳をとっても、それはずっと続いていった。
あの時の桂月の言葉には、もう本当に死にたくなって、桂月を殺したくなったけど、桂月が死んだ今、桂月の存在がわたしの頭の中でどれだけ大きかったか——だから、桂月の死にわたしは、少しでも悲しんでいるのかもしれない。
◆
胸の痛みで目が覚めた時、そこにはあかりと月子がいた。心配そうにこちらを眺めて、言う。
「大丈夫? お嬢」
『YES』とはいえなかったけど、『NO』ともいえなかったから、わたしは静かに呟いた。
「微妙」
それを聞いて、少しだけ顔をやわらかくするあかりと月子。それから、またズキンと痛んだ胸に手を当てて、わたしは言った。
「けーちゃんが、地獄で笑ってるのかもね」
彼女の笑みは、最大の凶器。昔、笑いながら、『しね』といわれたから。やっぱり、やっぱり——、
「トラウマは、消えないんだね」