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Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-四-下 ( No.64 )
日時: 2008/08/28 09:39
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

五話 [ 災いが降ってくる-桂月 アインレイン- ]

 あかりと月子が家に帰ったとき、八咫烏が急に背中に乗れというので、背中に乗って、飛んで、連れて来て貰った所に、血まみれで眠っているお嬢と、上半身と下半身がバラバラになった女の人がそこに倒れていた。お嬢はその女の人の胸に頭を置いていて——ちょっとヘンな感じな姉妹に見えた。



 お嬢の傷は深かった。心臓をぎりぎりで避けた所に一つの刺し傷。そして胃腸のあたりに一つ刺し傷。生きていることが奇跡。そして、回復も順調に進んでいた。
 もちろん病院にいる。お嬢を病院に連れて行った時、それを最初に見た看護婦は顔を真っ青にしていた。それはそうだろう。返り血なのか自分の血なのか分からないほどにお嬢の体は血でべとべとだったから。だがとりあえず、ちゃんと手術してくれた。
 つい昨日までは弱弱しかったお嬢も、まだ一日しか立っていないのに歩けるようになっていた。恐るべし吸血鬼。

「お嬢……で、あの女の人は誰なんですか?」

 月子は、仰向けになりベッドでおとなしくしているお嬢にそう言った。
 お嬢は月子が向いた林檎をしゃりっと元気良く食べながら言う。

「あー昔から敵対してるもう一つの吸血鬼の一族。昔は仲良しだったんだけどねぇ……」
「今でもって言うと変ですけど——昨日も一緒に笑ってたじゃないですか」
「狂気の笑みよ」
「違います。お嬢とその敵対してる人。わたしたちが駆けつけた時、妙に口の先っぽを吊り上げてましたけど」
「見間違いっ」

 お嬢はそう言って林檎を食べ終わると、またベッドにとりつけられている机に乗っている白い紙皿から林檎をひょいと掴み、しゃりしゃりと美味しそうに食べる。

「でもお嬢? 昔は仲良しだったのでしょう? なら今でも仲良しですよ。仲良しと言うのは、永遠のものなのです」
「じゃあ月子は姉様と自分は仲良しだと思ってるの?」
「ええ、見た感じはとっくの昔に仲良しなど終わっている様に見えるようですけど、わたしと姉様は裏では仲良しなのですよ。ほら——なんていいましたっけ? 喧嘩するほどバカみたい?」
「『喧嘩するほど阿呆らしい』だ。ちゃんとことわざとか勉強しなきゃ?」

 お嬢は月子に間違ったことを教えるが、月子はそれに気づかず、わかりましたと納得している。だが、なぜ月子が日本語をぺらぺらと喋っているかは、いまだに分からない。閻魔大王様が何か月子の脳をいじくったのかもしれないが。
 それからお嬢は、林檎をまた一つ食べてから月子に問いをかけた。

「——ごめんなさい。心配、かけちゃって」
「いいえ、別にいいのですよ。生きていてくれて嬉しいし、確かあかりさんが、『にゅういんひ』と言うものは閻魔様が払ってくれるそうで——目をキラキラ光らせてましたよ」
「にゅういっ……」

 お嬢は、入院費って、と言おうとしたがとりあえずやめておいた。
 それから、月子にもう帰っていいと言う。月子は短く返事をし、あっさりと病室を出た。
 月子がこの個室から遠ざかっていくのを足音で確認し、お嬢は無理やりにベッドから立ち上がった。それと同時に点滴が掛かっている銀色の棒がガシャンと倒れ、お嬢の腕に刺さっている点滴の針が外れ、落ちる。少々痛みはしたが、別に気にしなかった。お嬢は、曇って来ている空を窓から眺め、目を大きく開けて微笑した。

「雨が降る——人類が滅亡するほどの、恐ろしい雨粒が、降る」

 お嬢——霊月ファイヤフライは、狂ったように笑った。
 それはそうだ。桂月は生きているのだ。雨になって……。桂月の名は桂月アイアンレイン。アイアンレイン——鉄の雨。
 桂月——いや、吸血鬼を殺した後には必ず災いがくる。だから、桂月を殺した後には『鉄の雨』が降る。その殺した相手に向かって………。いわゆる、お嬢に向かって災いが起こるのだ。
 お嬢はそれを知っていた。もちろん、閻魔大王も知っていただろう。なのになんで閻魔大王は——そう考えると、考えなければいけないのでお嬢は考えなかった。とりあえず、閻魔大王は自分の力を知りたいらしい。なら、見せてやろうじゃないか!

「今晩は——ファイヤフライが空を飛ぶ。真っ赤な光が、わたしの力が空を飛ぶ」