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- Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-六 ( No.72 )
- 日時: 2008/08/30 17:21
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
七話 [ ナイトレッドナイト-夜の赤騎士- ]
赤の騎士は、霊月に向かって落ちてくる鉄を、片っ端から持っていた剣で切る。するとその鉄は溶けて、霊月の目の前に行く。また、赤騎士が鉄を切って、溶けて、霊月の目の前に集まる。溶けたものは、皆霊月のところへ集まっていく。まるで、霊月に会えて嬉しいと思っている様に。
霊月は笑っていた。『ちゃんとした(溶けていない)』鉄は、霊月の下には落ちてこないから。皆、赤騎士が空中で片付けるから。
「どうした桂月、最終兵器はこれで終わりか? ——ヘボイ。ヘボすぎる。何もかもが、だ」
桂月の最終兵器(鉄の雨)を侮辱する霊月。その霊月の目の前の溶けた鉄が、ぶよぶよと動き出した。なぜだろうか、この溶けた鉄は霊月が支配しているのに——霊月が思っていたとき、溶けた鉄の一部が針のようなものに変わり、固まって、霊月に向かって発射された。赤騎士は追いつかない、いや、気づかない。そしてその鉄の針は——綺麗に霊月の目に刺さった。目から血がでる。赤騎士がやっと反応する。霊月は針が刺さっている目の周辺を手で触ってみた。どろっとしている、赤黒い血。目から血が出てる。だが霊月は『痛い』とも言わなかった。ただ手についた赤黒い血を、自分の唇につける。それから、自分の目に刺さっている針を抜いた。
霊月はやられた方の目、左目を閉じていた。それはそうだろう。だが、何も言わなかった。怒りもしなかったし、さっきまで笑っていたのに、今はただたんに無表情で、霊月の傷に気づきこちらを向いて戦う赤騎士を見つめていた。
それから、霊月は唇についている自分の血を下でぺろりと舐めてから、空に向かっていった。
「バカね桂月。足掻いたって無駄なのに」
それは、桂月への、哀れみ。
「貴方は死んだ。わたしは勝った。もう、認めなさいよ——貴方は、もう死んでる。貴方は何も分かっちゃいない。貴方がもう死んでいることも——貴方はわたしより下だってこともさ!」
刹那。
赤騎士の持っていた剣が、赤く光る。赤騎士はその剣を、抜き、振ってくる鉄にそれの先を向けた。刹那——時が止まる。赤騎士も、振ってくる鉄も、空も、もちろんあかりも月子も止まった。だが、霊月は止まっていなかった。
そして、何かを言う。呪文の様な、何か。
「A red scar of the night of today(今日の夜の赤い傷跡)」
英語の、何か——いや、呪文。
「赤い夜には赤い血を——」
血まみれの目をまた触って、手についた血をしゃがんで地面につけて、血が付いた部分の地面に、左手を置いて——、
「わたしに逆らうものには——」
するとその地面から、剣の柄が出てきて、手を丸めて一つ文くらいに柄が出てきたその時、霊月はその柄を握って、それをひっぱりだした。
「極限の、死を」
刹那。
時は動き出し、霊月は落ちてくる鉄をひっぱりだした赤い剣で切りながら赤騎士の前を走る。空中を、走る。
赤騎士は霊月の後ろから、どんどんと鉄を切りながら進んでいく。
霊月は止まらない。進んで、進んで進んで進んで進んで——目の前に、桂月がいた。死んだはすの、桂月が。だが桂月は動きもしず、ただ下へと上した両手から大量の鉄を撃っていた。
そう、ここは、天国。天国と言ってもただの雲の中。桂月は死んだから、そこにいるのだ。もちろん魂だけが。
霊月は、ずっと下めがけて鉄を撃っている桂月の脳天にその赤い剣を刺して、全速力で落ちていった。
落ちてきた霊月を、赤騎士がお姫様抱っこで助け、そのまま下にいく。
気づくと、鉄の雨はやんでいて、気づくともう地面についていて、気づくと、赤騎士は消えていた。
◆
夢みたいだった。空から鉄の雨が降ってきて、空中から赤い騎士が現れて、霊月が飛んで、そして何事もなく地上へ戻ってきた。
吸血鬼はなんでもありな存在だと、このときあかりは思った。
◆
「あっはは! ということで、わたしが死んだらあの赤騎士が世界を襲うからよろしく」
軽くそう言って、お嬢は眼帯をいじる。
お嬢が暴走モードから普通に戻ってから約二時間。とりあえず病院へ行って、驚かれて、手術が始まる前の十分間の間に病院から逃げ出してきた。普通に眼帯ももらえたし、お嬢の回復力なら三日程度で直るだろうと思われる目の傷だった。お嬢はやはり『お嬢』に戻っていて、桂月(鉄の雨)と戦っているときのお嬢ではなかった。真剣になっているんだ。ということは、今の『お嬢』は真剣ではないのか?
あかりは考え、お嬢に問う。
「あのさ、真剣になっている……ってなに?」
「あやっはは!」
変な笑い方をし、お嬢は問いに答える。
「わたしは二つの人格を持つ。一つは今の私、二つは戦っているときのわたし。戦っているときのわたしのことは霊月って呼んでね。今のわたしのことは今までの様にお嬢って呼んでね」
「じゃあお嬢、あの鉄の雨はなんですか?」
次は月子が聞く。
お嬢はそれにあっさり答えた。
「桂月ファイヤフライの最後の攻撃。吸血鬼が死んだ後、必ずその吸血鬼を殺した奴に災厄が来る。だけど、わたしの家は特別でね——わたしを殺したら世界に災厄がくるの。だから注意してねーん」
軽い。軽かった。お嬢はとても軽かった。だが、それにも理由がある。その理由とは——信頼だ。お嬢は信頼してるのだ、あかりと、月子のことを。だから、そうやってはっきりと笑っていえる。
家族も同然の中だから——。