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Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-七 ( No.74 )
日時: 2008/09/01 12:28
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

八話 [ 宙に咲いた赤い花 上 -再会- ]

 あかりはパチンと手を合わせていた。目の前にあるのは、『祭風家之墓』とかいてある墓石。まわりにも『香谷家之墓』などとかかれた墓石がたくさんあった。
 さすがに自分が殺した人間といえどもお父さんはお父さん。やはりたまには手を合わせてあげないといけない——そう思い、たまにここに来ているのだ。ふと

墓石の右を向けば、そこには枯れた花がしんなりと花瓶に入っていた。わたしはそれを見て、左右の枯れた花をとって、道に置く。それからお父さんの墓石のま

わりの石段の隅に黄色の花が咲いていた。わたしはそれを見て、それを取り、また新しく花瓶に入れた。



 大嫌いだよ、クソヤロー。
 娘は父のことを、愛するものだけど、わたしは違う。わたしは父を憎んでいる。
 永遠に、心の底から、お父さんを憎んでいます。



「あ…淺川 涼太郎(あさかわ りょうたろう)……」

 絶句。
 あかりは絶句していた。今日の人狩りのターゲットの名前が書いてある紙を見て——。
 淺川涼太郎はお父さんの友達。良く家に来てたし、自分の顔も知っている。まさか、ね。
 あかりはふぅとため息をついて、閻魔大王の飛ばしたターゲットのところに行くための乗り物の八咫烏にささやいた。

「行きましょう」

 なぜだろう。別に嫌いな人ではない。なのに、あかりは不安で胸がいっぱいだった。なぜ、なぜだろうか——。
 少し進んだところで、八咫烏はわたしを下ろしてくれた。
 廃工場らしい。だがちゃんと形はなっていて、ちゃんとした廃工場だった。風があかりの背中を押し、あかりはその廃工場へ入ってみた。まず入って気が付い

たことは、ずっと奥の部屋に明かりがともっていること。その部屋から漏れている明かりが、今まで暗い空を飛んでやってきたあかりの目には強すぎて、あかりは

目の上に手を当て、目元にあかりが掛からないようにしてあかりは周りを見た。
 金属バットにロープ。ふと床をみると、そこには血痕が残っていた。もう黒いので大分前の血痕だと思う。あかりは、右手で軽く持っていた青の飾りが付いた釜

を両手でぐっと力を込めて持ち、奥の部屋へと歩いて行った。わざと、足をならして。
 そおっとその部屋を扉の隙間から見てみた。職員の休憩部屋だろうか? テレビにちゃぶ台。小さな棚があり、その中には白のガラスのコップがあった。そし

てそのちゃぶ台に両腕を置き、テレビをじーっと見ている男が一人居た。あの寂しい頭。あれは絶対的に淺川だった。やはり何度か合っているため、特徴などは

覚えていた。

『でー、それで俺が声かけたらな——』

 テレビでは今お笑い番組を見ているらしい。
 だが、面白いことをいっても淺川は笑わない。それと同じに、動かないのだ。あかりはそれに気づき、扉を思いっきり開けて淺川の左肩を自分の右肩で掴み、

こちらへ向かせようとそれをひっぱった。

 顔が、ぐちゃぐちゃだった。

 目の上ははれ、鼻はひん曲がって鼻血がたれている。口はさけ、頬は林檎のように赤い。そして——この遠い目。——死んでいた。良く見ると首筋には一本

ナイフで切った様な傷後があった。これで、死んだのだろう。だが首筋の傷からは、血が出ていない。なぜ?
 とりあえず、まず淺川は何者かにでっち上げられ、ここへつれてこられた。またはここでやられた。そこで、その何者かに殺され——、

「だれ?」

 声が聞こえた。足音が聞こえた。こちらへ向かってくる——。
 あかりは恐る恐ると声が、足音がした方を向いた。
 それから、絶句。
 だって目の前には——、

「あ……あき、かさ——」

 秋傘 聖がいるのだから。
 秋傘はにこっと笑い、あかりに言う。

「よっ!」
「あ…や……」
「転校したって聞いたけどさぁ、まだこっちに居たんだな。久しぶり!」

 何も、変わってなかった。黒髪で、ところどころはねていて、そしてその綺麗な微笑み。久しぶりの再会。会ってはいけない人との再会。他の人には見られてい

けないところで、会ってしまった大切な人。どうしよう、どうしよう。
 秋傘の顔を見て絶句して、ふと秋傘の右手に目を向けた。秋傘の手には、赤く汚れた金属バット。なにこれ。なんだこれ。
 あかりは右手に持っていた鎌を構えて、秋傘の顔を睨む。秋傘はひとまず驚き、それから右手に持っていた汚れている金属バットをちらりと見て言った。

「分かっちゃった?」
「——その赤い汚れは、何?」
「血。そこに居る、おっさんの血だよ。血ぃ」

 それが当たり前だと言うように秋傘は笑って言った。それからあかりが持っている鎌を見て、微笑みながら言った。

「お前だな。最近ここらへんで起きてる『死神連続殺人事件』の犯人は」
「うん。そうだよ。じゃあ秋傘は——親父狩りの犯人だね」

 親父狩り。会社などから帰ってくる親父。と言うかおじさんたちをバットなどで殴ったり脅したりしてお金を奪って逃げる。それが、親父狩りだ。そう言えば最近ニ

ュースで聞いたことがあった。最近この門蔵町で親父狩りが多発していると…自分たちがやっている魂狩りと同じように。
 秋傘は金属バットを構える。それから、あかりと同じようにあかりを睨みんだ。あかりはそれを見て、秋傘に問うた。

「貴方も、殺さなくっちゃいけない。わたしたちは見られてはいけないの。そう言う風に、主犯者(閻魔大王)から言われてるから」
「俺たちもさぁ、見られたらヤバいんだよね。警察に通報されちゃったら、終わりだから」
「ふぅん。分かった。じゃあ殺しあおう」
「かけるものはもちろん命なー」
「命を消しあうのが殺し合い。さぁ、来なさいよ」

 本当は、やりたくなかった。なぜ友達一号を殺さなければならない? 大好きだったのに——。入学式の時、桜が散る中一人で校門を通っていたときだった。

肩をぽんと叩かれ、振り向いたらその肩を叩いた手の人差し指が自分の頬をぷにっと押した。それから、その手の持ち主の顔を見た。それが、秋傘だった。秋

傘はあははは……と腹を抱えて笑い、自分にこう言ったのだ。

『お前、今日から俺の友達な…ぷくく……おっもしれぇ』

 それからだった。全ては、それが始まりだった。小学校の頃から一人ぼっちだった自分にとって、秋傘の存在はかけがえのない、なくしたくない存在で、大好きだった。もちろん友達の意味で、だ。
 秋傘は嗚咽を上げてわたしに向かって走ってくる。

 ガキィンッ!

 金属バットと鎌の刃がぶつかり合う音が門蔵長に響いた。