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Re: あかりのオユウギ弐 -吸血鬼伝説- 弐-八-上 ( No.77 )
日時: 2008/09/02 22:50
名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。

八話 [ 宙に咲いた赤い花 中 -両思い- ]

  なんでこんなことになってしまったのだろうか。



 ギギギギギ。
 金属バットと鎌の刃が擦れ合う音が響く。ギギギ——そこで秋傘が金属バットを下へ引いて、あかりは体制を崩す。秋傘はそこで一歩二歩と身を引いてから、倒れる寸前で左手を地面に突き出して倒れるのをふせいだあかりに言う。

「……そんなに力あったっけ?」
「あった。お米がいっぱい入っていた袋を毎月もってた私には軽いもの。だけど、そうやられると防ぎようがないね」
「じゃあ左手潰すか?」

 秋傘は金属バットをこちらに向けて言った。あかりはそれを見て鎌を構えて言った。なぜだろう、男の子と力が同じで、秋傘とああやって組み合う打なんて——自分にも、力が出てきた。そう感じた。それから鎌を構えるのをやめて、鎌を左手にうつして、右手を閉じたり開いたりした。それから鎌を右手にうつしてまた構えた。それから、秋傘を睨んで言う。

「やめてくれると光栄だね——あ、ごめん。すぐ終わらせたい」
「殺し合いを? OKー。すぐに終わらせようぜ」
「わたしは『秋傘が死ぬ』にかける」
「急に何言ってん——じゃあ俺は『あかりが死ぬ』にかける。さぁ、殺しあおう」

 やだ。イヤだ。嫌だ。なぜ、閻魔大王は『人狩りをしている最中。または鎌を持っているところを見られた場合、見た奴を世界から排除しろ』と言ったのだ。なんと言う、絶望的なことだろうか。
 だが、やらなくてはいけないのだ。殺さなければいけないのだ。それが、宿命運命定め未来に繋がること。未来で牢屋の中にいたらそれは秋傘を殺すのと同じくらいに絶望的だろう。
 俯いて考えていくと、秋傘の金属バットが風を切る音が聞こえた。——避けれない。時間が足りない、腰が折れて——死んじゃう。死んじゃう。死んじゃう死んじゃう——。

 カチリ。

「あ——」

 瞑っていた目を開け、しんみりと感じる金属バットの冷たさを感じ、その金属バットに目を向けた。——金属バットが、腰に当たっていた。それから、動かない。ふと前をみると金属バットを両手で握って、狂ったような目で歯をかみ締めて止まっている秋傘がいた。



 時は止まらないのです。だから、わたしたちは自分で自分の身を守るのです。

 違った。違ったよ、先生。
 連続殺人事件がこの門蔵町を中心として起こっていた時のこと。月曜日に必ずある朝の朝礼で校長先生がそう言ったのだ。
 だけど、違った。違ってるよ、先生。死にたくないと願えば、本当に死ななかった。けどこれは、自分が特別だから時が止まったんだと思う。きっと、きっと——。



 とりあえず秋傘が持っていた金属バットは、没収で遠くへ投げた。もちろん時間は止まったままだった。廃工場に丁度あった五メートルくらいの長さのロープで秋傘の手、足を縛り、今は自分の膝の上で目を瞑って動かないでいた。
 秋傘は時間が止まっていると知らない。そして、秋傘は自分を殺せたと認識している。『時間が止まってしまって自分を殺せなかった』と言う事で、今はせめてもの気持ちで自分の膝の上に頭をおかしている——膝枕をさせてあげてるのだ。

「なんで……だろ。なんで、時間が止まってるんだろ」

 そんなの、分かりはしない。ただ、ただとても卑怯な『勝ち方』をしたなぁと思い、そう静かに呟いたのだ。
 それにしても、時が止まっている世界は不思議だった。歩いても足音はしないし、近くの海の音も聞こえない。車が走る音も聞こえはしない。まるで、世界が固まっている様だった。止まっているんじゃなくて、一時的に固まっている。——そんな世界で、わたしは秋傘の髪を撫でた。跳ねている髪を触った。そしたらその跳ねている毛は動かず、やはり固い。固まっている、世界。世界は今固まっているのだ。なんらかの衝動で、だ。
 それからわたしは言った。前向きに言った。時間が固まったのが自分の死を妨げるものならば、その自分が今平気。なら、もう時間は動いてもいいじゃないか。だから、大きな声で呟いた。

「時間よ——」

 運良く空気中の気体が固まっていないこの固まった世界で。

「動き出せぇ!」

 それは、命令。
 卑怯な手で生き残った自分の、命令。
 そして固められた時間は、動き出した。
 秋傘は目を開け、まず動揺する。

「——あれ、俺……」
「秋傘、ごめんね。わたしってば、卑怯者だよ。ごめん、ごめん……ごめんなさい」

 本当に悔しかった。秋傘を殺さなければならないと言う絶望的なことと、正々堂々と秋傘に勝てなかったと言うこと。二つは混じり、徹底的に自分の心を傷つける。それは、なぜだろう。
 いつも一緒に居た親友を殺すことになり、卑怯な手で捕まえるのはとても卑怯なこと。だけど、それ以前に自分はこんな事で悲しまないと思う。今まで散々に残虐を行ってきた自分。身内も一人殺し、結構好きだったおじさんが死んでいるところも見た。だか、涙なんて出て来なかった。それなのに、今、秋傘を卑怯な手で捕まえたことで、ぽろぽろと涙が零れる。大粒の、しょっぱい水。
 秋傘はそんなあかりを見て、薄く笑いながら言った。

「何があったのか知らないけどさ、もう運命は決まってるだろ?」
「——嫌だもん。友達を殺すなんて嫌だもん」
「でも俺はそれを心構えてお前と殺しあうことを決めた」
「なにも分かっちゃいないよ、秋傘は。だって、だってさ——」

 自然と涙が出る。ぽろぽろと涙が落ちる。

「秋傘と、離れたくないんだもの——ううん、秋傘が、好きなんだもの」

 きっと、この涙はそれのシルシ。ずっと、ずうっと気づかなかった。秋傘と一緒に居る毎日が楽しくて、気づかなかった。だけど、今、ちゃんと気づいた。ちゃんと、気づいた。

「好きって、分かったの! 今、今分かったの」

 そして自然と涙は止まる。目が少ししょぼしょぼする。恥ずかしい。秋傘と話すときって、こんなに恥ずかしかったっけ? きっと恥ずかしいのは、秋傘を思う気持ちが変わったから。
 あかりの告白を聞いて、あかりの膝の上に置かれている頭を少し浮かして、秋傘は言う。

「ああ、分かった。俺も——ね」

 それは、困ったような顔。

「でもさ、もう俺は終わる。時間は止まらない。さぁ、やれよ」

 それは、覚悟を決めた秋傘の真剣な言葉。
 あかりはそれを聞いて、膝に乗せていた秋傘の頭を地面に置き、地面へと置いておいた青色の飾りが付いた釜を構えた。鎌の先っぽの刃を、頭に刺す。
 あかりは片手で頬を通った涙をごしごしと拭いて、また両手で鎌を構えた。静かな廃工場の前で、あかりは鎌を大きく上へ上げた。
 真下にいる秋傘の顔が、にかっと笑う。すでに鎌は秋傘の顔へと下がっていた。そんな所で、秋傘は言った。


「大好き」


 秋傘の額に、鎌の刃が五センチほどめり込んだ。