ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: あかりのオユウギ弐 -怪物の町- 弐-八-下 ( No.94 )
- 日時: 2008/09/07 19:22
- 名前: ゆずゆ ◆jfGy6sj5PE (ID: nc3CTxta)
- 参照: 魔法の使えない魔術師は魔術師ではありません。
九話 [ 夜の支配者三人組-今日も明日も笑顔でいたいね- ]
今日もまた、三人一緒に空を飛んだ。
皆、楽しそうで、皆、笑ってた。
◆
「——死んでください」
人を殺す、快感。そんなの感じない。だけど、以前見たことがあった。八咫烏が降ろしてくれた所を前へ十歩くらい歩いたところでターゲットが眠っていた。だからすぐに鎌を振り下ろして仕事を終了した時のことだ。八咫烏にお願いしてあかりのところまで飛ばさせてみらった。そんなときだった。
『くっきゃきゃきゃきゃきゃ』
あかりは笑ってターゲットをしとめていた。本当に、死神の様だった。そこで月子はまた八咫烏に言って、普通に家へと帰った。
あかりは笑っていた。だけど、自分は笑えない。
月子は自分の姉のせいで感情を失った。笑うこともできず、泣くことも、苦しむこともできない。ましてやそれとおまけで『無痛症』になってしまった。感覚と感情を失った月子は、何も面白いとは思わない。背中にナイフを刺されても、何も感じない。
「……今日も、仕事終わっちゃったな」
ターゲッチトの首をごつんと蹴り、月子はその首を見つめた。
目は開けたままで口からは少し赤色の泡が出ている。人間はもろい。だから虐げられる。だから——、
「感情がなくなる」
月子はそう言ってまた首をゴツンと蹴ってから口笛を吹いた。すると八咫烏がこちらへやって来て、地面へと降りる。月子は鎌を八咫烏がつけていた布の紐でお腹あたりで縛り、背中にまたがる。
「——あなたは、ちゃんと泣ける?」
月子は八咫烏のもわもわと生えている毛の中に顔を軽く押し付けた。これは一種の——甘えだろうか?
◆
あかりは、今日は一段と早く仕事を終わらせていた。
飽きたのか、疲れたのか、眠いのか。あかりはぼーっとしながら死体に鎌を刺したり抜いたりしていた。
「……」
そして目をごしごし擦る。やはり眠いのか。
あかりは口笛をぴゅーと吹きながら、鎌を上げ下げする。死体はもう死んでいる。死体はもう動かない。だけど死体を殺し続ける。
上げ下げ上げ下げ上げ下げ上げ下げ——真ん中で止まり、降りてきた八咫烏のものへと走る。それからゆっくりと時間をかけて鎌を八咫烏に縛りつけ、ゆっくりと時間をかけて乗る。
「……うー」
それはまるで子供の様にあかりは八咫烏の上で目をごしごし擦ってから——眠った。
◆
『大事なとこで、ねぇ邪魔を——』
お嬢はもう家に帰って大好きなアニメのエンディングを見ていた。
左手をグーにしてマイクに見せかけ、そのエンディングを歌って、もうノリノリだった。
「まさにぃ手と手が触れたぁ瞬間ーほらちぃっちぃっち——」
途中で踊るのと歌うのをやめて、床に置いておいたお酒が入った白いグラスを取り、がぶがぶ飲んでからそれをまた床に置いて歌い始めた。
「わん、つぅ、すりー、フォー!」
時刻は午前三時を超えているにもかかわらず、お嬢は近くの家のことも考えず歌う。
「っモード、ひそひ——」
「お嬢五月蝿い!」
最後の歌詞のところでようやく返ってきたあかりが、お嬢が今居る部屋の扉を開けて叫ぶ。するとお嬢は拗ねたようにあかりに向かって言う。
「むー……やだなぁあかりちゃん! 最後の最後のシメを——お嬢号泣だよ」
「泣いてないくせに……って言うかお酒臭いよお嬢!」
刹那に鼻をつまむあかり。すると、あかりが勢い良く開けた扉から月子がやって来て、すんなりとお嬢のところへ行ってお嬢の肩をがっしりと握り、呟きながらお嬢をひっぱっていく。
「お嬢、お風呂入りましょお風呂」
「えーやだよ、一人で灰ってよ月子ちゃん」
「さぁさぁあかりさんもほらほら早く」
何気に月子は甘えん坊——と初めてしった時であった。
あかりはひとまずきょとんとしてから、部屋から出て行ってから右手をひらひら動かして自分を呼ぶ月子を見て、あかりも部屋から出て行った。
「良し、今日は三人で寝ようね」
二章、完